表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

05.幕間

 伊予利はとにかく必死だった。

 エスパーのエピトと診断された伊予利に出来るのは、物を移動させること。机から落ちた消しゴムを机に移動させたり、体育館の天井に挟まったボールを手元に移動させたりと、ちょっとした移動だ。自分を移動させようとしたこともあったが、とにかく眠くなってしまい、無理なんだなと諦めた。

 そんな、出来ても別に凄いというほどでもなく、まあ、ちょっと便利かな程度で毎日を過ごしていた。

 修学旅行中のバスの中、トラックの荷台で影が出来、窓に目線をやるまで、本当にそう思っていた。

 言葉を出すのも忘れ、トラックにバスがぶつかって来た瞬間、伊予利は考えるよりも先にトラックとバスを移動させた。とにかく無我夢中だった。

 正直、本当に移動出来たかどうか、わからなかった。バスの中が喧騒で包まれる中、伊予利は急激な眠気に逆らえず、意識を手放したからだ。

 ふと、意識が浮上した時、伊予利は右も左も、上も下もわからない場所にいた。体は動かず、声も出ない。時折、誰かの声が遠くに聞こえた気もしたが、本当に小さく、頭の中の自分の声が、誰かの声だと思いたかったのかもしれない。

 考える時間だけがあった。

 朝なのか夜なのか。あの後どうなったのか。本当はもう、ここは死後の世界ではないのか。

 ぐるぐるとぐるぐると、頭の中でどれだけ考え、どれだけ騒ぎ立てたか。伊予利は気がおかしくなりそうだった。

 だから、ぴくりと自身の指先が動いた瞬間、迷わず身体中にこれでもかと力を入れた。目の前に垂らされた糸をむんずと掴み、引っ張るように自分の身体を移動させた。

「触りますね」

 まだ幼い、女の子の声がはっきりと伊予利の耳に届いた。

 手から身体全体に、満たされるような感覚があった。ほっとして、深く息を吸いたくなった瞬間、伊予利は目を覚ました。

 目蓋を何度も開け閉めして、右へ左へ動かせば、頭もぐらぐら動き、解放感でいっぱいになる。

 そして、左側に佇む少女があの声の子だろう。多分、この子がいなければ、伊予利はいまだに目を覚ませていなかった確信があった。とにかく感謝を伝えたかった。

「、みが、……、く、……ん……ね。……とう」

 君が起こしてくれたんだよね。ありがとう。

 そう言ったつもりだったが、声が上手く出なかった。

 もう一度と思い、身体を動かせば、伊予利の左手が幼い手を掴んだままになっていた。

「ごめん」

 今度は言えたが、どうにも格好がつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ