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彼女に神の祝福は無く  作者: はーみっと


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第十八話



 大都市クランハフェンに出現した《大禍》を封印あるいは消滅させるために、第三階梯以上の聖術師たちは現場に向かっている。ヘルムタール家に残された聖術師たちの多くは現役を退いた長老格か、控えとなる四階梯以下の者たちである。

 控えといっても、年配者の長老たちは関係各所への連絡や治療、指揮、支援用の大規模術式など、やることが多い。一方で四階梯以下は控えという名目のある種の保護状態に置かれている。

 経験不足な未熟者を送り出せるほどに余裕がない。

 この処置に対して不安を覚える者が半数、手柄を立てる機会を得られないことに対する不満が半数といったところだ。


 そんな中、第四階梯トール・サルヴァリンは周囲から痛くなるほど視線を浴びていた。反逆したハンク・ヴォーロと親しかった彼に対して、詰問するかのような無言の圧が四方八方から浴びせられていたのである。


「ねぇ、ちょっと時間ある?」

「お前ら……」


 トールに話しかけてきたのは、第五階梯聖術師ユーリーン・アールームトーン。

 眼鏡が光で反射し目元は隠されているが、その顔色はひどく悪い。

 彼女の隣には、同期のマルギッテの姿もあった。失われた腕は義手に置き換えられ、すでにだいぶ馴染んではいるようだ。


「ハンクの件か?」

「そうね、それもある」

「わかった」


 ユーリーンはついてくるように促し、ヘルムタール家の広い敷地から人気のない方へ向かう。しばらく全員が無言のまま歩き、下位聖術師たちの討論に使われる一室に入る。

 ひんやりとした冷たい部屋。

 中央に置かれた机と椅子のほかには、簡素な調度品がいくつか。ユーリーンは下位精霊に命じて、術具に灯りをともす。聖術師ではあるが、下位の精霊を扱う程度は誰でもできるので驚くようなことではないが、聖術こそが至高であると考えるヘルムタール家では、あまり精霊術を使うことは歓迎されない。


「……上の誰かに言われたのか? 何度も聞かれたが、ハンクが魔術師だったのは知らなかった。あいつは、気が弱くて……、いい奴だったよ」


 ユーリーンに問われる前に、トールは口を開く。

 ハンク・ヴォーロが告発された後、親しかった者、特に事件直後に接触の多かったトールは長老からかなりきつく問いただされた。尋問や拷問はされてはいないが、恫喝や懐柔など、思い出しただけで気持ち悪くなるような言葉の数々を投げられた。彼らが執心していたのは、一言でいえば「聖術師の体面」である。

 聖術師の大家に魔術師が長く潜伏してきたという事実。

 それに気づかなかったという事実。

 そして今回の事件でどれだけ関わっているのか、それによって聖術師の信頼がどれだけ揺らぎ、その影響はどれほど大きなものか?

 最初は詰問から始まり、次第に自分たちへの懐柔に話を持ち込まれていき、老練な長老たちの思惑に、トール・サルヴァリンは屈服するしかなかった。聖術師としては正しく、おそらく別の誰か――例えばオリヴィエから見れば別の回答を出せたかもしれない問題。


「何でこんなことになっているのか、全然わからない。昨日まで、普通だったのに……」

「ねぇ、トール。前回、アンタがバカやった時、私は止められなくて後悔したわ」

「はぁ? なにを……」

「だけど、今度は私が馬鹿な提案をする。ハンクを探しに行きましょう」


《大禍》の封印を命じられたにもかかわらず、ろくなサポートもなく封印を解き、核を消滅させようとした記憶は新しい。とんでもない「やらかし」であり、戒めとする教訓でもある。だからこそ、ユーリーンの提案はおかしかった。


「これ、オリヴィエさんの借金返済--、わたしとマルギッテ、それにアンタ。その後でハンクも一緒になって背負った書面」

「ハンク坊やも馬鹿だよな、工作員なら、そんなことする必要ねぇのにさ」


 ユーリーンの台詞に続き、マルギッテは鼻を鳴らした。

 長老たちは言った「信頼を得るための手段」だ、と。

 友情も協力も絆も、薄汚い打算に過ぎない。

 いつか裏切る時まで、爪や牙を隠す獣の所業に過ぎない。

 トールは反論できなかった。

 反論したくはなかった。

 それが真実だと思えたから。その方が楽だったから。内心はどうあれ、ハンクが惨劇の片棒を担いでいるのは間違いない事実なのだから!


「探して、見つけて、どうするつもりだ?」

「成り行き次第ね。説得して投降させることができれば良し、ダメなら……」

「同期として、ケリをつけるさ。そうしなきゃならねぇ。で、トール、お前はどうする? 一緒に探しに行くか、ここにとどまるか、邪魔はしないでほしいけどね」


 改めて覚悟を決めたのか、マルギッテはいつも通りの粗暴な笑みを浮かべる。


「バレたら、いや、すぐに露見して間違いなく罰を受ける。最悪、追放されるぞ……」

「そうね、だから貴方も自分で選んで」


 結論を促され、トールは一度大きく息を吸い込み、そのまま吐き出さずに呑み込む。そしてわざと明るい声で答えた。


「いいじゃないか、俺たちで解決すれば大手柄だぜ。借金の返済にも弾みがつくってもんだ」


 精一杯の空元気で答えると同時に、ヘルムタール家の館が大きく揺れた。

 彼らが目当ての人物を探しに抜け出す必要はなくなった。



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