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エレメンタル・バスターズ  作者: 春奈
第01章 時ノ存在理由
7/11

第2日目 エルシオン

 罪とは何だろう?

悪とは何だろう?

 何が悪くて、何が良いのか。

それを決めるのは誰だろう。

 木々の葉の隙間から、じりじりと照っている太陽が暑い…。

制服は水だか汗だか解らない液で、びしょびしょだ。

川へ飛び込んだのは良かったものの、その後のことを全く考えていなかった佐熊さくまこと俺は、

先ほどの飛び込みを後悔しつつ、びしょびしょになった携帯を見詰めながら思った。

(防水携帯でよかったぁ~…。)

そんなことを考えながら、道と言って良いのかどうか解らないような、雑草の生い茂った道を

先ほど川で劇的な出会いを果たした女性と俺は、3分くらい歩いていた。


 俺は携帯を制服のブレザーの、前ポケットに入れてふと顔を上げて女性の後ろ姿を見た。

サラサラな茶色のショートヘアが、時々吹く微風そよかぜで優しくなびいていた。

白いワンピースに、白いエプロンを腰で結んでいた。

髪が短くて少しボーイッシュに見えるが、とても女の子らしい服装だった。

 この暑い、気温38℃くらいはありそうな森の道を

清々しい後ろ姿で、汗も全くかかずに凛とした姿は、とても人間だとは思えない。

 すると俺は、女性が先程言っていた"ここは天国よ?"と言う言葉を思い出してみた。

("ここ"が彼女が言ったように、天国だとしたら彼女は死んでいるって…こと…だよね?

ま、まぁ俺もだけど…)

 

 そんなことを、歩きながら点々と2分くらい考えていたら女性がふわりと後ろに振り返って

可愛らしい笑顔で言った。

「今更なんだけどさ、君、名前何て言うの?あ、私はね、ディルネ・リリスって言うの。」

(あ、やっぱり外国の人だったんだなぁ。髪とか茶色だし、目とか何かスカイブルーだし。)

「えと…、すみません。まだ名乗って無かったですね。俺いや…僕は、筒巳つつみ 佐熊と言います。」

 すると何故だか女性は、小難しそうな顔をして首をかしげてみせた。

「ん~、何だか変わった名前ね?…まぁそれは置いといて。ようこそ少年よ!

エルシオン城下街に到着でーす♪」

 え?と思った俺はリリスの後ろを、そぉーっと覗き込むように恐る恐る見てみると。

光が眩しく差し込んでいて、もう少し前に出てみると45cmくらいの煉瓦れんがの壁に囲まれた街が見えていた。



真っ白な煉瓦仕立ての街で、壁はもちろん家やお店も全て煉瓦で出来ていた。

街の住人達が着ている服も、白い服ばかりで、お城の騎士のような者達も

真っ白い鎧に包まれていた。

お城は、二段ベッドの二段目みたいな所にあり、そこは街よりもさらに厳重に守られていた。

真っ白い大きな壁に、頑丈そうな真っ白い門があり、街を監視するような塔が、正面に

2本建っていた。

お城は、その大きな壁と門によって全く見えなかった。


 真っ白い物だらけの、この街を見ると何だか神々しさが感じられた。

無人島やら外国やらを通り越して、天使の住む街のようだった。

 そんな中、俺だけが黒い制服に身を包んでおり、黒髪に黒い瞳。

こんなにも真っ白な街に行けば、何もせずとも目立つことは間違いないだろう。

 そんなことも気づかずに、俺は目をキラキラと輝かせていた。

「うわぁ~!すごい真っ白~!信じられないけどすっごーい!!」

 子供のように、はしゃいでいた。

リリスは、そんな俺の前に立って、腰に両手を当てて「えっへん」と自信満々に

「すごいでしょ~!私も最初ここへ来た時は驚いたわ。何だかあなたを見ていると少し前の

私みたい。何だか新鮮な気分。」

と言って、「ふふふ」と笑ってみせた。

 そしてリリスは俺の手を掴んで、「さぁ行こう!」と言った。

それに俺は胸を高鳴らせて、「はい!」と勢いよくうなずいた。


 森から抜けた爽快感と、何だか新鮮な街の雰囲気。

手を掴んでくれている真っ白いリリスの手が温かくて、何だか安心した。

森から出たことで、暑さが増したはずだけれど、何だか不思議と暑さを感じなかった。

一時だけ、悩み事を忘れて俺はリリスに身を任せたのだった。


 街に一歩足を入れたら、俺は何だか身体が一瞬硬直した。

動きが止まった勢いで、リリスは手を離した。そして後ろを振り返って首を傾げた。

「・・・?どうしたの?」

 俺は驚いた顔をしながら、自分の手を見詰めながら言った。

「あっ・・・いや、今何だか身体が・・・?」

俺は喋りながらゆっくりと顔を上げると、気がつけば街の人達が俺を鋭く睨んでいた。

それに何だか怖くなった俺は、一歩後ずさりした。

未だにリリスは不思議そうな顔をしながら首を傾げていた。

 リリスの後ろでは、お城の騎士と思われるような二人が険悪そうな顔を見合わせながら話していた。

騎士は話終えたかと思うと、俺を怖い顔で睨みつけながら、ゆっくり歩いて近づいてきた。


本能的に逃げたくなる場面に直面している事は理解出来ているが、騎士たちの気迫に押しつぶされ

身体が動かなかった。

 そして、ざわざわと聞こえて来た街の住人達の話し声。

(黒髪に黒い瞳・・・怖いねぇ。)

(まさか本当に悪魔とか?)

(まさかぁ。悪魔でも黒髪に黒い瞳は特別ランクなのよ?)

(ははっ、それじゃあアイツは"悪魔の王様"か?)

(それより…リリスよ。何であのリリスが悪魔みたいなのと一緒にいんだい?)

(騙されたのよ。アイツに。黒髪に黒い瞳なんて悪魔以外の何者でも無いわ。可哀想にリリス。)

(まぁ!じゃあ、あの男は本当に悪魔なのねっ!?)

(まさかこんな所まで来るなんて…怖いわねぇ。着ている服も真黒だわ)

(速く滅びないかなぁ、アビス。)

(こら!そんなこと聞こえていたらどうするの!?あぁ、恐ろしいっ!!)

 胸の鼓動がバクバクと高鳴っている、それは先程の高鳴りとは全く別物の恐怖だった。

怖い、怖い。悪魔やらアビスやら意味の解らない言葉が脳を行き交う。

 そしてリリスまでもが、住人達の疑心暗鬼ぎしんあんきで疑われたり、哀れに想われたり…。

街の住人達が次第に殺気溢れる眼差しや、恐れを抱く眼差しを俺に向けた。

 

 突然のことで腕や足が、ガクガクと震える。人が怖い。ここは怖い。自分が一体何をしたと言うのだろうか?

リリスが住人達の話声を聞いて、顔を真っ青にして住人達の傍へ駆け寄って行った。

「うそでしょう?」とリリスは住人達へ問いかけたが、住人達は無言で目も合わせなかった。

 俺はただ嫌悪と言う名の憎しみに近い空気に押し殺されていた。

騎士はとうとう俺の目の前まで来ていた。

 そして騎士は、重い声色で言った。

「城まで来てもらおうか?」

身体の体温が、ガクンと一気に下がり再び元に戻る感覚。とても気持ちが悪い。

吐きそうな気分だ。鳥肌が立ち、震えが止まらない。

 騎士に腕を掴まれて、手錠らしきモノをけられそうになった次の瞬間。

俺は咄嗟とっさに騎士の腕を弱々しい手で弾いた。

 すると、騎士は物凄い怖い顔をした。

「貴様ぁああ―――――!!!」

 体がビクリと跳ね上がる。

大きな強い声で叫び、再び俺の弱々しい腕を思い切り強く掴んだ。

「ぃった…いっ。っ――!俺が一体何をしたって言うんですかっ!?」

思わず俺も震えた声で叫んだ。

 だが、そんな叫びにも動じずに、ガシャリと手錠を俺の手首につけた。

「白々しいな。黒髪に黒曜石のように不気味な黒目!疑いもしない、お前はアビスの王だろうッ!」

一瞬、俺は哀咽あいえつのあまり口を噤んだ…が、訳も解らないことを言われて黙っていられるわけが無い。

 今度は強気な目つきで騎士を睨みつけ、俺は言った。


「何を言っているんだ!?俺はアビスの王とやらじゃないッ!!人違いだ!それに黒髪に黒目

なら日本に行けば、いくらでもいるだろう!?」

「黙れ!悪魔がっ!にほん?そっちこそ寝言は寝て言うんだなッ!」

 俺は息を荒立てながら口論したが、騎士は一方的に罵声を浴びせた。

騎士は話を聞こうともせずに、俺の手錠になわをつけて、それを勢いよく引っ張った。

「ぅ、うわっ!」

ゴツン!と前に綺麗に転んだ。

頭を強打し、足と顔をりむいていた。

 けれど、そんなことはお構いなしに騎士は、縄を引っ張って城へと向かっていったのだった。

ズリズリと俺は引きずられて、顔がレンガの地面に引きずられていたので立とうと思ったが、

騎士の歩くスピードがそれなりに速いせいで立ち上がれず、しょうがなく仰向けになった。

 背中がゴリゴリと痛んだ。痛みに耐えながらも、横目で住人達やリリスのことを見たが、目を合わせてくれなかった。

(うぅ…背中が痛い。地面熱いし…。これは夢なのかな。いいや、絶対夢であってほしい…。

…何だか眠い。すごく眠気が…。)

俺はゆっくりと薄れ行く意識の中、夢であることを祈りながら気絶したのだった。



 天国から地獄へと突き落とされたかのような絶望感。

人から見放されたと言う悲しみ。今更気づく孤独。

誰も優しい眼差しでは決して見てくれはしなかった。

『天国』『悪魔』『アビス』『アビスの王』俺は知らないことが多すぎた。

滲み出る汗、背中の皮が少しけて血が滲み出ている。

恐怖と絶望と孤独が、俺を襲う。

身体は未だに震え続け、何故だか目頭が熱く感じた…。




 一方、どこか真暗い部屋の片隅。

大きな椅子に座りながら、四角い液晶のようなモノを見詰めて微笑む者がいた。

表情をピクリとも変えずに、不気味に微笑み続けながら液晶の中の映像を観ていた。

(やっと…やっと、変化が訪れたか。嗚呼、だけど可哀想になぁ。悪魔と間違われちゃって…。

痛そう…♪クスクス。まぁ変化が訪れたことを観れてよかった。日頃エルシオン観察を

していたのが正解だったな。それにしても黒髪に黒目かぁ、興味深い。是非、時が動いたのなら

招待したいものだな。だがどう観てもこのやさおとこが"時"を動かせる

勇者になるなんて全く思えないな。やっぱ天使長サマサマに殺されて、そして時に飲み込まれて、

バッドエンド…か。クスクス。ん…いやちょっと待てよ?コイツらの行動…いつもと違う?

否、難しいことは捨てておくとしよう。クスクス。)

 

 そして彼は満面の笑みで、言い慣れた言葉を感情が籠もっていない声でとなえた。

「…今日も変化ナシかぁ。何か面白いコトないかなぁ~!例えば天使長サマが死ぬとか♪クスクス。」

時計は歯車と歯車とが噛み合って動くもの。

なら、時は何と何とがあって動くものなのだろうか?

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