第1日目 寸陰を惜しむことなり
どんなに些細な時間でも、お大事に。
――進んだ時間は"2度と"戻りはしないから。
ぞろぞろと下校時間か、列を成して歩く学生たち。
春が終わりを告げようとしている梅雨の季節。
むしむしとした暑さと、湿ったかのようなジメついた匂い。
簡単に言えば日の元に出せずに、濡れている状態の洗濯物のような匂いだ。
俺、佐熊は両耳にイヤホンをつけて、音楽プレイヤーを右手で操作した。
音量は5。風が吹くと、テレビの砂嵐のような雑音が混じった。
駅のホームに着き、少し距離のある階段を。
コツン…コツン…と登っていく。
1回だけ小さく溜め息をつくと、丁度電車が来ると言うナレーションが流れた。
{~まもなく電車が参ります。黄色い線の内側でお待ち下さい~}
眠そうな顔をしながら俺は電車に乗り、20分くらい電車に揺られた。
電車の中では立っている人は前を向いて、景色を眺めていることが多い。
逆に座っている人は携帯を見たり、自分の足元を見たりして、視線を下に向けている所をよく見る。
『何故だろう?』
そんな些細なことを、俺はボンヤリしながら考えてみた。
結局人は、人を自然と嫌っているんでは無いだろうか?
余計な所を見なければ、面倒事に巻き込まれない。
けれど、そんな人達の中にも良い人はいるはず。
実際この電車に乗っている人達は、大体は良い人ではないだろうか?
――ただ面倒事に巻き込まれたく無いだけ。無責任なだけ。
そんな事を考えていたら、電車が目的地に到着した。
俺は『何考えてるんだ、俺・・・』と思って、眠りそうになった目を擦って
電車を降りた。
駅の改札を出て、駐輪場にある自分の自転車に乗って、第二目的地の『サタンスーパー』へと向かった。
――ウィーン
と音を立てて自動ドアが開くと、涼しげな冷気が体を包んだ。
夏に友達の家に遊びに行ったり、スーパーまたはデパートに入る時に良くある事だ。
冷房の効いた室内。室内を出ると蒸し暑い外…。まるで天国と地獄ではないか・・・。
サタンスーパーで俺は卵や、お弁当のおかずになるような冷凍食品を買い物籠へと入れた。
サタンスーパーは、1階建ての中規模なスーパーだ。
お弁当売り場、魚売り場、肉売り場に端っこのスペースに小規模な本屋さん。
そして俺は、一通り買い物を終えると。なるべく空いているレジへと並んだ。
レジの傍には、ガムやグミ。飴の入った小袋。
俺は、何となく反射的に1番好きなレモン味のグミを1つポイッと籠に入れて、精算を済ませた。
そして、買い物袋を右手で持ちながら外へ出ると…。
ぶわっと、生温い風が髪をなびかせた。
(まだ6月だって言うのに、何でこんなに暑いんだろうなぁ?)
そんなことを俺は思いつつ買い物袋を自転車の前カゴに、ゆっくり置いた。
自転車に乗り、帰ろうと思った時。
「ピヨピヨ…ピヨピヨ…」
と、ヒヨコの着信音と共に携帯が鳴った。
背中に背負っていた黒いリュックサックを背中から下ろして、膝の上に乗せたまま
リュックサックの横に付いているジッパーから携帯を取り出した。
(ん…?凛からのメールだ)
|From:凛
|Subject:お疲れ!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|もう家に着いたかな?
| 私は今ピアノの練習終わったよ♪
|
| えっと、それでね。7月21日にある
|夏祭り何だけど…。一緒にどう?行かない?
|ダメならダメで大丈夫だからね(;・Δ・)
|
| それじゃあ、妹の癒恵ちゃんにヨロシクね♪
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(お祭りかぁ。あの生真面目な凛が…、珍しいなぁ。)
俺はそんなことを思いつつ、頭の上でピンポーンッ!と電球が点いた見たいに
「あっ!」と言って手を1回叩いた。
(これって、もしかしてチャンスじゃないか!?うんうん、きっと凛が俺に興味を持って!)
俺は次第に顔をニヤつかせていった。
そして携帯メールの返信ボタンをピッ!と押した。
|To:凛
|Subject:Re:お疲れ!
|Text:
|凛もお疲れ!
| 家にはまだ帰ってないよ。
|ちょっと近くのスーパーで買い物して来た。
|
| それと夏祭りの件。
|丁度暇だし、行けるよ。
|
| 癒恵にもちゃんと伝えておく。
| それじゃ凛も早く帰りなよ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(送信っと!よし!帰るか。癒恵も帰ってる頃だろうし)
パチンと携帯を閉じて、黒色のリュックサックに携帯を入れて、再び背負った。
未だに顔をニヤつかせながら、俺は家路についたのだった。
梅雨の夕焼け
――真っ赤に染まる景色。
少女の孤独。彼女はまだ一人ぼっち。