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エレメンタル・バスターズ  作者: 春奈
第00章 時ノ秒針
2/11

第∞日目 二度と来ない朝

これは…エレメンタル・ワールドの過去のお話。

当時、エルシオンとアビスが戦争をする頃の"少女"のお話。

遠い昔…天国エルシオン地獄アビスでは、小さな意見の食い違いで

険悪な雰囲気を漂わせていた時代。

 その頃、天国エルシオン地獄アビスの間にある地上では

険悪な雰囲気など知らず、日々を楽しく過ごしていた。


―――時に天国の怒りのせいで、天から皮膚を焦がすようなようがんが降り注ぐ時も合った。


―――時に地獄の憎しみのせいで、地から気をも惑わす空気どくが噴き出て来る時も

あった。


 けれどもその地上で暮らす人々は負けなかった。

『大丈夫…きっとまた平和になるさ』と自分に言い聞かせながら。


 けど、平和なんて来る事は無かった…。

 永遠と言う命を持つ天国と地獄に住む住人達にとって、1年なんて

数秒のことだったのだ。

地上で住む者達が、ほんの数秒苦しむくらい気になどしなかったのだ。


 そんな憎しみと怒りが飛び交う地上に、望まれて生まれ、愛されて生きている少女がいた。

その少女は、物心ついた時から

『ずっと平和な世界で、ずっとパパとママと一緒にいられますように!』と天に祈りを捧げていた。

 けれど、そんな想いとは裏腹に―――・・・




 太陽が沈み、月が昇り、少女はいつものように外へ出て、地に足をついて祈りを捧げていた。

そんな時―――!

天から無数の赤く煌く(きらめ)塊が、降って来たのだ。

 家の窓から少女を優しい瞳で見つめていた、男性がその塊に気づき、少女の元へと急いで向かった。

そして少女の腕を強く掴み、『早く家に入りなさい!!』と怖い顔をして焦りながらそう言った。

少女はそれに驚いて、急いで家に戻った。

家に入った途端に、怯えて顔を歪ませている少女の母親が強く少女を抱きしめた。

そして何度も『大丈夫よ…大丈夫よ…』と呪文でも唱えているように言っていた。

 その腕は小刻みに震えていて、少女は人間の本能的に恐怖を憶えた。


 遂に、赤い塊が地へと降り立ち、家々は燃え盛っていった…。

ある者は『熱い!熱い!!』と叫びながら走り回っていたが、直に塊に押し潰されて逝った。

ある者は『怖いよぅ…怖いよぅ…』と言いながら傍らに横たわる死体ははに問いかけていた。

 気づけば少女の家も、真赤な炎に包まれていた。

怖い顔をした男性、父親が少女と母親の腕を強く掴み立たせ『逃げるぞ!早く!』と言いながら、

携えた剣を強く握りしめていた。

 少女と母親と父親は逃げた。必死に逃げた。母親は少女の小さな手を強く握り締めて。

父親は1番後ろを走り、少女と母親の背中を守った。

少女は息を切らしながら必死に走った。目頭が熱くなり少女は自分が泣いていることに気がついた。


 友が死んでいく、隣人が朽ちていく、動けない犬や羊や牛や豚が燃えていく…。

少女が一瞬後ろを振り返ると、後ろからドロドロとした赤い液体が迫って来ていた。

逃げた…必死に…必死に。

 けれど少女は気がついた、母親に腕を引っ張られていて気づかなかった事。それは・・・

『―――父親パパがいない。』



―――そして赤い塊が降って来た時から1年後。

無事に少女と母親は逃げ切れたけれど、失ったモノは大きすぎた。

 母親はショックで、あの事件から一ヶ月ずっと泣き続けていたと言う。

けれど少女は、不思議と涙が出なかった。その母親を見ていると不思議と客観的になった。

そして少女は考えた『何故あんなことが起こったのか?』と。

それは1年と言う月日がたっても、解かることは無かった。

 1年の間、他の村や街でも塊が降ったと言う。

遂に、研究者や有能な法術師が集って話し合ったけれど、解決策は出ず。

人達は嘆き悲しんだ。

 けれど少女は不思議と前向きに生きて行けた。一緒に逃げた母親がいたから。

新しい場所でも、すぐに友は出来て大人にも可愛がられた。

 時に大人達の口から『可哀想に…』と言う言葉が聞こえたが、少女は意味が解からなかった。


 そして今夜も少女は強く祈りを捧げた―――。

『ずっと平和な世界で、ママとずっと一緒にいられますように!』と。

 次の日の朝。1番仲が良かった友達が原因不明の病で倒れた。

その友達は、倒れたその瞬間から声を失い、しりょくを失った。

 次の日…、また1人…また1人と倒れていった。

遂に医者までもが病の淵に落ちていってしまった。

 そして病では無い者は、見えないモノに恐怖し、段々と気が狂っていった。

少女と共に逃げた母親も、見えないモノに怯えて、少女に暴力を振るってしまったのだ。

けれども少女は耐えた。だって大好きな人だったから。少女を守ってくれた大切な

―――最後の人だったから…。

 

 朝を…夜を…繰り返す内に、人々は狂って行き、死んで行った。

そして遂に少女と共にいた母親が、手首から血を噴出しながら死んで逝った。

 女性の右手には鋭い刃が握られていた。少女はそれを見てグラリと視界が歪んだ。

母親ママ・・・?』

 

 少女は全てを失った。父親も母親も…。

友でさえも生き残っている者は、いなかったのだ。


――そして、少女は願った。神を呪うような憎しみを秘めた瞳で。

『わたしは"神"が嫌いです。わたしは"全て"が嫌いです。だから死んで下さい』と。

全てを失った少女に迷うことは何も無かった。ただ終焉を待つだけの少女。

その祈りは果たして"神"に届いているのだろうか?

 全てを失った少女は、"神"にも同じ気持ちを思い知ってもらいたいと強く願った。

そんな少女を見つけたのは、教会の神父だった。

 その神父は、優しい瞳と声色で『おいで』と言って、暖かく手を差し伸べた。

少女は冷たい目と声色で、『ありがとう』と言って、1度も顔を合わさずに手をとった。

何故、少女が神父の手をとったかは、不明のまま。

もしかしたら、少女はまだ『光』を信じていたのかもしれません。

 そして少女は、教会で同じ境遇の子達と一緒に暮らすこととなった。

教会は、一軒家をちょっと大きくしたくらいの屋根裏付きの教会だ。

天井の隅には、蜘蛛の巣が幾つか合った。

教会を入るとすぐに、左右に横に長い椅子が4個づつ置いてあって。

目の前には、大きな十字架を手で握り締めている女神像が合った。

その女神像の裏に行くと、そこにはリビングやら、台所、お風呂とトイレがあった。

 

 そして少女の母も父もいなかったが、その生活には温もりが合った。

同じトラウマを持つ子達と優しい神父。少女は次第に笑顔を取り戻して行ったのだった。


 2年後…少女は齢10歳を迎えようとしていた時―――。

その日は、楽しい日になるはずだった。最高の1日になるはずだった―――。

 教会には、少女の帰りを今か今かと待つ神父と仲間達。

帰れば、熱々でちょっと黒胡椒の掛かったローストチキンに、白くて甘い生クリーム仕立ての

誕生日ケーキ。そして綺麗な赤いリボンでラッピングされた誕生日プレゼント。

 

 けれど、天から…地から…現れた悪魔と天使達。

その手には鋭いモノ。怒りに満ちた天使の瞳。憎しみに満ちた悪魔の瞳。

『―――あぁ、彼らは昔の私にそっくりだ。そうか、彼らが私の大切な人を…。』

 少女は燃える教会を見た。少女は教会から出て来る者達が無残に殺されて逝くのを見た。

少女は友を殺している者達を睨んだ。

 再び少女は、あの頃の想いがよみがえった。燃える赤いリボンの付いた箱。

燃える一緒に過ごした教会。

憎すぎて、どうしようも無くて、少女はただ呆然と立ったまま思った。

『くだらない』

 少女はそう思った。すると不思議と少女は笑えて来たのだ。

あぁ、くだらない…くだらない。と少女は狂ったかのように笑い続けた。

 天国と地獄の小さな喧嘩だと言うのに。

何故私たちが巻き込まれなきゃいけない?と少女は思った。

全てを理解し、結論を出した少女は、もう少女ひとでは無くなっていた。

『嗚呼、目の前で人が死んでゆく。嗚呼、目の前で誰かがモガキ苦しんでいる。――滑稽こっけいだ』

 そして少女の後ろには、真っ白い翼を持った狩人が―――…。


 …少女は最後に願った。自分で叶える願いを。

『時が動くから人は動く。感情があるから人は喧嘩をする。だったら無くしてしまえば良い。

私に従え。私の言う通りにしろ。もう何も感じるな、想うな、動くな。そうすれば

"ずっと平和"…だ。』


―――そして時は止まったのであった。

―――全ては少女の想うがままに―――

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