表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アンタ、主役だよ!

作者: 槻野 智也

「ではここで、ご友人代表のスピーチです。沙和様、よろしくお願いいたします!」


司会の声と同時に、拍手が起こる。私は席を立ち、すっと背筋を伸ばす。心臓はドラムロール並みに鳴っていたけれど、今日だけは主役を譲るわけにはいかない。


だって――あいつの親友だからね。


マイクの前に立つと、まずは深呼吸。そして、ちょっとだけ間を取ってから、第一声。


「皆さん、どうもこんにちは! 本日は、沙有里の“親友代表”としてお時間をいただきました、沙和と申します。よろしくお願いします!」


一礼すると、会場の空気がふわっと和んだのを感じた。よし、のった。


「さて、スピーチって、たいてい“泣かせにくる”って相場が決まってますけど――すみません、私、そういうの無理なんです。沙有里とは泣くような話、ほとんどしてきてないんで!」


会場にクスクスと笑いが広がる。狙い通り。


「私たち、出会ったのは高校の演劇部。第一印象? “あ、この子、たぶんめちゃくちゃ根が真面目だな”って思いました。でも次の瞬間、部活説明会で“台本読みたい人ー!”って声に、手を挙げたの私だけで。沈黙。で、その沈黙を破って『あ、私もやります!』って手を挙げてくれたのが、沙有里でした」


うんうんと頷いてくれる人もいる。本人はすでに笑ってる。


「それがきっかけで、気がつけばいつも隣にいた。配役でも、一緒にオーディション落ちたし、一緒に主役も勝ち取った。演劇って、人生と一緒で、“相手を信じないと成り立たない”んです。で、その相棒が沙有里だったのは、本当にラッキーだったと思います」


ここで一息、笑顔で会場を見渡す。


「でもですね、皆さん。ここだけは言わせてください。沙有里、めちゃくちゃ“努力型”です。台詞の覚えも早いし、反応もいい。でも、実は家でひたすら自主練してるんです。台本真っ黒ですから。いやもう、勉強かってくらいの書き込み。ホッチキスでページ増えてる台本、あれ誰が持ってると思います? 新婦ですよ!」


笑いが起こる。ご両親も微笑んでくれていた。


「でも、そんな沙有里が、ついに今日、人生の共演者を選んだわけです。ねえ、新郎さん――この人、全力で愛したら、全力で返してくる人ですよ? うっかり中途半端な愛し方したら、演劇部仕込みの“無言の圧”が飛んでくるかもしれませんからね! お気をつけて!」


笑いが広がる。新郎は吹き出しそうになりながらも、うなずいていた。よし、いいリアクション!


「でも、本当に真面目な話。私が何かに迷ったとき、いつも背中を押してくれたのは沙有里でした。私がミスして落ち込んでたとき、『お客さん、そこまで見てないよ』って言ってくれた一言、今でも大事にしてます。たぶん今日も、緊張してる私に向かって、心の中で『滑っても大丈夫、会場あったかいから』って言ってくれてると思います。……言ってない? いや、絶対言ってる(笑)」


もう一度、笑いの波。そして、声のトーンを少しだけ落とす。


「そんな沙有里。どこに行っても、誰といても、あなたらしく、あなたの舞台を生きてください。泣けるようなエンディングじゃなくていい。あのときの私たちみたいに、スポットライトを浴びながら、誇らしく、ちょっとだけドヤ顔で、カーテンコールを迎えてください」


そして、最後に――最高のセリフで締める。


「では改めて、今日という記念すべき“人生初日”に、心からの拍手を送ります。

――沙有里、アンタ、主役だよ! お幸せに!!」


マイクを離した瞬間、会場に「おーーっ!!」という歓声と拍手。

誰かが口笛を吹き、何人かがスタンディング。

沙有里が泣きながら笑っていた。


これが、私たちのカーテンコールだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ