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男子共に混じって解消することにした。

 男子共に混じって解消することにした。


 お母さんが小学生の頃は男子はみんな外でドッジボールやサッカーや、それか体育館でバスケをやっていたらしいが、わたしたちはそれをしない。

 そもそも外で遊びたがる人が減ったっていう理由は意外と学校の中だとそんなになくって、それより大きいのがやっぱり子供が少ないから。

 チーム戦やろうにも、人数が少ないと盛り上がらないのだ。

 強い人は限られているし、下手な奴ばっかでやってもつまんないから、必然、個人プレイのスポーツ、また、かなりの少人数でできるスポーツや外遊びに寄っていく。

 卓球、バドミントン、追いかけっこ、縄跳び、一輪車、なんとか鬼、ぐりこ、それから――格闘技。


 わたしが大きく踏み込み手を大きく突き出すとしゅん君はびびった。初手でそこまで距離を詰められるとは思ってもいなかったのだろう。しゅんくんがわたしの肩を掴む。おっかなびっくり。「遠慮しないで」耳元で言うと一瞬のためらいの後、覚悟を決めたのかぎゅっとシャツを掴んでくる。わたしがニッとしゅんくんに笑い返すとそこで握ってくる力を弱めてしまう。足引っ掛けて払ってバランス崩したところをこちらも肩を掴み返して押しやる。しゅんくんが倒れてわたしを掴んでいたしゅんくんも倒れて二人して地面にべたり。

「はい。わたしの勝ち」

「あいさんずるいよ」

「何が? 次誰かやる?」

 みんなが顔を見合わせた後、次は俺とそれからお前なみたいな感じで順番が決まってく。それから勝ち上がった奴がトーナメントであいちゃんとやるみたいな感じでどうだ?ってなる。聞かれたから「うん。わたしはそれでいいよ」と言う。心なしみんなの顔がほころぶ。


 て言ったって、休み時間中に順番が律儀に回ってくるわけもない。わたしから合わせて予選で5戦したところで休み時間が終わる。

「じゃあ次は僕とあい

 って、ひろきが言ったところでベルが鳴り、わたしはあんまり気が晴れなかったなと後悔する。

 男子たちの間で柔道が流行ってるから来てみたけど、これなら教室でお話してた方がよっぽど気が晴れたかもしれない。

 明日は来ない。

「んじゃあまた明日だな。それかこのまま放課後やる?」

 誰かが放った言葉をわたしはぼんやり聞き流す。さっさと帰らないといけない。しゅんくんがぱたぱたと寄ってくる。しゅんくんは弱っちい子。ちいさい。ちょっとかわいい。

「あいさんごめん」

「なにが?」

「服……」

「ん」

 肩のところが寄れていた。んでもって、しゅんくんと一緒に倒れた時に横にずれて地面をついてしまった右手には泥が。

「いいよ。こんなん」

 どうせバ……おばあちゃんが洗濯してアイロンも掛けるだろうし。

 横でまだ何か言いたそうにもじもじしていたしゅんくんに急に悪戯心が芽生えてくる。わたしは言う。

「ざこだね。しゅんくん」

 さっと羞恥に染まる。しおらしくなる。斜め左後ろを歩いていた竜也が「ふへひ」と気持ちの悪い笑い方をする。続けて「だよな。あいちゃん。しゅんさ」と言うから「うるせえな。こっちが喋ってんだろ。良いこと教えてやろうと思ってたのに乗っかってきてんじゃねえよ。黙れダボ」と言う。

 竜也が足を止める。

 泣き出して、ついイラッときたので唾ぺって吐く。顔面狙ったけど、肩にいった。残念。「わーきたねー!」と竜也の周りにいた男子たちが竜也を囲んで虐め始めたのでわたしは邪魔なのがいなくなったこれ幸いと「んでね?」としゅんくんに向き直る。

「……どうしたの?」

「なんでも、」

 もごもご。

「最後まで言え。途中でやめんな」

「えっと……」

 尚ももごもごするしゅんくんを根気よく待つ。しゅんくんは「えっと」とか「あーっと」とか言った後に、

「ああいうことして、誰にどう思われるって気になんないの?」

 的なことを言う。

 真剣に解読した。たぶんニュアンスそんな感じ。

 わたしは言う。

「そんなことよりさ? さっきの柔道だけどさ? しゅんくんもっと思い切りよくやった方がいいよ? スピードだよ。スピード。初手最速が最強だから。相手が油断しているうちにぱんってぶん投げるんだよ」

 しゅんくんは何か言いたそうにしていたけれど、結局やめたみたいで、「でもあいさんみたいな女の子にそんな乱暴なことしたらいけないよ」と知った風なことを言う。言おうとして言えないことを言わせてやろうというさっきまで気持ちも、今しゅんくんに言われたことをちゃんと答えてあげることで流れてしまう。

「いいんだよ」

「いいの?」

「弱い奴が悪いんだから。それに」

「それに?」

「殴って蹴って乱暴した後に優しくしてみて。ざこってチョロいから。それからずっと言うこときいてくれるようになるよ。そっちのが得なんだからそうした方がいいよ。わたしそうする」

「……あいさんって」

 また何か言いたそう。

「しゅんくんは別」

「?」

 しゅんくんは怪訝な顔をした。ふたりとも校舎に向かって歩きで、ずっと前向いたままだった。わたしはくっとちゃんと横向き、しゅんのお顔を見てあげる。緊張が伝ってくる。

「さん付けで呼んでくれるから」

「え? さん付け? ふつうそうじゃ」

「みんなちゃん付け。呼び捨ては呼び捨てでなんか別。さん付けってお姉さんな感じがしてなんか良い。だからしゅんくんはいい感じ。とくべつ」

「とくべつ……」

「とくべつ。しゅんくんはいい感じだから好き」

 わたしはしゅんくんに頬寄せひそひそ声で訊く。

「……しゅんくんって今好きな人いる?」

「あいさん」

 真っ赤っ赤になったしゅんくんににこって笑ってわたしは教室に入った。




 まあちゃんが「どこ行ってたの?」と聞いてきた。

「男子と遊んでた」

「ふうん?」

 こてんと首が折れた。

「ふへひ」

「なあに。そのキモい笑い方」

「あ?」

「はいはい。いい加減やめなって。そのあ?とかお?とか。みんな怖がってるよ。宥めてるのあたしなんだからね」

「なおんない。頼んでない」

「なおそうとしてない、でしょ。まったくもう」

「ふへひー」

 ちらっとしゅんくんに目をやる。しゅんくんは自分の席に座っていた。さっと俯く。

 前を向く。

 まあちゃんが三つ編みにしたツインテ揺らしてしゅんくんに視線をやる。次いでわたしを向く。ぐぐぐって顔がなる。眉間の皺に「何かした?」って書いてあるよう。わたしは「ふへひー」ってしつこいくらいに笑ってやった。


 まあちゃん:親友。

 しゅんくん:まあちゃんの幼馴染でまあちゃんの好きな人。


 人のもん盗るのたのしい。


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