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地味令嬢の美しすぎる婚約者

作者: 夏野モエギ

 放課後の王立魔法学院、その校舎裏。ひとりの女子生徒が多数の女子生徒に囲まれていた。

 校舎裏は木々が鬱蒼としていて彼女たちのほかに人影はない。


「コレット、わたくしの言いたいことはわかるでしょう?」


 ひとりを囲んでいる側の燃えるような赤い髪をした勝ち気そうな少女が口を開いた。猫のように釣り上がったエメラルドグリーンの瞳が爛々と輝いている。

 そうして彼女は手にしている扇子でコレットと呼んだ少女を勢いよく指した。

 扇子で指され、コレットと呼ばれたのは囲まれている側の少女だ。焦げ茶の髪を肩口で切り揃えているおとなしそうな少女だった。


「……ベランジェール様、婚約は家同士が決めたことですから」

「あら、それなら貴女は別の方と婚約してもいいということですのね。でしたらさっさとリオネルくんを解放して、他の方をお探しになったら?」

「ですから婚約は家同士の……そもそも今から婿入りしてくれる年の近い者を探すのは、すでに婚約している方も多く難しいですし」

「つべこべとうるさい方ですわね。いいからリオネルくんとの婚約を破棄してくださらない? 彼をわたくしの婚約者にしたいの。リオネルくんも伯爵家の地味な令嬢の婿になるより侯爵家の美しい令嬢の婿になる方が嬉しいに決まっているわ」


 うるさいのはどちらだ。コレットは眉根を寄せる。

 わざわざ四人も取り巻きを引き連れて校舎裏に呼び出したと思ったらこれだ。なんの益にもならない、ただただ無駄なやりとり。まさかこんなものをするためだけに呼び出したというのか。

 これだから無駄に身分が高くて誤った貴族意識を持ったご令嬢というのは苦手なのだ。


 はあ、と吐きそうになったため息を堪える。

 何度も何度もコレットの婚約は家同士の約束だと言っているのになぜ理解できない?

 そもそもコレットが仮に婚約を破棄したとして、侯爵令嬢の婚約者が伯爵令嬢のお下がりでいいのか。そんなこと侯爵閣下がお許しになるとは到底思えないが。

 というかこの女、自分が第一王子の婚約者筆頭候補だという自覚があるのか?


 今代の第一王子には、残念ながら年齢が釣り合う公爵家のご令嬢がいない。そのため婚約者は侯爵家や辺境伯家、あるいは伯爵家から選ばれることになった。

 その中でも第一王子と一番年齢が近く身分も高いのがこのベランジェール・アルチュセール侯爵令嬢だ。だから彼女が必然的に婚約者筆頭候補となるのだが。

 いや、そもそもベランジェールのこの性格のせいで、もう十六にもなるのに第一王子の婚約者にも選ばれず、未だに婚約者筆頭候補止まりなのではないだろうか。なんだかそんな気がしてきた。


「コレットさん、ベランジェール様にお返事したらどうなの?」

「そうよ。はやくベランジェール様の言う通りになさいな」


 返事をしないコレットに焦れたのか、ベランジェールの取り巻きたちが騒ぎ立てる。ぴいぴいと、発情期の小鳥のようで大変にうるさい。

 コレットはもう我慢できなくなったため息を吐いて、ベランジェールを見る。ベランジェールは扇子で口元を隠しながらもそのエメラルドグリーンの瞳に嘲笑を浮かべ、コレットを見ていた。


 これが美しい侯爵令嬢ねえ。

 たしかに美醜の観点で言えばコレットはベランジェールに劣るだろう。はっきり言って足元にも及ばない。百人に聞いても百人がそう言うに違いなかった。

 けれど、と思う。真に美しい人を知っているコレットからすれば、ベランジェールの美しさなど道端に咲く花のようだった。


「レティ!」


 ふと、コレットの愛称が呼ばれる。家族と婚約者にしか呼ぶことを許していない愛称だ。

 そうして空から人が降ってきた。

 その人は、風魔法を完璧に操り落下の勢いを完全に殺すと、ふわりと華麗に着地してみせる。黒いローブがはためいた。

 成績優秀者のみに着用が許された漆黒のローブである。


 その人は着地の際に乱れたのか、手でさらりと金糸のような髪を払う。そして紫水晶のような鋭く澄んだ瞳がコレットを捉えた。

 そうするとたちどころに瞳の鋭さは消え、柔らかな春の日差しのような温かさを持って細められた。頰は薔薇色に染まり、血の色をした薄い唇が弧を描く。

 それだけでその場にいるコレットを除いた全員が息を呑むような美しい男だった。


「これはこれはベランジェール嬢、ご機嫌麗しゅうございますか」


 けれどその男はコレットを一瞥しただけで、ベランジェールに向き合うと美しいボウアンドスクレープを披露し、あまつさえベランジェールの手に口づけるフリをした。

 それを見たベランジェールは勝ち誇った顔をしながら頰を染め、声を弾ませた。


「リオネルくん!」

「ええ、リオネル・バトンです」


 そう言ってリオネルは微笑む。その微笑みの直撃を食らったベランジェールは苦しそうに胸を押さえていた。

 この美しさを体現したかのような男、リオネル・バトン子爵令息。彼こそがコレットの婚約者であり、コレットがベランジェールに粘着されている原因であった。


「オレは愛しの婚約者が逢瀬の時間になったというのに姿を見せないので探しに来たのですが」


 別に逢瀬ではなく、ただお茶をする約束をしていただけなのだが。リオネルの言葉を遮ると面倒なのでコレットは口を噤んだ。

 一方、顎に手を添えたリオネルはベランジェールたちとコレットを見比べ、ふむと頷く。

 そうすると、たちまちベランジェールたちは焦ったような顔になる。そんなベランジェールたちを尻目にリオネルはパチンと指を鳴らした。


「これはオレを褒め称える会ですね!」


 そして自信満々にトンチンカンなことを言った。

 呆気に取られるベランジェールたちを見てコレットは頭を抱える。またリオネルの悪癖が始まった。


「つまりオレへの愛を語る場、違いますか? いえ、違わないでしょう。全くオレが美しすぎて申し訳ない!」


 本気で申し訳なさそうな顔をするリオネルにベランジェールたちは戸惑っているようだった。しかし、リオネルは本気でそう思っているし、本気でそう言っている。

 コレットの婚約者は、そういう男なのである。


「ですが愛しの婚約者との逢瀬の時間ですので、その会はここで幕を下ろしていただきましょう……では最後にベランジェール嬢、リピートアフターミー、リオネルくんかっこいい!」

「あ、あの、リオネルくん?」

「さあ、リオネルくんかっこいい、ですよ!」

「り、リオネルくんかっこいい!」

「もっと愛を込めて! リオネルくんかっこいい!」

「リオネルくんかっこいい!」

「エクセレント!」


 そうしてベランジェールに拍手を送る婚約者に白けた目を向けていれば、リオネルがコレットの方へと振り返った。

 首を傾げる。さらりとした金糸が揺れる。そうして彫刻の如き完璧な角度で微笑んだ。


「レティもやりますか?」

「やるわけないでしょう」

「おや、残念。それではベランジェール嬢、オレたちはこれで失礼します」


 そうしてリオネルは、完璧なエスコートでコレットを校舎裏から連れ出したのだった。







 コレットとリオネルは、校舎裏からほど近い裏庭にある温室へと場所を移していた。

 温室にはテーブルもあり、お茶ができるようになっている。先ほど使用人を呼ぶベルを鳴らしたので直にテーブルにはお茶と軽食が並ぶだろう。


「温室は好きですが、花を見ると申し訳なくなりますね。オレの美しさの前では花も恥じらってしまうでしょうから」


 ふう、と息を吐いたリオネルは愁いを帯びた顔をしている。けれど、発言が発言だけにコレットはなんともいえない顔になる。

 あまりにも自意識過剰な発言。しかし、リオネルの美しさを前にすれば当然の発言のように思える。まさに物理こそパワーというか、リオネルこそビューティフルといった感じだ。

 ちなみにこの間にメイドがお茶を運んで来たが、しっかりと憂い顔のリオネルに見惚れていた。それはさておき。


「ちなみに、さっきのはリオを褒め称える会じゃないからね」


 リオネルの愛称を口にしてコレットは言う。

 その発言にリオネルは驚いたように紫水晶の瞳を丸くした。そして眉根を寄せる。


「なるほど、オレへの愛を叫ぶ会でしたか」

「でもないから。それにその会だと、あまり変わりがないし」

「では一体なにを? レティとベランジェール嬢は家格も違えば派閥も違う。接点はないはずでしょう」


 本気でわからないといった顔をするリオネルにコレットはため息を吐く。

 それからいろいろな感情を飲み込むために紅茶を一口飲み、リオネルを見た。


「ベランジェール様は、リオと婚約したいそうよ」


 コレットの言葉にリオネルは再び目を丸くする。そして、笑った。

 まさに抱腹絶倒の勢いだが、その姿も美しい。美人って徳だな、と平凡な顔のコレットは思った。

 そうして、ひいひいと涙を浮かべながら笑っていたリオネルだが、やがて落ち着いたのか涙を拭って美しい微笑みを浮かべた。


「いやはや、ベランジェール嬢は愉快な方ですね。オレがレティ以外と結婚するわけがないのに」

「絡まれていい迷惑だわ」

「すみません、オレが美しいばかりに」

「それはいいのだけれど。リオ、なんだかベランジェール様と親しげじゃなかった?」


 ぱちくりとリオネルがまばたく。

 それから蕩けるような笑みを浮かべた。普段からリオネルの顔を見慣れているコレットでも思わず鼓動が走ってしまうような甘やかな笑みだった。


「妬きましたか?」

「……別に疑問に思っただけ。妬かないわよ、リオが好きなのは私だもの」

「オレのレティへの愛が疑いようもないものなのは事実ですが、それはそれとして嫉妬するレティが見れなかったのは残念ですね」

「そう。あと、話を逸らさないでくれる?」


 リオネルが苦笑した。

 そうして杖ホルダーから杖を引き抜くと、周りに防音魔法をかけた。

 防音魔法は上級の闇魔法だ。成績優秀なのは知っていたが、まさか上級魔法まで使えるようになっていたとは。さすがのコレットも目を丸くした。


「レティを驚かせるために練習した甲斐がありますね」

「そりゃ驚くわよ。上級魔法って言ったら王宮魔法士が使う魔法じゃない」

「美しい上に天才ですみません」

「話を戻すわよ。リオのベランジェール様への態度には防音魔法が必要な何かがあるのね」


 コレットの言葉にリオネルは頷く。

 そして胸に手を当てると完璧な笑みを浮かべる。まるで人形のような、あるいは一枚の絵画のような、完璧で生を感じさせないほどの美しい笑みだった。


「殿下は、オレを試金石にしたいそうです。金を試金石にしようとするなんて全くもっておかしな話ですが」

「……試金石。それって婚約者候補のご令嬢たちがリオに靡かないか試しているってこと?」

「ええ。オレの美しさが国を傾かせるレベルなばかりにその役を仰せつかることになりました」

「そんなのどこでって、生徒会ね」

「さすが、コレット。その通りです」


 成績優秀者に与えられるのは漆黒のローブだけではない。その中から特に優秀なものは生徒会に入会することになっているのだ。

 例に洩れずリオネルは生徒会で副会長をしている。ちなみに会長は第一王子だ。

 そんな王立魔法学院の生徒会といえば、未来の王に仕える側近を探す場でもあった。そこで副会長を務めているにも関わらず、リオネルは将来コレットに婿入りする。それがリオネルの将来を奪っている気がして、コレットは少し引け目を感じていた。

 まあ、リオネルが婿に来てくれなければコレットのダングルベール伯爵家はお家断絶の足音が聞こえてきてしまうのだが。


「殿下に信頼されているのね」

「側近にならないかと誘われました。もちろん断りましたが、オレが冠前絶後なばかりに殿下にもモテてしまって辛いことです」

「それ自分で言う?」

「この世全ての褒め言葉はオレのために存在するので問題ありませんよ」


 問題しかない気がするが、リオネルがそう言うならいいのだろう。本人的には。

 しかし、リオネルの話が本当ならベランジェールはすでに婚約者筆頭候補から外されていることだろう。彼女は完全にリオネルに熱を上げている。


「リオに靡かない人はいそう?」

「ええ。美しすぎるオレですが、愛しい婚約者のいる身。さすがに常識の範囲内でしか動いていませんから。それにオレの美しさのあまり思考停止される方が殆どです」

「ああ、綺麗なものは遠くにあるから綺麗というものね」

「おっとレティ、それは聞き捨てなりませんね。オレはレティに一番オレの美しさを伝えたいのですが?」


 そう言って憤慨するリオネルにコレットは苦笑する。

 別にコレットだってちゃんとリオネルのことは美しいと思っている。ただ名画も毎日見れば飽きはせずとも見慣れるし、リオネルは性格が少し残念だ。だから、近づいてみるとリオネルの印象は変わる。そういう話だ。


「オレの十年をレティに捧げてきたのにこんな酷い話がありますか、いやない! オレはレティのために美しさを磨き、勉学に励み、多くの魔法を習得してきたのに!」

「捧げられているものが重すぎるのだけれど」

「これも全てダングルベール伯爵家に確実に婿入りするため。ひいてはレティと結婚するためなのに!」


 防音の魔法をかけておいて本当によかったと思う。駄々をこねる十七歳の青年など、これで顔が美しくなければ見苦しいことこの上なかった。

 じとりとした目でコレットを見るリオネルに苦笑を返す。


「別にリオならそこまでしなくても婿入りできるのに」

「オレは確実性が欲しかったんですよ。元男爵家のオレでも実績があれば、伯爵はレティの婚約者の座からオレを外さないでしょう?」


 リオネルは元は男爵家の人間だった。それも名ばかり貴族で、平民と同じような暮らしをしているような家だ。

 しかし魔法の才があり、ダングルベール伯爵家の遠縁であったためにコレットの婿候補として、バトン子爵家へ養子に入ったのだった。

 そうしてリオネルは何人かいた婿候補の中から伯爵に選ばれ、コレットの婚約者となった。


「今のリオは私の婚約者にしておくにはもったいないくらいよ」

「それでもオレはレティの婚約者です」

「そうね。あなたは私の婚約者よ」


 コレットがそう言うとリオネルは花がほころぶように笑った。たしかにこれは花も恥じらってしまうかもしれない。

 そんな男が何をどう間違えたのか、平凡なコレットに恋をしている。リオネルの愛は信じているけれど、その事実をコレットは未だに受け入れていなかった。


「コレットはオレの光です」

「ちゃんと貴族らしい貴族になれたから?」

「そういう話じゃないとわかっているでしょうに。全くひどい人ですね」


 リオネルが苦笑する。けれど、コレットを光と呼ぶにはコレットは平凡すぎる。

 ベランジェールを道端の花に例えたけれど、それならコレットは道端に転がる石ころだ。

 よくある焦げ茶の髪に榛色の瞳。見た目も成績も平凡で少し性格が悪い。それがコレットだと自分で認識している。


「賢く冷静で、オレが愛して、オレを愛してくれている。本当に得難い人ですよ、コレットは」

「リオの目には一体どんなフィルターがかかっているの」

「自己評価が低いのは玉に瑕ですが、大丈夫です。そんなところも愛していますよ」

「どうしてリオは、私を好きになったの?」


 そういえば聞いたことのない問いだった。

 気がついたらリオネルはコレットの婚約者になっていたし、気がついたらリオネルはコレットに愛を囁いていた。

 だから、いつからコレットを好いてくれていたのかは知らない。


 ふと、リオネルの反応がないことに気がついた。

 視線をリオネルに向けると、耳まで赤くして俯く姿があった。その珍しい反応にコレットはまばたく。

 リオネルはいつも自信満々で、何を言っても言われても堂々としているのに。


「……一緒に、遊ぼうと言ったんですよ」

「えっ?」

「レティが、オレに一緒に遊ぼうって! 婿候補たちが伯爵家に集められて、レティと顔合わせのお茶会をしているときに!」


 そう言ってリオネルは紅茶を呷った。いつも上品に振る舞うリオネルのその姿にコレットは目を丸くする。

 いや、それよりもそんなことあっただろうか。なにせ小さなころの話だし、あのころは何度も顔合わせのお茶会があったから記憶に残っていない。


「レティは、覚えていないのでしょうけどね!」

「……それは、その、ごめんなさい」

「いいんです。オレが覚えていればいいので」


 けれど正直拍子抜けだった。たったそれだけのことでリオネルはコレットを好きになり、自分の人生の半分以上をコレットに捧げたのか。

 コレットは、ますますリオネルのことが理解できなくなってしまった。

 そんなコレットに気がついたのかリオネルは苦笑して語り始める。


「オレは小さなころから美しすぎたので、よく避けられていたんですよ。子どもは異質なものを嫌うでしょう?」

「それでも、それくらいのことじゃない」

「子どもが恋に落ちるには十分なことですよ。それにコレットの公平性にオレがどれだけ救われたか、コレットにはわからないでしょう?」

「そうね。リオの気持ちはリオだけのものだから」


 コレットは頷く。ただ、そうしてそこから一途に真摯にずっとコレットを思ってくれているリオネルのことをコレットは好きになった。

 リオネルはたしかに美しい。それは疑いようのない事実だ。けれど、コレットはリオネルの一番美しい部分は、その真摯な心根だと思っている。

 しかし、その思いもまたコレットだけのものだった。


「そういえばレティ、今日はまだ褒められていませんね」


 ニコニコと笑ってリオネルが言う。それにコレットはため息を吐いて眉根を寄せた。

 リオネルのことを毎日褒める。それはリオネルがコレットに望む数少ないことの内のひとつだった。


「まだ飽きないの?」

「全く飽きませんね」


 そう言い切るリオネルに再びため息を吐く。

 しかし、これはリオネルが飽きるまで続けると約束を交わしているので、コレットは渋々口を開いた。


「エスコートがうまいところ」

「はい」

「声がいい、顔もいい。あと優しいところ」

「いいですね」

「照れた顔が可愛いところ」


 褒めるというよりはリオネルの好きなところの羅列だ。だから恥ずかしくて、コレットはあまりこの行為に積極的になれない。

 けれどリオネルはそうではないようで、毎日毎日飽きることなくコレットに褒められることをねだる。


「……もういい?」

「ええ、結構です。やはりレティに褒められるのが一番嬉しいですね」

「はやく飽きてよね……あっ」

「どうかしましたか?」


 首を傾げるリオネルにコレットは口を開いて、閉じる。思いついた言葉があるが、これは褒め言葉ではない。

 ただ今日のリオネルについてどこか褒めるところがあったか思い返していたときに、つい思ってしまったのだ。


「別に、なにも」

「そういうときは何かあると言っているようなものですよ。さあ、どうぞ何でも言ってください!」

「……リオが私のことを好きなのは知っているけれど、やっぱりリオが他の女の人と親しげにするのは嫌かも」


 コレットを一瞥して、すぐベランジェールの手に口づけをするフリをしたのは、よくよく考えると割とショックだったかもしれない。そう思ったのだ。

 何の反応もないリオネルを見る。リオネルは首まで赤くして、紫水晶の瞳を潤ませていた。


「……レティは、ずるい」


 手の甲で口元を隠したリオネルが呻くように言う。それにコレットはまばたいた。

 ずるいって、一体何がずるいのだろう。

 そうして首を傾げるコレットにリオネルは思いつく限りの愛の言葉を叫んだのだった。

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