モブ平民の断罪の石は、聖女と勇者に届くのか?
「クローデリア様、大変申し訳ないのですが、今日は店じまいにしたいのですが……」
父がクローデリアに本当に申し訳なさそうに言った。
公爵令嬢クローデリアは、俺ことユウマ・クレイ(平民)も所属する宰相直轄組織「断罪結社」のメンバーだ。
限りなくS級に近いA級冒険者でもあり、「剣聖」に限りなく近い「剣姫」の称号を持っている……らしい。なお、俺は彼女が戦っているのを見たことはない。
うちが鍛冶屋だということで、彼女は素材を持参してきた上で、剣を打ってほしいとやってきたのだ。父の鍛冶屋としての腕は客観的に見てもかなりのものだと思うので、俺も自信をもって紹介した。
「まだ朝なのに閉めるってことは……」
「そうだ、ユウマ。今日は大物の断罪があるみたいなんだ」
鍛冶屋としての腕は確かなのだが、父は仕事よりも趣味の断罪見物を優先する。たとえ貴族や王族が来店していようが、それだけは譲らない。
そしてそれは子である俺も一緒だ。
「断罪結社」リーダーの宰相ジークフリートから今日の断罪の連絡はなかったので、今回は任務もなく、純粋に断罪見物を楽しめるということでもある。
ちなみに俺は一刻も早く「断罪結社」を辞めて、ただただ断罪を楽しむモブ平民に戻りたいと常日頃から思っている。
「クローデリア様、申し訳ないですが、行かないと」
「は? 私の剣は?」
クローデリアが不機嫌な顔をする。しかし、それでも俺は行かなければならない。
「父の腕は確かなので大丈夫です。クローデリア様は父の打った剣で、S級に昇級間違いなしですよ。ささ、行きましょう」
※
王城前広場の断罪台の周囲にはすでに多くの観衆が集まっていた。
俺は不機嫌なクローデリアのご機嫌を伺いながら断罪の開始を待った。
そして、一人の女性が断罪台に登場し、若き宰相ジークフリートが続いた。
観衆がざわついた。
「聖女様だ……」
エリシア・ブランシェ——確か最近聖女になったばかりのはずだ。治癒能力が高く、今度こそ、本物の聖女だという呼び声も高かった。
「今度こそ」というのは、近ごろの聖教会が、聖女の資質がまったくない偽聖女を量産していたからだ。
「聖女エリシア・ブランシェ、あなたとの婚約を破棄します。そして、ここにあなたを断罪いたします」
若き宰相ジークフリートが断罪を宣言する。
……と、その前に聖女と宰相は婚約していたの!?
「あなたは聖女であることを騙り、王国民を欺いた。その罪は重い」
エリシアも偽聖女だったのか……?
観衆のどよめきが大きくなった。
今までの偽聖女と違い、エリシアは王都民からの支持と人気が高い聖女だった。エリシアに重病を治してもらったという者は多く、身分に関わりなく優しく人々に接するその人柄も人気の理由であった。
一方のジークフリートも宰相としての政治手腕と、大きな事件の的確な断罪を行ってきた実績があり、王国民の信頼の厚い宰相だ。
王国の繁栄を担うべき二人が対立してしまっている……
「聖女かどうかは神と人が決めることです。私は聖女として神の信託を受けましたが、人が私を偽物と言うのであれば、致し方ありません」
俺もエリシアが偽物だとはにわかに信じられなかった。なぜって皆があの聖女様は本物だって言っていたから。
「嘘……」
隣のクローデリアが呟いた。
クローデリアも聖女エリシアと親交があったようだった。
「ユウマ、スキルをお願い」
いつもは気の強いクローデリアが、泣きそうな顔で言ってきた。
俺は頷いた。
転生者の俺は、転生時に断罪用のスキルを授かっていた。本来は断罪見物を楽しむ目的スキルだが、真の犯人を見つけられる性能を見出され、俺は「断罪結社」に有無も言わされずに加入させられたのだった。
【スキル:断罪の石投げ】【効果:悪人に必中……スキル使用者の視野内で、設定した罪状に最も近い者が「悪人」とされる。該当者がいない場合は自らに石が向く】
「偽聖女」を断罪することを念じ、俺はスキル発動する。
「断罪の石投げ!」
俺の手から放たれた石は、断罪台に向かう……かと思うと、急Uターンをし、まっすぐ俺のほうに向かい、額に当たった。
とても痛い……が、今回ばかりは嬉しい痛みだ。
「ユウマ自身に当たったってことは、エリシアはやはり冤罪ってことね?」
俺はクローデリアに向かって大きく頷く。
「止めないと……」
いつも安易に俺のスキルで犯人を特定しようとするジークフリートが、今回の断罪に参加させなかったのも気になる。
クローデリアと俺が人混みをかき分け、断罪台に近づこうとしたとき、断罪台に別の黒い影がするすると近づいた。
するとあっという間に、聖女エリシアの後ろに立ち、剣を首もとに突きつけた。
観衆から悲鳴が上がる。
道化師のような仮面をつけたその人物が口を開く。
「我々は『反断罪戦線』——自由と博愛を掲げ、王政府を打倒する組織だ。聖女は断罪させない!」
ジークフリートが後ずさる。あの人は知力に全振りしているから、接近戦は無理だ。
周囲の騎士たちもエリシアを人質に取られた以上、
うかつに手が出せない状況だった。
「我々は『断罪』を許さない。断罪を見せ物にし、都合よく罪を着せる王政府も、それを嬉々として楽しむおまえら観衆どもも許さん」
危険を察した観衆が断罪台を離れ、走って逃げ始めた。
その群れに仮面の人物は入り込み、一緒に走り去っていった。
クローデリアも俺も、仮面の人物を見失ってしまった。
「ユウマ、スキルを!」
俺は「聖女誘拐犯」を断罪することを念じ、スキルを発動した。
「断罪の石投げ!」
石は鋭い弾道を描いて逃げる群衆の頭上を飛び、追い越していき、着弾した。すでにかなり遠くまで進んでしまっている。
「ぜんぜん火力が足りていないじゃない! それじゃあ足止めにもならないわ」
クローデリアが俺を非難するように言うが、俺のスキルは攻撃スキルではない。
俺たちはなすすべなく、その場に立ち尽くすだけだった。
※
仮面の人物による聖女の断罪の妨害後、宰相ジークフリートの号令で急遽冒険者たちが招集されることになった。
聖女エリシアと、彼女を誘拐した仮面の人物を捜索することが目的だ。
冒険者ではない俺は、帰ろうとしたのだが、クローデリアに止められた。
「ユウマも冒険者になるのよ」
そう言うクローデリアの目はいつになく真剣で、殺意すら感じるほどだった。怖くて仕方がなく、自然と俺は首を縦に振っていた。
冷静になって後から考えても、公爵令嬢でA級冒険者のクローデリアが、社会的にも肉体的にも俺を殺すのは容易なはずだったので、断りようがなかった。
そんなわけで王都の冒険者ギルドであっという間にクローデリアが書類をまとめ、ものの10分で俺は冒険者パーティー「断罪の刃」の一員となり、気づけば王都前広場で冒険者として立っていた。
ヤジと石しか飛ばせないのに。
王城前広場に集まった冒険者たちは、見るからに強そうな者たちばかりだった。
「上位ランクの冒険者ばかりだわ。勇者パーティーもいるわね」
クローデリアがぼそっと言った。
「勇者……?」
勇者とか本当にいるのか……もしかしたら同じ転生者なのか?
「こっちに来るわ。面倒なのよね……」
「何が面倒なんです?」
俺がそう尋ねているところを遮るように勇者がクローデリアに声をかけてきた。
「クローデリア様!」
クローデリアの顔が露骨に警戒感を示した。
「勇者パーティー入りのことは考えていただけましたか?」
「勇者様、申し訳ございませんが、私はソロ……あ、新しい冒険者パーティーに加入しましたの」
10分前に結成したパーティーをもう忘れそうになったか……
「えっ……」
勇者の男の表情が露骨に不快感を示す。あんたら感情剥き出しにしすぎだ。
「どこのパーティーです? 『紅蓮の狼』ですか? 『蒼の雷槍』ですか? なぜです? 勇者パーティーのほうがどこよりも大きな功績を得られるはずです……」
「『断罪の刃』です」
「……聞いたことがないですね。どんなパーティーなんですか?」
「どんなパーティーかですって? それは……魔物も人間も関係なく悪いやつを断罪するパーティーに決まっているではないですか」
「パーティー構成は?」
「なぜそんなことまで話さないといけないのかしら」
「なぜって勇者パーティーを蹴ってまで『剣姫』が加入を決めた理由を納得したいからですよ」
もうそれ以上ハードル上げるのやめて……
「あの……俺がそのパーティーのメンバーです。一応、後衛の攻撃職的なやつです」
ヤジと石を投げるだけだけど。
「おまえが……」
勇者が俺をじっと見る。
「こいつ、ザコじゃないか。『断罪見物人』? なんだそのふざけたジョブは? スキルは罵声と石投げで、ステータスも平民並み……おまえ、ただのモブ平民じゃないか! なぜおまえのようなやつが……転生者か?」
ステータスも身分も見られるのか……くそっ。
「はあ、まあ、そうです」
「転生者がなぜそんな低いステータスでゴミスキルしかないんだ? 何か隠しているのか?」
「安全なところからヤジと石を投げたいだけなんで……勇者様みたいに危ないことはちょっと……」
勇者は改めてクローデリアのほうに向き直った。
「なぜこんな志の低いザコモブを『剣姫』のパーティーに入れたんです?」
……こんな辱めを受けたくないから、目立たないようにモブ平民やっているっていうのに……俺はおまえのような有名人がうっかり悪いことに手を染めて断罪されるのを離れたところから見てヤジと石を飛ばすのが生き甲斐なんだよ!
「そのような失礼な物言いはおやめください。
彼が私のパーティーに入ったのではなく、私が彼のパーティーに入ったのです。リーダーはこのユウマです」
え? 無理やり冒険者にさせられただけじゃなくて、勝手にリーダーにされちゃってるの?
「ユウマは私の恩人なんです。それにあなたが思うよりも有用なスキルを持っていますのよ。石もミスリル製であれば恐ろしい威力を出すから、後衛の攻撃職としてはとても頼りになりますのよ」
根拠のない挑発はもうやめてください。
勇者が俺を睨む。鋭い眼光に睨まれるだけで、致命的なダメージを喰らいそうだ。きっと勇者とモブ平民の間にはそれくらいの力の差があるに違いない。
そして勇者は俺に言う。
「貴様、覚えておけよ」
……何を?
※
宰相ジークフリートの指示に従い、各冒険者パーティーは聖女の捜索に向かうことになった。
俺の姿を認めたジークフリートは、「断罪の刃」パーティーを中心に索敵を行い、勇者パーティーや他の有力パーティーが同行することになった。
それ以外のパーティーはそれぞれに異なる地域を捜索する。
「なぜこんなモブ平民に勇者がついていかねばならんのだ」と勇者が喚いて猛反発したが、ジークフリートの宰相命令で、頑として聞かなかった。
よほど俺は勇者に嫌われたらしい。
「断罪の刃」の索敵担当の俺が先頭を歩き、王都の町を進むべく、広場に背を向け歩き出す。
王都中を歩いて、俺のスキルで犯人を探し出し、腕っぷしに覚えがある冒険者たちが取り押さえるという算段だ。相手の戦力は未知数だが、「仮面」の人物の動きを見た限り、手練れであることは間違いない。
俺のスキル「断罪の石投げ」は、犯人が俺の前後左右で視認可能な範囲内にいなければ俺に石が向かってくる。
犯人がすぐに見つかるわけがなく、俺が石を受け続けると、防御力もHPも低い俺はそのうち死んでしまうことが想定されるので(あと痛いのも嫌なので)、クローデリアが俺に当たる前に石は弾いてくれることになっている。
そしてさっそく俺は「聖女の誘拐犯の一味」を念じ、最初の「断罪の石投げ」を発動する。
さて、犯人が見つかるまでどれだけかかることか……
俺の手から放たれた石は、案の定、宙でUターンし、俺に向かってくる。
クローデリアが石を弾くべく剣の柄に手をかけ石を弾……かない!
なぜ!?と思ったら、石が俺の頭のわずか上を髪を掠めながら通過し、背後に飛んでいった。
振り返ると、あの勇者が俺の真後ろに立っていた。その足下には、俺の投げた石が転がっていた。
「おい、モブ平民、何のつもりだ?」
勇者が俺を睨み、詰問する。痛がらないところを見ると防御力が高そうですね。
俺はゆっくりと後退して勇者と距離を取り、クローデリアの後ろに隠れた。
「それはこちらのセリフです。勇者様、いったいどういうことですか?」
クローデリアが尋ねる。
「何がです、クローデリア様」
勇者は今度はクローデリアをギロリと睨む。
「ユウマの石が当たったということは、あなたが聖女誘拐に関与したということです」
「何の言いがかりですか? そのモブ平民の石が何だと言うのです。こっちは腹が立ってんだ」
勇者の顔が怒りに歪み始める。
「何の騒ぎです? さっさと捜索に行ってくださいよ」
そこに間の悪いことに宰相ジークフリートが近づいてきた。
「その勇者に俺の断罪の石投げが当たったんです」
俺がそう申告すると、「へ? えっ?」とジークフリートが変な声を上げる。
「勇者ソウマが? バカな」
「本当です、ジークフリート様。このクズ平民がこの勇者である僕の美しい顔に石をぶつけたのです。即刻処断させてください」
自分で認めちゃったよ……
「と、取り押さえるんだ!」
ジークフリートが指示を出すと、冒険者たちに視線が俺に集まる。
「違う! ユウマじゃない。勇者ソウマだ。そいつが犯人だ!」
ジークフリートが急いで指示を訂正する。
一人の筋骨隆々の男が勇者を睨む。
「こいつ、勇者だからっていつも偉そうにして、気に食わなかったんだ」
俺以上にモブっぽいセリフを吐く……が、明らかに俺より強いことだけはわかる。
「少しくらい痛めつけてもいいんだよな」
「ああ、構わん。絶対に逃すな」
すると筋骨隆々男がバトルアクスっぽい獲物を手に勇者に襲いかかった。
明らかに「痛めつける」以上の殺意のある斧の一振りが、勇者ソウマの脳天に落ちる……までもなく、ソウマが剣を一閃すると、筋骨隆々男はその場に倒れた。
勇者は普通に強いらしい。
他の冒険者たちがたじろぐ中、我らがクローデリア様が前に進み出る。
そのとき、ソウマが脱兎のごとく走り出し、ジークフリートの背後に回り、首元に剣の刃を突きつけた。
その動きはあの仮面の人物そのものだった。
「クローデリア様、お下がりください。悔しいが、あなたのステータスはすさまじい。僕が敵う相手じゃない。宰相を人質にここは逃げさせてもらいます」
宰相ジークフリートは王政府を支える重要な人物だ。
しかし、俺の上司でもあり、こいつが死ねば、「断罪結社」解散、俺はただのモブ平民に戻れるのでは、という思いも首をもたげてくる。
うん、やってしまってください、勇者様。
「それからモブ平民、おまえは想像を絶する残酷な方法で殺すから覚えておけよ」
モブのことは忘れてください。
「無駄ですわよ。もうあなたは射程圏内よ」
その時、「剣姫」クローデリアが収めた剣の柄に再び手をかけた。よし、宰相も死んで、勇者もやられてしまえ!
「静寂の宣告」
クローデリアがそう言ったかと思うと、勇者が突然何も言わずに倒れた。
え? 何? 勇者弱っ。
「峰打ちです。殺してはいません」
宰相は? ……無事か……くそっ。役に立たん勇者だ。
「これが『剣姫』……すさまじい太刀筋だ」
冒険者たちがざわつき、気づくとそれがクローデリアを讃える喝采に変わっていた。
俺は太刀も何も見えませんでした。居合い抜きみたいなスキル使ったってこと?
だが、クローデリアが恐ろしく強いことだけはわかった。推察するに、協調性がないために複数人で対応する案件を取れないからS級になれていないだけなのだろう。
「ステータスだけでは見えないことも理解することね。あなたはユウマの力も私の力も……いえ、『断罪の刃』の力を見誤ったのですわ」
かっこよく締めているところ申し訳ないのですが、勇者は気絶しているようです。あと「断罪の刃」は役目を終えたと思うので、この後解散を申し出るつもりです。
※
王城前広場に集まった観衆はまばらだった。
人々は「反断罪戦線」を恐れ、断罪見物を控えているのだ。
断罪見物を愛する俺としては、とても悲しい事態だ。
宰相ジークフリートは、勇者ソウマを捉えた後に言った。
「公開断罪を行う。『反断罪戦線』に屈せず、我々は断罪を続けていくことを宣言するのだ」
そしてすぐにこの断罪の場が用意された。
断罪台には腕を縄で縛られた勇者ソウマ、そしてジークフリートが上がった。クローデリアもジークフリートの背後で待機した。
「我々は、いや、この王国は、『反断罪戦線』には屈しない! ここにその一員である勇者ソウマを断罪する」
集まった観衆が歓声を上げる。
「この者は偽聖女の容疑がかかっていた聖女エリシアを断罪の最中に誘拐し、『断罪』そのものを、つまり王国法自体を否定した。これは王国の治安を脅かす国家反逆罪だ」
ジークフリートは険しい顔でソウマを睨んだ。
「何が断罪だ!」
ソウマがジークフリートを睨み返して叫んだ。
「人の過ちを晒して、自分は無関係だという顔をして非難して、おまえらは非難される側の人間の気持ちを考えたことがあるのか?」
非難される者の気持ちがわかるから、罪も犯さず、目立たないようにモブ平民やってんだよ!と俺は心で叫ぶ。口には出さない。
「私もこの断罪の姿が絶対に正しいことだとは思いません。ですが、重大な罪を世に知らしめ、少しでも罪を抑制できるように王政府が考えた仕組みなのです。
それに、『人の気持ちを考えろ』とは言いますが、その言葉はそっくりそのままあなたに返しましょう」
ジークフリートが紙の束を手に取り、掲げた。
「このとおり、以前から、勇者ソウマに関する陳情が数多く届いていました。『勇者特権と言って、金を払わず店の物をとっていく』『態度が気に食わないと殴られた』『妻が気に入ったと手を出してきた』。こんな陳情がいくつもいくつも届いています」
「それの何が悪い? 僕は勇者として命をかけて魔物を倒し、おまえらを守ってやっているんだ! 対価をもらっているだけだ! 断罪なんかではなく、勇者の活躍をもっと見ろ!」
ジークフリートが呆れたようにため息をついた。
「あなたは自由と博愛を何か履き違えているようです。中途半端に勇者の力を授けられて勘違いして好き放題やることを『自由』と言うのですか? 手当たり次第、女に手を出すことを『博愛』と言うのですか? 断じて違う! あなたのように腐った思考を持った強者から弱者を守るための断罪なのです!」
いつも冷静なジークフリートが熱くなっている……
観衆もジークフリートに同調し、怒号を上げ始めた。実際に被害に遭ったものも少なくないのだろう。
熱気を感じ取った人々が、次第に断罪台の周囲に集まり始め、以前のような人だかりになってきた。
「くそっ! こうなったのもあのモブ平民のせいだ。どこだ? その中で俺を見て笑っているのか? 出てこい! 殺してやる」
なぜか誰よりも俺のことを憎んでるね。
俺はミスリル製の石を固く手のひらに握りしめる。
武器素材の余りとしてクローデリアが持っていたミスリルの石屑を譲ってくれたのだ。
久しぶりに気持ちのいい断罪となりそうだ。
俺はスキルに設定する罪状を考えるが、勇者ソウマの罪状が多すぎて迷った。
——いや、簡単なことか。純粋な「悪人」を断罪するだけだ。
俺は深く息を吸い込む。
「クズ勇者め! 引っ込め! 『断罪の石投げ』」
腹の底から声を出し、ミスリルの石を投じた。
もしその石が自分に返ってくるのであれば、俺は即死だろう。それはそれでいい。あの勇者が悪人ではなく、俺のほうが悪人なのであれば、速やかにこんな異世界から退場しよう。
美しい弾道を描いて石はまっすぐ断罪台に向かう。
勇者ソウマと目があった、その瞬間——ミスリル石がソウマの眉間にヒットし、めり込んだのが見えた。
そして、ソウマが膝を落とし、前に崩れ落ちた。
本日二度目の勇者討伐で、断罪は幕を閉じた。
※
国家反逆罪は死罪に相当する重罪だ。
目を覚ましたソウマにそのことが告げられると、泣いて謝罪し、「『反断罪戦線』のことは何でも話すから」と、減刑を懇願し始めているらしい。
司法取引というやつだ。
「国家反逆罪の刑が軽減されても、他に無数に罪があるからな。殺人も何件かありそうだ」
ジークフリートが言った。
「しかし勇者が反逆罪とは……王政府が甘やかしすぎたせいかもしれんな。私も反省しなければならないことがありそうだ。それにしても、二人はよくやってくれた」
クローデリアと俺に、ジークフリートが労いの言葉をかける。
「本当に、ユウマの『断罪の石投げ』はすごいわ。索敵だけじゃなくて、遠距離攻撃もできるなんて。勇者を一撃で倒すってすごい火力よ」
あなたも一撃で倒しているし、なぜあなたが俺をそこまで買っているのかマジでわからん。が、あの火力は正直俺も驚いた。もう二度と断罪でミスリルの石は投げまい。勇者でなければ死ぬ。
「ともかく、『断罪結社』も大きな成果を出して、宰相の私の評価も上がって、言うことなしだ」
結局のところ、ジークフリートは自分の手柄が一番か?
「ジークフリート様、今回成果を挙げたのは『断罪の刃』パーティーですわ」
「『断罪の刃』? 何ですかそれは?」
「ユウマと私で冒険者パーティーを結成しましたの」
「そうなのですか? まあ、結社のほうに支障のない程度にお願いしますよ」
俺はどっちも辞めたいんだけどなぁ。
聖女はまだ奪還できていないし、「反断罪戦線」との戦いは続くだろう。
そして俺はそれに関わらない方向でいきたいと切に思う。
断罪だけは必ず参加するけれど。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし少しでも「面白かった」と思っていただけたら、
①ブクマ登録 ②★評価 ③一言感想
のいずれか一つでもいただけると、めちゃくちゃ励みになります。
「【連載版】転生したら断罪の場でヤジを飛ばして石を投げるモブ平民だった」もよろしくお願いいたします。
改めて、ありがとうございました!




