07.来訪者
夕はずぶ濡れの高校生たちを風のエピトで乾かしていた。渦をイメージしてくるくると風で包めばすぐ乾くだろう。雨の日以外はあまりやらない乾かし方だ。
「……で?」
隼人に向けて夕が言えば、隼人は不機嫌そうな顔をしていた。彼らをこうしたのは隼人だろうに、まるで夕の方が悪いことをしているみたいな顔をしないでほしい。さくらに言うぞと念を飛ばす。
涼太と一緒に買い物へ行っているさくらに、隼人が強く出れないことを夕は知っている。まあ、さくらには誰も強く出れないんだけど。しっかり前を向くさくらの強さに、夕は憧れている。
ご飯をつくって、洗濯をして、買い物して、掃除して。みんなで分担しても大変なことを、さくらは自分たちでやろう、と言った。それは、頑張ろうって言われるよりずっと、うん、と頷ける言葉だった。
自分たちでやろう。生きるために。生きて行くために。
格好良いと思った。どんなヒーローよりも、ずっと、さくらは強いと思った。そんなこと言うと、さくらは困ってしまうだろうけど、夕にとってさくらは憧れだ。
夕は涼太と同じ小学校で、隼人とさくらとは別だが、隼人も隼人でさくらと色々とあったんだろう。気になりはするが、無理に聞き出そうとは思わない。これが涼太だったら違ったかもしれないが、夕は涼太ではない。
「それで? どうしたのさ」
夕は隼人が誰彼構わず、人に水をぶっかけるとは思っていない。ただ、この高校生たちがこうしてる間も、特に何もしてこないから事情くらいは聞いた方が良いだろうと思っただけだ。
「不審者だよ、不審者」
「は?」
風がピタリと止まる。
「だから違うって!」
隼人だけでなく、夕からも距離をとられて、焦ったように一人が言った。
「家の周りうろうろしてたんだから不審者だろ。しかも昨日も来てた」
二日続けて家の周りをうろうろされれば、確かに怪しいってなる。しかも、夕たちの家の近くに住んでいる高校生はいない。隼人が不審者だと思うのも納得だった。
「それは確かに不審者だわ」
夕が言うよりも先に、もう一人の高校生の方が頷いた。
「おい、何でそっちにつくんだよ」
「だって、この子のが正しいだろ。お前が怪しまれるような行動をとったのが悪い」
きっぱりと言い切った方の高校生が、隼人と夕を見た。
「ごめんな」
頭を下げたその人と同じように、もう一人の高校生も頭を下げた。
「俺も、ごめん。ただ、本当に確認したいことがあっただけなんだ」
夕と隼人は顔を見合わせた。高校生が小学生相手に頭を下げるほどのこととは何だろう。
もし家に用があるなら、紅一に連絡した方が良いだろう。夕たちも住んでいると言っても、紅一の家だからだ。
「ただいま」
「ただいまー。あれ? お客さん?」
高校生たちで見えなかったが、さくらと涼太が帰って来たようだ。おかえり、と夕が言うより早く、高校生の一人が、ばっと後ろを振り返ってさくらと涼太の方を見た。思わず眉がよる。
その高校生が二人に近付けば、涼太がさくらの前に出た。人懐こそうな顔をしながらも、涼太が高校生を警戒しているのがわかった。もう一人の高校生は振り返りはしたものの、特に動く様子もなく、見守っているような感じだ。
「あの、ちょっといいかな」
間にいる涼太を気にもしないで、高校生はさくらにそう言った。