12.夏休みにて
夏休みに入り、公民館の中にある、いつもの小さな図書館ではなく、家からそれなりに距離はあるが、二階に学習室がある大きな図書館にさくらは来ていた。隼人は学校の畑で育てているスイカの収穫。涼太と夕も学校で、朝顔の観察や水やりがあるそうだ。
さくらは残念なことに、植物を育てるより枯らす方が得意で、同級生と一緒に育ててたはずのトマトが、さくらのとこだけ枯れたので、引っこ抜いて土に還した。毎年諦めず、担任の倉持先生はさくらに苗を選ばせてくれるが、選ばれた苗に申し訳なかった。思えば、これも前世からだ。
花の苗はそもそも芽が出ない。植木は気づけば枯れ枝より細くなってしまう。肥料や水やりに気をつけてもご覧の有り様だが、困ることでもない。
隼人が家を出る前、さくらに一緒に行くかと声を掛けてくれたが、大きな図書館の方へ行くからと断ったのだ。
課題図書のコーナーから本を一冊選び、図書館の椅子に座りながら開く。文字を目で追いながら、さくらは別のことを考えていた。
伊予利と司が来た日、紅一と明はさくらに何かを聞くことはなかった。それは隼人たちもだ。まあ、伊予利と司が当事者なので、さくらは伊予利と偶々夢で繋がり、巻き込まれただけと思われているのかもしれない。
未来は変わっていない。
何度文章が変わろうと、本の結末は一緒だ。
本当は、このことを話すべきなのかもしれない。
繰り返し、何度もそう思う度、不確かなことを言って、混乱を招くのは避けたいといった気持ちがさくらを押し留める。
あとがきまで読み終えた本は元の場所に戻し、二階の学習室でさくらは作文用紙と向き合い、書き終える。
どうしたら、をさくらは考える。
どうしたら、そうならないのか。
どうしたら、そうなるのか。
どうしたら、それが変わるのか。
さくらはずっと正解を探している。
ふと、外を見れば、綺麗な青空が広がっていて、二階のバルコニーから外階段を使おうと出れば、バルコニーの椅子に座り、空を見上げている先客がいた。
まだ中学生くらいの背格好の少年は、日に当たった髪が光を反射し、麦畑のような色が目を引いた。
少年の頬から顎にかけて、汗とも涙ともつかない水滴が伝う。
その瞬間、さくらは少年と目が合った。
さくらは瞬きをして、何でもないように顔を反らしたが、少年の方は慌てた様子で、足元に置いていたバッグに足を引っ掛け、倒れたバッグから参考書やノート、クリアホルダーが飛び出し、クリアホルダーからさらにプリントが広がってさくらの足元まで飛んで来た。
再度、さくらと少年の目が合う。
少年の真っ赤になった顔に気付かないふりをして、さくらは足元からプリントを拾い集めれば、少年もハッとして参考書やノートをかき集めていた。
「うわわわ、ごめん! あの、気にしなくていいから!」
「いえ、」
流石に足元にまで来れば誰でも拾うと思うんだけど、という言葉をさくらは呑み込んで、拾ったプリントを少年に手渡した。
「多分、これで全部だと思うんですが」
「……ありがとう」
眉を下げて少年はそう言うと、さくらの方に顔を向けた。




