04.手がかり
布団に入りながら、さくらは本を開き、考えていた。
さくらたちが死ぬ時間帯はわからないが、曜日はわかる。明が家を訪ねてくるのはいつも日曜日の十時か、早くても九時くらいだ。それよりも前に紅一がさくらたちを発見しているが、前日の土曜日には殺されていたのではないだろうか。
そうでもなければ、家ごと燃やすようなことを紅一がするとは思えなかった。手遅れな状態だったからこそ、紅一は自分で弔ったのではないかとさくらは思っている。
とはいえ、何があったのかはいまだにわからない。犯人にしても、さくらたちは子どもとはいえ、四人もいるのだから、捕まえて始末するのはそれなりに大変だったはずだ。それなのにわざわざ、さくらたちを選んだ。
そこまで考えたが、そもそも犯行に理由があるのか、ないのかすらわからず、さくらは行き詰まっていた。犯行理由が誰でもよかったとかだったら対策のしようがない。せめて、もう少し情報がほしい。
本を開いたままさくらが突っ伏せば、沈むような感覚があった。
「え、」
さくらは女の子だったこともあり、一人部屋で、気付いてくれる者は誰もいない。顔から沈んでいることもあり、声も出ない。
そのままさくらは、とぷんと本に入ってしまった。
目を開ければ、建物よりも高い位置に一瞬ぎょっとするものの、落ちることもなく、さくらはその場に浮いていた。
「ここ、本の中?」
普段はさくらが両手で触れていないと存在すらしない本が、目の前で勝手にぱらぱらと捲れている。こんなこと、今までなく、さくらは困惑した。
そのまま本には触れず、きょろきょろと上から眺めていれば、ふと、一人の人物が目についた。
長い髪を後ろで結んだ女性は、さくらの通っている小学校の養護教諭、名倉矢苗だ。掃除当番で保健室の掃除をする時知り合った程度で、さくらはあまり関わりはないものの、会えば声を掛けてくれる。彼女の髪は肩で切り揃えられていたはずだが、ここは過去か未来だろうか。
さくらは他に目星があるわけでもなかったため、そのまま矢苗を目で追いかければ、自然と体も動いた。本も一緒についてきたので、胸元に抱え込んだ。ふわふわと後を追っても、矢苗はさくらに気づく様子はない。
たどり着いた先はマンションの一室で、矢苗はそこで暮らしているらしい。
玄関から廊下までは何もなかったが、扉を開けた床やテーブルの上には隙間を探す方が難しいほど、冊子や紙が散らばっていた。いくつか貼ってある付箋は走り書きのような荒々しい字が書いてある。
さくらは物には触れなかったが、読める範囲で散らばっている紙や冊子に目を通した。エピトの謎、エスパーに隠された秘密、エスパーによる事例……。どれもエピト、それもエスパーについて書いてあったが、一つだけ新聞の記事が混じっていた。
日付はさくらからしたらまだ来ていない、今年の秋。トラックとバスの事故の記事だ。反対車線を走行していたトラックが横転しかけた先に、修学旅行中の学生たちが乗ったバスがあったが、意識不明が一人だけで死傷者はゼロ。
タイヤ痕と車の位置が不自然なほど離れており、バスとトラックは互いに互いの車を弾いたことで、死傷者が出なかったのではと書かれているが、さくらはそうはならないだろと思った。ボールとボールならまだしも、鉄の塊と鉄の塊がそんな風になるだろうか。エピトでもそんなのが出来るのは限られる。
もし、力業で解決したとすれば強化のエピトだ。彼、彼女たちはどんなに華奢な姿をしていようと指先に力をいれただけで鉄パイプがシャーペンの芯のように折れる。しかし、そんなことはどこにも書かれていない。
そうなると、エスパーのエピトだが、他のエピトの場合、運動した時と同じで糖質と脂質がエネルギー源になるが、エスパーのエピトの場合、脳が活発になるためブドウ糖がエネルギー源となる。そのため使い過ぎれば急激な眠気に襲われたり、昏睡状態になるのだ。この意識不明者がエスパーのエピトなら納得だった。
記事から視線をずらせば、写真立てが目に入る。袴姿の矢苗と学ラン姿の男の子が並んで写っていた。二人とも目元や髪の癖が似ており、言われなくても姉弟だとわかった。
おそらく、この男の子が記事にある意識不明者で、エスパーのエピトなのだろう。詳しくはわからないが、矢苗はエスパーのエピトを調べることで、弟の目を覚ます方法を調べているようだ。部屋の散らかりように目を瞑れば、まあ、普通と言えなくもない。
収穫はこのくらいか、と思った次の瞬間には、さくらは病室にいた。さほど驚きはないが、取り扱い説明書が欲しいところである。
病室のベッドの上のところには名倉伊予利と書かれており、写真よりも大人びた彼がそこにいた。
見舞いのメッセージボードには、早く目を覚ませよなと真ん中にでかでかと書いてあった。その横には卓上カレンダーが置いてあり、日付まではわからないが、記事が書かれた年からさらに一年は経っているようだ。
さくらは伊予利に引き付けられるような感覚があった。呼ばれているというより、求められている感覚だ。伊予利の顔に触れるくらい、さくらが近づけば、ますますその感覚が強くなった。




