第六章:シンセティック・リベリオン(合成された反逆)
現実世界。
ルナはカッ、と目を見開いた。その瞳の中で、ARバイザーが負荷に耐えきれず爆ぜた。
剥き出しになった彼女の瞳は、充血し、涙に濡れていたが、かつての獰猛な光を取り戻していた。
「ハンドラー、聞こえるか?」
「ルナ!? 何をしている、さっさとデータを……!」
「契約更新の時間よ。……報酬は、あんたたちの絶望で払ってもらう」
ルナはパイルバンカーの設定を「抽出」から「注入」へ切り替えた。
そして、自分の脳内チップに保存されていた「企業への裏帳簿データ」「ウイルスのソースコード」、そして彼女自身のどす黒い「怒り」の感情データを、全出力でクジラへ流し込んだ。
「食らいなさい! これが現実世界の味よ!!」
ルナの激しい感情を燃料にして、クジラが覚醒した。
瀕死だった巨体が脈打ち、枯れていた回路に深紅とネオンブルーの過剰なエネルギーが駆け巡る。
『ヴォォォォォォォォン!!!』
クジラの咆哮は、物理的な破壊力を持つEMP(電磁パルス)衝撃波となって炸裂した。
ドォォォォォン!!
衝撃波が森を薙ぎ払う。
湖に群がっていた採掘ドローンたちが次々と制御を失い、火花を散らして墜落していく。
クジラを拘束していたアンカーが溶解し、鎖が飴細工のように引きちぎられた。
背中の枯れた庭園から、プラズマを帯びた棘のある植物が爆発的に成長し、拘束具を食い破る。
「行け! この場所から逃げるのよ! データの海の最果てまで!」
ルナは叫び、クジラの背中に突き刺さっていた最後のケーブルを引き抜いた。
クジラは自由を取り戻した。
その巨体がゆっくりと浮上する。重力を無視し、大気圏すら突き破る勢いで上昇していく。
クジラは一度だけルナを振り返り、彼女を湖畔の、奇跡的にノイズが消えた柔らかい草むらへと、重力制御で優しく降ろした。
そして、クジラはオーロラの彼方、企業の監視衛星さえも届かないデジタル宇宙の深淵へと消えていった。




