自殺少女とOD少年 第1幕 その7
果たしてデス子はクレーンゲームをしていた。狙うはチェンソーマンのポチ太だ。
ふにゃふにゃのアームの外側をうまく使って、デス子はぬいぐるみをゲット。やりますねえ。
最近のクレーンゲームは俺には難しすぎる。確率機と呼ばれる設定金額を超えればほぼとれる仕様のしかやらないオンライン版も未プレイだ。
そもそも俺にはぬいぐるみの「現場猫くん」「レオン」「ちびくま」の大事な3人がいる。ファブリーズさえできない溺愛っぷりだ。
「やっほー」
ポチ太を優しく取り出しているデス子にメメ子が声を掛ける。
「あーメメ子」
デス子は一瞬壊顔したが俺の存在を認めると顔が戻った。警戒されているか。
「こっち堂島さんー」
そんなことを知ってか知らずかメメ子が紹介してくれる。
「よろしくです」と軽く頭を下げる。
「デス子です。こんにちは」
ちょっと緊張した空気を感じる。
「ポチ太かわいいですよね」
こくりとデス子。単に人見知りかコミュ障なのかな。
「ねーワイちゃんカラオケ行きたいー」
デス子から受け取ったポチ太をなでなでしながらメメ子が聞く。
デス子はこちらををうかがっているように思う。ちらちらとした視点が気になった。さてどうしたものか。
「カラオケってどこの?」
とりあえずの時間稼ぎで会話を広げようとしてみる。
「駅南のまねきねこ好きー」
「あそこか。まあ近いか。何歌おう」
ブーンをスマホが唸った。通話だ。着信画面を見せつつ、ごめんとジェスチャーして少し離れたところに移動する。
「いえーい」
ちょっと低く宝塚みたいな印象の声――ポンちゅ~さんだ。
酷いネームだが本来は麻雀で「中」をポンしまくるからポンちゃんだったのだが、いつの間にやら本当の覚せい剤中毒になって今に至るというわけだ。ちなみに性別も不明で面白い人だと思っている。
今日はタイミングが良い日だ。ちょっと空気が張り詰めていたから助かった。
「よーどした?」
「今日さ出稼ぎで静岡市きてっから遊ばない?」
ポンちゅ~さんはデリヘル嬢?だ。性風俗については全くと言っていいほどしらない。
「何時くらい?」
「今日最終日で明日の夕方に帰りたいから夜中かから昼過ぎまで泊っていい?」
「おけおけ」
通院以外でのカレンダーに印はついていないし。
「じゃあまた夕方以降にlineすね!」
「あいー」
メモとアラームの設定をして二人のもとに戻る。
「おまたせー」
「堂島さーんどうだった? 急用?」
まだポチ太を抱いたままのメメ子。
「そんなところ。悪いけど先帰るわ。デス子さんもありがとね。んじゃ」
「またねー」
胸元で手を振って二人と別れた。
そろそろ夕方だ。
どこに潜んでいたのかってくらい行きかう人の群れは大きい。これに引きこもりや障碍者、老人老婆も含めたらもっといるんだろう。
SEKAIは無意味だ。いや無情にして無常?
思考途中でスマホがなった。通知を見てみると今度は20代の男が市販薬数百錠飲んでいるツイートがあった。市販薬で死ねるのはあまりないはずだが、それでも飲まずにはいられないのかもなと思った。
そして今度は中東かどっかの大量死。インプレ数は前者のほうが多い。一分で消化されてしまうような死。統計上の数にしかならない死。
SEKAIは無意味な死に溢れていた。だがと俺は道行く人々を観る。無意味な生で溢れてる。
ちょっと憂鬱が首をもたげてきた。思慮思考は素晴らしいが幸せホルモンを出す脳がついていかない。
俺は自販機で買ったいろはすで頓服のデパス0.5ミリを二錠とクエチアピン100mgを口に含むと一気に流した。
「デパス神」と勝手に呼んでいる。急な不安だったり、睡眠導入剤がわりだったりと万能の活躍をみせるからだ。
ただし、依存度が強く最近の医者では簡単には出してくれない。おじいちゃん先生だと出してくれるともっぱらのウワサだ。
それからクアチアピン。鬱に効く。なんか太る。そんなもんか。
久しぶりに真昼の長さに玄関のドアを開けて三和土のあたりにへたりこむ。何とか鍵を閉めて一服する。
「ふー」
昼間は外で煙草は吸わない主義だ。まあ条例的には違反か?
さてと、溜まった通知を確かめないとな。
大半がおはようやツイートへの返信だった。それらを返し終わると次はXのだ。
まずはODコミュニティで参加希望者に承認する。
あとは既読感覚で全投稿にいいねをながら、質問したが返信ゼロな投稿に答えていく。
さてさてポンちゅ~さんが来るからとベタナミンをドープする。
20分ほどで疲労感やら眠気がすっかり消えていた。あと少し落ち着けば少し掃除できるだろう。
ふぅとため息をついて部屋を見回す。
少しだけ掃除をし終えた俺は、ポンちゅ~さんに『掃除完』。すぐさま返事が来た。
『今日はあがりー今日のごもぐもぐご飯は何かな?』
『デパスとサイレとメジコン20。ちょい待てよ』
『あーあったあった』
お薬なくすののはOD界隈のあるあるだろう。
『レタスとブロンが少しや』
『ハッピーセットかな?』
苦笑してリキッドとかもまだあるからと優しく返す。
『あーあれ持ってって良き?』
『止めても無駄ってアドラーが言ってた』
『それじゃまた夜に連絡するからねーまたね』
なんだか最近女性や性的マイノリティとばっかり話しているような?
病み界隈は圧倒的に女性が多い。
男はプライドでできてるから未だに恥の概念があるのだろうか。