TSカリスマ美少女ぴゅあぴゅあアイドル、ユニットの共有財産(ペット)になる
TSカリスマ美少女ぴゅあぴゅあアイドル、第四弾。
ネコのぬいぐるみは見た!
「瀬名キララっ!!」
その声に、ハッとする。気づけば目と鼻の先に、美人だがとっても厳しいトレーナーのご尊顔————って!
「イ、イオリちゃん!? 近い、近い!!」
「ようやく戻ってきましたか。私のレッスン中にぼーっとするなんて、ずいぶんたるんでいるようですね」
言われて気づく。そうだった。いまはのダンスレッスン中。アオイもスミレ先輩もヒナヒナもすでに立ち上がってスタンバイしているのに、アタシだけ座ったまま。
「す、すみません!」
「座ったままで結構です。先ほど見せた振り付けも覚えて……いえ、見ていなかったのでしょう? しばらく見学していてください」
「……はい」
ぴしゃりと言い放たれ、シュンとしてもう一度腰を落とす。
3人の心配そうな顔には申し訳ないと思いつつ、けど原因はアンタらなんだからね!
あの顔で。あの手で。あの身体で。あの唇で。散々その……ええっと……と、とにかく! それはもうとんでもない目に遭わされたのだ。3人の顔を見ただけで、思い出すのも、逃げ出しちゃうのもしょーがないでしょっ。
……レッスンはさすがに逃げらんないけど、ダンスに集中なんて————まじで無理なんだけどっ!!
一通りレッスンを終え、3人はイオリちゃんに帰された。心配そうにこちらを見ながら帰って行く様子にちょっと胸が痛くなるが、正直ほっとした。
「あなたも知っているように、スケジュールに余裕はないの。何か他のことで悩んでいるみたいだけど————」
訂正。これ、ほっと出来ないヤツだ。その眼光にちびりそう。
「————他のこと考えられなくなるくらい、しごいてあげます」
「ひぇええええ……」
言葉に違わぬレッスンは、そこからさらに1時間続いた。
「い、いおりちゃんの鬼……」
「最近たるんでるあなたに付き合ってあげたのですから、天使の間違いでしょう?」
もう足腰がガクガクで子鹿状態。立ち上がるのすらおぼつかない。それでも、3人がいなかったおかげで、なんとかダンスに集中できた。
へたり込んだアタシの目の前に、スッと手が差し出される。なんとか掴むと、イオリちゃんが優しく立ち上がるのを手伝ってくれた。そこにいたのはレッスンの鬼ではなく、心配そうな目でアタシを見つめる、優しい人だった。
「3人の間で何があったのか……詳しくは聞きません。けれど、困ったり悩んだりしたら、頼りなさい。事務所の皆さん、他のアイドルたちもそうですが……私も、あなたを支えていきたいと思っているんですからね」
「イ、イオリちゃん……ちょ、照れるんだけど」
「黙りなさい。好意は素直に受け取っておくモノです」
すこし赤らんでいる頬は、運動していただけではないのだろう。それに気づくと、なんだかこちらまで恥ずかしくなってくる。けど同時に、本当に心配してくれているのが伝わって、申し訳なさ以上に、うれしくなった。
「……うん。あんがとね」
イオリちゃんは無言で、頭を撫でてくれた。
その後。予定よりも遅くなったため、ありがたいことにイオリちゃんが家まで送ってくれた。
ただ車から降りる直前。イオリちゃんは突然爆弾を投下した。
「そういえば、あなたに伝言を預かっています」
『彼女たちを、1人の女の子として見てあげてください。彼女たちはキャラクターではないのですよ? キミもね』
「————え?」
それって、どういう————
@@@
「……疲れた」
着替えもせずに、ベッドにバタンキュー。肉体疲労はもちろんだが、精神のほうがよほどダメージが大きい。
『キャラクター』
あの言葉の意味。イオリちゃんは首をかしげていたが、アタシには心当たりがあった。もしかすると、アタシのような転生者がいて、アタシが転生者であることに気づいているのかも知れない。
イオリちゃんの伝言は社長からで、でも社長は匿名としか言わなかったそうだ。そうなると、聞き出すのはまず無理。こういうところさすがにお堅い。おそらくは事務所の誰かだとは思うが、それ以上調べようもない。でも————とっても気になる。
それから————3人のこと。
エンカウント即逃げコンボを発動中だけど、いつまでもこのままというわけにはいかない。アタシたち4人はアイドルユニット。脱退する気はないし、今後も一緒にたくさんの活動をしていかなきゃならない。
そもそも。
そのうち逃げても回り込まれるか。そもそも逃げることすらできなくなる予感がひしひしとする。魔王からは逃げられないモノなのだ。
そうなる前になんとかしないと、よけいにひどいことになりそう。
でも、どうすればいいのか全く見当もつかない。イオリちゃんは頼れと言ったが、内容がセンシティブ過ぎて相談なんかできっこない。そもそも、は、恥ずかしすぎて、とてもとても言えるわけないし。
家の中は静かだった。父は海外。妹は友達の家でお泊まり会。母は少し前まで家にいたようだが、今日は夜から仕事と言っていたから、メモだけ置いて出かけたようだ。……そういえば、あのメモ。ハサミで切ったのか妙に小さかったっけ。何でだろう。————ん? いや、まって。今家にいるのは……アタシだけ?
「これは……久しぶりのチャンスでは?」
むふ。
そうだ。こんなに辛い思いをしているのだ。ストレスマックスなのだ。
少しは発散して、心に癒やしを与えても、バチはあたらないよね!
現実逃避? いやいや、息抜きとよんでいただきたい。そうと決まれば!
手早く化粧を落とし。髪をほぐしてバレッタでひとくくり。ゆったりしたスウェットに着替える。汗はかくだろうから、お風呂は後にしよう。
次は部屋だ。
防音バッチリなアタシの部屋に、普段隠している数々のグッズとポスターを取り出して次々とセッティングしていく。
「今日はどれにしよっかなー。うーん……よし! キミに決めた!」
選んだのは《Colors》初の武道館ライブのブルーレイディスク。それをJKの部屋に似つかわしくない立派なテレビとスピーカーにつながれたデッキにセット。……あれ? こんなネコのぬいぐるみあったっけ?
最後に、《Colors》のロゴとみんなの名前が入った自作Tシャツ、そして色違いの4本の自作ペンライトを装備。
流れるミュージックと映像にに合わせて、大声でアタシの————いや、ボクの<推し>達の名前を叫ぶ。
「アオイ——、こっち見て————!」
「ヒナちゃ——ん、ちょーかわいい————!」
「スミレさ——ん、きまってる————!」
「キララ——、さいっこ————!」
ペンライトを振り回し。歌って踊って、心の底から推しへの愛を叫ぶ。
何度も言うが、キララも含めたこの事務所にいるアイドルたちのことが、ボクは大好きだ。みんながボクの推しだ。
キララとしてステージに立つことは、とても光栄だし、ファンのみんなとともに作るステージは最高の宝物だ。
けど同時に。ボクは1人のファンとして、応援もしたいのだ。<推し活>もしたいのだ!!
家族や友人、事務所のみんなにはとても見せられないけれど。完全無欠のドルオタで、精一杯好きなことをしているこの瞬間こそ、本当の——今世のアタシでありボクであり、瀬名キララなのだと、心の底からそう思う。まあ、ようするにだ。
「くぅぅぅぅっ!! ちょー楽しいっ!!」
疲れなんて吹っ飛んで。めいいっぱい楽しみきって。ごろりとベッドに転がる。
心地よい疲労。汗ばむ身体。けれどこんなにも心が軽いのはいつぶりだろうか。ずいぶんストレスがたまっていたようだ。
ベッドに転がったまま見上げた先には、《Colors》のポスター。笑顔のみんなと視線が合う。なんとなく、いまなら大丈夫な気がした。ちゃんと、考えられる気がした。
みんなのことは大好きだし、尊敬している。でも、彼女たちはスターだ。輝く一番星。テレビの向こうで。多くの人たちの前で。歌って踊って、見る人たちに元気と勇気を与えてくれて————前世のボクの心を、救ってくれたすごい人たちだ。
ボクが——ファンの1人であるボクが、恋人になるなんて————
『彼女たちはキャラクターではないのですよ?』
ふと、あの言葉がよぎる。
キャラクターではない。そんなことわかっている。ここは現実だ。ゲームの中じゃない。
「——本当に?」
ボクは、本当に、理解している?
確かに前世のボクは救われた。でもそれは、ゲームの中の彼女たちであり、ここにいる彼女たちじゃない。
『1人の女の子として』
つまり、アイドルでも。幼馴染みでも。先輩でも。後輩でも。ましてや、ゲームのキャラクターでもない。1人の女の子として。
『キミもね』
そう。ボクだって。ボクだって、ゲームの中にいた、瀬名キララじゃない。この世界で、一生懸命生きてきた。ゲームの中の彼女とボクは、別の人間だ。
だから。それは。つまり。
「……もしかして、女の子に……それも、とびきり可愛い娘に……ゲームの中の瀬名キララじゃなく……ボクが、告白されたって……こと?」
彼女たちの顔と、声がよみがえる。
『大好き』
『愛しているんだ』
『結婚してください』
「——————っ!、!!、!!!?」
ボッと、顔から火を噴いた。
顔があっつい。燃えてる。
「な、なにこれ? なんなのこれ?」
心臓が暴れ回って。胸が痛いくらいで。身体の内側を、かき乱されるようなむず痒さがあって————なのに。
心が暖かくって。ホワホワして。わーってなって。でも————イヤじゃない。
初めての感覚に。感情に。戸惑って、どうしていいかわからなくて。
「うぅぅぅうううううう、にゃぁあああああああああっ!!!!!」
この感覚はなんだろう。この気持ちは何だろう。
うれしい? 楽しい? 辛い? 悲しい? 苦しい? 好き? 嫌い? 安心? 不安? 驚き? 感動? 恋?
————恋。
すとん————と。しっくりきてしまった。
ゲームやアニメ、マンガなど。恋愛と呼ばれるモノに、前世たくさん触れてきた。どんなに素敵なものなんだろうと想いをはせつつ、けれど病弱な自分ではきっと経験出来ないと諦めていた。
今世でも、憧れの瀬名キララを目指して必死だったし、男の記憶をもつボクが、まともに異性と恋愛出来る気もしなかった。だから無意識に、あり得ないと思い込んでいた気がする————でも。
生まれ変わって、走ることも出来た。学校にも通えた。友達や仲間も出来た。歌って、踊ることも出来た。その上ボクは————
「……えへへへ。そっかぁ……。ボク、恋が……出来るんだ。恋をしても……いいんだ」
手をつないで、お出かけしたり。
お家で一緒に遊んだり。
食べさせあいっこしたり。
キスなんか……しちゃったりして。
もしかしたら、その先も————って、あれ? なんか全部やったことあるような?
ふと近くにあった鏡が目に入る。
鏡の中のボクは、まるでゆでだこのように真っ赤な顔をしていて。
だけど表情はびっくりするくらい、トロトロにとろけきって。
口元は、うれしさを隠しきれず、大きな弧を描いていた。
「うわぁ……とても人に見せらんないや……」
自分の部屋なのに、なんだか恥ずかしくて思わず両手で顔を覆う。身体も熱いが顔の熱さがすごい。手のひらがやけどしそうだ。
落ち着きたくても、3人の顔が頭から離れない————3人?
——え、待って。ボク、3人から告白されたんだけど。
ようやく恋をできるかもしれないと気づいた、恋愛よわよわのボク。そんなボクが3人からの想いを受け止められるはずもない。
しかも、ボクは3人とも大好きなのだ。確かにひどいことをされたし、とんでもなく恥ずかしかったけれど。みんながボクのことを好きって気持ちが伝わって、その————イヤではなかったし。
それなのに。急に恋愛対象として見たあげく、3人から1人を選ぶなんて。レベル1でラスボスと戦うようなものじゃないか!
「むりむりむりむり————!」
悲鳴を上げてゴロゴロとベッドの上を転がりまくる。
そんなボクに、思わぬ声が聞こえた。
「じゃあとりあえず、私たち全員と付き合おっか」
————へ?
恐る恐る顔を押さえていた手を離してみれば。
視界の中に、アオイとスミレ先輩とヒナヒナが————え?
「な、なんで?」
——ここに?
「よーくわかったんだ。私たちは、キミのことをまだまだ誤解していたよ」
——いや、そうじゃなくて……
「キララお姉ちゃん、とっても可愛くって、とってもとっても————初心だったんだね」
——なんでボクの部屋に?
「そんなキララが、いきなり3人から告白されて、選べっこないよね?」
——そ、それは、そうなんだけど……
「だからとりあえず全員と付き合って、私たちはキミにめいいっぱいアピールするよ」
——え? そんなのありなの?
「お姉ちゃんの中で、誰が一番かわかったら、選んでほしいな」
——な、なるほど?
「それまでキララは、私たちの、共有財産ってことで」
——な、何その不穏な言い回し!
なんとなくわからなくもない提案だけど——え、待って。これ決定事項?
まてまてまて。突然の情報過多にまったくついていけません! 脳がフリーズしてます! タイムを!! タイムアウトを要求します!! ————って!?
「なななな、なんで服を脱がそうとするの!? 手を押さえないで!! あ、足も放して!! ちょっ!? そそそそそのうにょうにょ動くのしまって!!? ふあぁあっ!!? ぬぬぬぬ脱ぐのもだめぇええっ!?」
気がつけば3人に囲まれ。自由を奪われ。視界いっぱいに、もしかしたら恋ができるかも知れない人たちの————とてもとても、妖艶な笑み。
あ、知ってる。この後どうなるか、経験で知ってる。これ、もう————詰んじゃってるヤツだ。
ボクができるのは————
「好きな人の、あんなにも可愛い姿を見せられて」
「私たちが、我慢できると思うかい?」
「大丈夫です。準備に抜かりはありませんから」
「安心して♡」
「気持ちよくなろうじゃないか♡」
「ね、お姉ちゃん♡」
————いっぱい泣かされて、たくさん鳴くだけだ。
「まままままってまってまってまって!! なんで? ねえ、なんで!? どうしてここにいるの!? どこから見ていたの!? いつからいたの!? ねえ、何するつもり!? ねえ、答えてよ! 答えてってばあぁ!! ねえ! ばかぁああ!! はわわわわわこわいこわいこわい————————————————————ひょぇえええええええええええええッッッッッッッ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぅにゃぁっ♡」
匿名者の正体とは?
・・・・・・そのうち書くかもしれません