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11.分岐前

 蒼山藤司が亡くなった。

 八月に入ってすぐのことだ。

 社宅から会社へ行く道、見通しが悪いなんてこともない、ただの交差点。

 信号無視の車に轢かれ、即死。

 運転手はブレーキが効かなかったと言っていたそうだ。

 真っ白な棺桶に入る藤司を、悠真は見ることができなかった。遺体の損傷が激しかったからではない。泣くのを堪えて下を向く紬の隣で、悠真は藤司の遺影の方を見ていた。

 すっと横に誰かが来たのに気付き、長く居すぎたかと、悠真がその人物を見れば、自分たちとは別の課の紅一がいた。

 藤司がよく話していた人物だ。

 そういえば、藤司さんと同い年なんだっけ。この人にだけは藤司さんは何故か敬語だった。もう一人、紅一と同じ課の人物も同じ年なのに、そっちにはタメ口だったけど。

 悠真はその理由を知らない。これから知ることもないだろう。答え合わせはもう出来ないのだから。

 藤司に代わり、課長になったのは満だった。単純に藤司の次に長く勤めていて、藤司の補佐もしていたからといった理由だ。満の補佐は類がすることになった。

 警察から調査依頼が入ったのは翌月だった。

 修学旅行中のバスとトラックの接触事故だ。

 警察が現場に到着した時にはバスとトラックはヘコミはあるものの、離れた位置にあり、車の位置を動かしたか運転手たちに聞いたが、接触した瞬間には互いの車が触れ合わない位置にあったと言っていたという。

 怪我人なし。バスに乗っていた学生が一人意識不明なのが気になった。

「しかし、また車の事故か……」

 そう言った警察の言葉が、悠真の耳に入る。

 事故、事故、事故、思い返せば車の事故が最近多発していた。一瞬藤司のことが過ったが、頭を振る。エピトに関わることならとっくにオルクに依頼が来ているはずだ。それがないということは、エピトは関係ないということ。

 逆に、今回の依頼はエピトの関わりがあるということだ。

 道路、車、人物など、細かく調べていく。

「なんだ、これ……?」

 専門の整備士たちに任せていたトラックの分解中、それは見つかった。

 ある部品が欠けて、他の部品に欠けた部分が粉をまぶしたように散らばっていたのだ。変色からか、ライトを当てるとキラキラと金色に反射するそれに、整備士たちの眉が寄る。

 その中に、「あれ?」と思い当たる者がいた。先月、ディーラーに勤めてる友人の整備士に聞いた車の状態と一致していたからだ。原因がわからないため、まだそのディーラーにあったはずだ。

 先輩の整備士に伝えると、すぐ友人に連絡を取るよう言われ、慌てて連絡する。事情を説明した後、テレビ電話で状態を見せれば同じことが起きていたことが判明した。

 警察はその知らせを受け、これまでの自動車事故を再度調べ直し、全て状態が一致していることに、事故から事件へ一変。急激に動き出した現場で、バスとトラックの移動についてだけが不明なまま取り残された。

 いや、ある程度、予想はついていた。

 意識不明の学生のエピトがエスパーなことや、物を移動できるタイプだということを知っていれば、誰だってわかる。

 悠真は縁を視る。運命の赤い糸のようなものとは違い、今の縁だ。大抵被害者には加害者からの絡み付くような濁った糸が巻き付いているが、病室で眠る彼にはないことから、今回の仕事は終わりを迎えた。あとは医療機関に委ねるしかない。

 医師の見立てだと、エピト欠乏症で、何らかの原因により減ったエピトを回復させるために眠った状態だという。治療薬はなく、起きるのを待つしかない。それまではずっと眠ったままだ。

「納得いかないって顔だな」

 紬が件の学生についてどうなったのか聞いて来たから悠真は話したのだが、紬はどうにも納得していないようだった。

「納得いかないというか、もし、その学生がエピトを使わなかったら、」

 眠り続けることもなかったのに? いや、それこそ、永遠の眠りが待っていただろう。

「トラックは横転。バスも潰れて死傷者も出ただろうな」

 きっぱりと悠真が言えば、紬は口を引き結んだ。

「俺たちに出来ることはない」

 それは紬に対して言い聞かせるようでもあり、自分に対してでもあった。

 俺たちに出来ることはない。

 再度口の中で転がした言葉は苦く、いつまでも喉につっかかっている気がした。

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