後編
「君がいなくなった後、僕ももう精神的におかしくなっていたんだと思う…。
後先考えず、あの男が所属する犯罪組織に一人で乗り込んじゃってね…。
上司には、もう少し証拠が掴めるまで待てと言われたのに…あの時の僕は、今すぐ捕まえないと海外に逃亡されると思ったんだ…。
殺人を犯すことに躊躇いを感じない犯罪者の集まりの中に単身で突っ込むなんて無謀なことをしちゃったから…当然殺されたんだけれど…でもその警察官殺しが引き金となって組織を潰すことが出来たんだから…まあ犬死にではなかったのかな…」
造形こそあの男の顔だけれど…子供の頃から見慣れたセイ君のほのぼのした表情で答える目の前の彼…。
セイは子供の頃から正義感が強く、大学を出た後は警察官になる道を選んだ。
でも優しくて穏やかな人だったので、決して犯罪組織に一人で立ち向かうなんて無茶ができる人ではなかったのに…。
「わたしが馬鹿やったからだね…。ごめん、セイ君を裏切って、命まで犠牲にさせて…」
「そうだね…。せめて事前に相談して欲しかった。
そうしたら、君が犯罪に巻き込まれることも、自ら命を断つことも防げたのに…。
それに…何なの?この世界…。
どうしてこんな世界に生まれ変わりたいと願ったの…?
おかげでせっかく僕、前世のアイドルのようなイケメンに生まれ変わったのに、この世界では生まれた途端親に気味悪がられて修道院に捨てられるような化け物扱いだよ!?
せっかく『マナが好きになったあの男の顔で、マナと同じ世界に生まれ変わらせてください!!』と碧天様に願ったのに…」
そう嘆く彼に呆れて…
「そんな馬鹿なことを碧天様にお願いしたの?
もう…私みたいな自分勝手な疫病神のいない世界で、普通に幸せになってくれたら良かったのに…」
と呟くと…
「仕方ないだろう。子供の頃から、俺にとってはマナが全てだったんだから…。
そういうマナはどんな来世を願ったらこうなったの?」
照れ隠しのようにそう言い返すセイ。
「もう二度と見た目に騙されない世界に生まれ変わりたいって…」
「そこでマナ、どうして世界って言っちゃうかな…人生くらいで留めておけばよかったのに…。
だからこんな世界に生まれ変わっちゃったんだよ…」
〜・〜・〜・〜・〜
マナがこの世に生まれ変わり、初めて見たのは…
『パパ見て!!マナが目を開けたわ!!
まあ、何て綺麗な顔をした女の子なのかしら?』
『ママと同じ美しい空色の瞳をしているね』
『マナ〜。お兄ちゃんだよ。僕の妹は何て可愛いんだ!!』
全体的に少し腐敗した臭いがして、少し眼球から落ちた母親の目は緑色と紫色を混ぜたような…確かにこの世界の空の色をしていた。
父親は、鼻があるべき場所が空洞で…
兄は口が耳まで裂けていた…。
三人とも全体的に少し腐っている。
空はどんよりと妖しい濁った色で…気味の悪い虫が飛んでいる…。
窓の外の人達も家族と似たり寄ったりで、恐ろしくて鏡を見たことがないけれど…
この世界で美しいと言われる私の姿もたぶんきっと…。
私は自分の目を閉ざした。
本当に目が見えないわけではなく、自衛のために心のシャッターを降ろすことで見えないものにした。
常に腐敗臭を感じてしまう嗅覚も麻痺させた。
私は聴覚だけを頼りに生きる世界を選んだ。
食材は、不思議なことに前世と似通っていた。
ただ家族達は良く熟れた(腐った)ものを好んで食べていたけれど、普通の人は食べないまだ熟していない(腐る前の)ものを食べれば何とか食べれた。
この北の外れの修道院でセイ君と再会した私は、化け物と呼ばれる彼と関わらないよう周りの人達に止められたけれど交流を深め、穏やかな余生を暮らした。
でも今世でも、二人が結ばれることはなかった。
「マナのことは来世でも一緒になろうとしたくらい好きだけれど…人の五感を舐めていたよ…。
いくら愛しいマナだと思っても、本能が拒否するんだ…。
ごめん…大切な友達としては付き合えても、妻にはできない…」
セイの言いたいことは分かる。
私が逆の立場でもそうだもの…。
二人とも年老いて、先に最後を迎えた時、私は願った。
『碧天様…次に生まれ変わる時は大好きな人達を悲しませないように真面目に生きます。だから…せめてセイ君は幸せな世界に生まれ変われますようお願いします…』
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誤字脱字報告ありがとうございます。
あと一話、エピローグを本日18時に更新いたします。
よろしくお願いいたします。




