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以下、走り書き。

 四人の中一人が他三人を統合している?

 そもそも四人とも四人が独立した意思を持っているのか。

 どこまでそれっぽく人間なのか。

 てか人間か?

 身体的機能は人間と同一か。

 乗っ取りというのは有り得るのか。

 一人が本物のあいつの母親で他三人が違うという可能性は。

 もっと単純に実は四つ子(五つ子?)だった可能性は。


「それじゃ良い子にして待ってるんだよ」

 バイバイ、と胸の前で小さく手を振る。わたしはどちらかというと、身振り手振りが大きい方だと自負しているけれど、今こうして自信なさげに動きが小さくなってしまうのは、掃き出し窓の向こう側でぎゅっと両手を握りしめてわたしを見つめるコミちゃんへの申し訳なさがあるから。

 コミちゃんの言うことを信じるなら、コミちゃんは学校に通っていなきゃいけない年齢のはずで、わたしの隣の席に座っていたかもしれない年齢のはずで。

 なのに、自分と同じ顔した人らに囲まれて一日中外も出られず遊ぶことも出来ずにそうしてただずっと家にいるなんて。

 ごめんね。

 わたしは喉まで出掛かった声をすんでで止めた。「ぐぐっ」と変なくぐもった声が出てしまう。訝しげな目つきでコミちゃんが一瞬見遣るも、その隙に犬がぐわっと寄ってきてびくついてしまう。お姉さんは、怖がるからいけねーんだ、ほらこいよってこっちがドンと構えていれば向こうも安心して寄ってくる、見てみな、となんか偉そうに講釈垂れてたけれど、お前が持ってくるからいけねーんだろーが、わたしがこんな目に合ってるんだろうが、とわたしは思ってしまってやっぱり犬はこあいから好きじゃない。

 わたしは逃げるようにして庭を出ていった。


 ガッチャンガッチャンランドセルを鳴らしながら道へと出る。背後でやかましく犬が吠えだして、近所のおばさんが玄関から出てきたところで、あ、挨拶と身体がブレーキ掛けるも、犬のこといろいろ言われたらどうしようと頭に過ぎりやっぱりダッシュする。

 懸念点一。

 タメダのメモ二。


・犬どっから持ってきた?


 それなのだ。

 お母さんの八歳の頃。二十年前だって野犬はいなかったろう。その時、今、変わらずお母さんはどこから犬を調達……連れてきているのか。

 ペットショップはないとして。

 多頭飼いの飼育放棄現場? この辺りにあるかは知らない。だが、それだって勝手に連れてきちゃえば窃盗にあたるのでは?

「うーん。いつだっけ? なんかいつの間にって感じなんだけど」

 わたしは学校へと急いだ。




「なにそれ」

 わたしがタメダの『・精神に宿っているのは本当にあいつのお母さんか?』 の下の、見た目の割には綺麗な字で書かれた走り書きを眺めていた。

 まあちゃんが話し掛けてきた。

 そりゃそっか。いつも外走り回っているわたしがこうして両手上げて紙持って唸っていれば誰かしら寄ってくるだろう。

 わたしは言った。

「宿題」

「今日の宿題って漢字の書き取りでしょ」

「タメダからの宿題」

 と、わたしが隠さず答えるとまあちゃんは嫌そうな顔をした。タメダが苦手なのだ。

 まあちゃんも家は近くだ。当然、公園にいる不審な男は把握している。タメダと話したことのないまあちゃんが怖がるのも無理はないだろう。

 話してみるとふつうなのにな。見た目そのまんまの話し方だけど。それがダメなのか。

 少なくとも悪意はない。

「見せて」

 わたしは特に警戒もせず見せる。「わっ」とまあちゃんが声を上げた。「よくこんなの読めるね」とも。

「難しい字多すぎて分かんない」

「わたしには内容が難しい」

 それきり飽きたようだ。まあちゃんはランドセルを自身のロッカーに仕舞うと別グループの元へと走った。わたしは視線が向けられているのを肌で感じたが無視する。それどころじゃない。

 タメダ、考えすぎだ。

 信心深い、は違うな。小説か映画の中の話みてーだって言ってたから、たぶん思考がそっちの方に寄っちゃっているんだろう。

 わたしにはあの四人が四人とも独立した意識を持っているようにしかみえないし、誰か一人が他三人を操作している制御しているってこともないように思えてならない。だって、赤ちゃんとコミちゃんなんか全然だもん。だめだめ。おばあさんのゴミだって言ってやめるってこともないし。人間か? 人間だろう。他に何があるの。物体X? アホか。

 アホだ。バカだタメダは。

 あと、四つ子?この(五つ子)ってのは、消えた本物のお母さんを差しているのだろう。

 ない、と思う。

 お母さんは一人っ子のはずだ。そんな話は聞いたこともない。

 したこともない? されたこともない?

「ううん」

 タメダのくせにわたしを悩ませるとは。

 わたしはメモを胸ぽけっとに仕舞い、考えるのをやめた。

 そうして、さっきからわたしに視線をチラチラと送っていた集団に歩いた。四人が四人とも肩とびくりとさせる様を見ながら、さて、あっちはどうなっているんだろう? ていうか、わたしがいない間なにをしているんだろう? と考えを巡らせようとしている自分に気付き、口からてきとうに、

「さっきから何見てんだ? あぁ?」

 と、凄みを効かせた声を上げる。

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