自殺少女とOD少年 第1幕 その8
ブゥゥゥゥンというスマホのバイブ音に起される。
ドグラマグラかよと寝ぼけまなこにツッコんでスマホを取る。ポンちゅ~さんだ。
スマホの左上には23時の表示。夕寝が過ぎた。
『もしもし』
『寝てたでしょ』
『ほんっとゴメン。カチノンあげるから!』
『誠ナリか!?』
キテレツ大百科のコロ助の声。というか名古屋育ちなのによく知ってるな。静岡県は狂ったように夕方にキテレツを流していたのだが。最終回の次の日に第一話やったんだぜ?
『もぅ~ブタゴリラったらぁ』
あんまり似てないトンガリで返す。
『28点って誰がブタゴリラやねん』
『低すぎて草。あ、今どこ?』
『今タクシー乗ったとこ』
玄関前にいるんじゃなくて良かったとホッとしつつ、
『そんじゃ来たらピンポンね』
『わかったナリ~勉三さ――』
次にくる言葉を素早く察して即効切った。タクシー内で下ネタやるもんなのだろうか。やはり面白い人だ。
ピンポーンの音からしばらくしてポンちゅ~さんが玄関のドアを開けた。
「ひさしぶりー」
「GW以来じゃね?」そう言いながら荷物を受け取って聞く。「どこ置く?」
「テキトーでいいよー」
とりあえず生活の動線の邪魔にならない辺りに置くことにする。
「っていうか大麻臭いよ」
「ま?」
「うっそー」
しょうがないポン中姐さんだな。
適当に笑っているとポンちゅ~さんはクネクネしだす。
「お風呂ンにする? おデパスにする? そ・れ・と・も……」
ちょっと強引だけど笑ってしまった。
「いやー涼しいねえ」
うーんと伸びをするポンちゅ~さん。自虐じゃないよな。笑ったし。
「Weed吸いたーい」
「あるよ。インディカだけど」
「ダウナーか。どうしよっかな」
「リキッドならゴリラグルーある」
「お、いいじゃん。吸わせてけろ」
充電しときましたぜ姐さんと豊臣秀吉だか何だかわからないモノマネをして本体――ヴェポライザーを渡す。
「おーこの香り~」
すぐ吸わないでゆっくり匂いから楽しむ辺りベテラン感がある。というか本人談ではヘロイン以外ほぼメジャーなドラッグや植物は網羅していたはずだ。
十分に堪能したのかポンちゅ~さんはヴェポライザーのプレヒートをオンにする。先にリキッドを熱するとより強くキマるようになる。
「どう? 結構美味いでしょ?」
ポンちゅ~さんは上斜め四十五度を保ちながら手の空いている左手でサムズアップしている。
30秒程たってようやくポンちゅ~さんはゆっくりと味わうように煙を吐き出した。立ち上る白煙が薄暗いライトに照らされてイイ感じだ。
「ぷはーいいネタじゃん」
「でしょ? 一本7000円だけどね」
「コスパもいいじゃん」
「最近リキッド安くなってるよ。業者うじゃうじゃいて、合法も非合法も闇鍋になってる」
「そこよなー。脱法ドラッグという過去の闇鍋」
そんなのあったなと思い出す。この人いくつなんだろう。まあネットがあるし今時年齢はあんまりKANKEIないか
。
早くも2パフ目に入っているポンちゅ~さん。
「はい、ウィルキンソン」
息止めたまま飲むなよと何かふざけてきそうな気がしたが杞憂だった。
「ぷはー2 やっぱりウィルキンソンしか勝たん。てかヘッドハイすごっ」
少し遅れてリキッドが効いてきたのだろう。頭や顔がしゅわしゅわするような不思議な感じがヘッドハイと呼ばれているやつだ
。
目に付いたのでついでに顔拭きシートを「いる?」と聞くと
「欲しい。さっすが堂島ニキ」
「そなんかねぇ」
「そうです優しくて……ええよく気付く子でした」
ポンちゅ~さんは隙あらばボケようとする。しかも今は大麻リキッドでハイな状態ときてる。まあにぎやかでいいか。
「ネキークーラー寒くない?」
「ほらすぐ気付く。浮気相手の髪の毛見つけるタイプ」
気付くねぇ……あまり実感はないが人の顔色を窺っていた子供時代だったように思う。ODのせいか最近は記憶が曖昧だ。いくつだよ。脳年齢。
――と刹那、閃きを得る。
まさに電球がピコーンって感じでゲームのサガシリーズみたいだった。
そうだ。“気付く”!
慌ててスマホを探すが見当たらない。ふとポンちゅ~さんと目が合うと彼女はスマホと大麻を器用に弄りながら、あっちと指示した。
ナイス。
画面を開きパスワードを入力。
まさに天啓。
胸がどきどきする。手が震えているのは処方薬の副作用だけじゃない。
ややあってどうにかXを起動する。
すぐさまDMの一覧へ。探すのはメメ子だ。
会話を遡っていく。
きっと一番上のあたりだ。
あった。
『おはよー。昨日は気付いてくれてありがとー』
『昨日は気付いてくれてありがとー』
『気付いてくれてありがとー』
『“気付いてくれて”』
なぜ見落としていた。最初からメメ子は叫んでいたんだ。
俺は気付いてしっまったのだ――メメ子という自殺少女に。
<第一幕 21世紀半透明少女KANKEI 完>