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  作者: くじら文学
7/14

7話

「全然違う」


 M山はそう言うと女学生を睨む。女学生は下を向いてじっとしている。当たり障りなくその場をやり過ごす算段のようだ。


「何が違うと思う?」


 逃す気はないようだ。教室中の注目が集まる。それに気が付いたのか、うつろに下を向いた少女は恐る恐る答えた。


「書き方ですか?」

「違う」

「描いてる場所?」

「違う」

「何かわからないです」

「考えろって言ってるわよね?」


 女学生の目が潤っているのが見える。正直、醜悪であるがこちらに刃を向けられるのは迷惑である。助けてあげたいがどうしようもない。


「あなたの目には何が映っているの?」


 M山の顔が醜く歪む。反抗してこない彼女に対して高圧的に接することでなにか征服感に満たされているようだ。


「色よ、色!」


 そう言ってM山は絵にかいてある葉を指で示す。


「なんでこんな色になるの?本当に見に行ったの?ねえ!」

「はい」

「いや、ハイじゃなくてさ」

「行きました」

「あんた、本当にセンスないね」


 聞いているだけでも気分が悪くなりそうだ。教室中がシーンと静まって耳鳴りが聞こえてくる。その中で一人、ペンを持って絵を描いている男がいる。彼だ。彼のその図太い神経が羨ましく思えた。M山の視線が彼に向く。彼はそんなことも気にせず筆を走らせる。彼の動作だけが教室でただ一つの音源であった。彼はどこかご機嫌で、体を左右に揺らしている。


「いい根性してるわね」


 彼には聞こえてないみたいである。M山は彼の机の前にすたすたと歩いていくと仁王立ちで腕を組み始めた。しかし、彼はそれでも気が付かない。


「あんたに言ってるのよ!」


 彼は面倒くさそうに顔を上げたと思うと、挑発的な表情をして見せる。面倒くさい婆の相手でもしてやるかといった具合である。M山は彼の絵を見ると思わず噴き出した。


「あんた、本当にへたくそね」


 M山は彼の絵を取り上げると教室全体に見えるように掲げた。私はそんなに笑うほどかと思ってみてみると確かにへたくそだ。へたくそどころではない。何を書いているのかさえ判別できない。何やら生物のようなものが描かれているのであろう。胴体のようなものに4本の触角がついている。手足なのだろうか。教室中が笑いに包まれた。ただ単に面白いのか、嘲笑なのか、それとも場を和ませるためにわざと大きく笑って見せたのかはわからない。


「これは何の絵なの?」


 M山は鬼の首をとったかのようにニタニタ笑いながら彼に問う。


「牛です」

「私は学校の周りの風景を描きなさいと言ったわよね?」

「いました、牛」

「嘘をつくなんて。恥を知りなさい。そこの女子と一緒だわ」

「いや、本当にいたんですよ、牛」


 そういって彼は頭に手で角を作っておちょくって見せる。M山は顔を真っ赤に染めた。手を勢いよく振り上げる。さすがにM山でもそこまでするはずがないと思っていたが、まさかと思った。そこでチャイムが鳴った。我に返ったのか、M山はそっと手を下ろして、すたすたと歩いていく。


「終わっていない人は来週までの課題とします。来週提出できなければ居残りになりますので終わらせること、以上」


 そう言うとM山は準備室に去っていった。彼の方向を見るとじっとその背中を睨んでいるのが見えた。ふざけて見せていても腹に据えかねるところがあったようだった。その日は彼と話してもどこか上の空だったのを覚えている。


 









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