4話
その日はクラスで1軍のA子が特定の人物の悪口を大声で話していた。その内容は下品であまり聞きたいものではない。クラスの誰もが苦笑いをしている様子であった。そこで彼の登場である。彼はいつものようにのっそり席から立つとA子の机の前に立ちこう言った。
「ここにいない人物の悪口を言って何になるのか。文句があったら直接言うのが筋なのでは?」
A子は彼をにらみつけた。
「何?陰キャが急に話しかけないでよ、きもい」
「きもい?顔に一生懸命、絵具を塗りたくって虚像の自分を作り上げているその精神性のほうが僕には気持ちが悪い」
「は?なにそれ?喧嘩売ってんの?」
そういうとA子は彼の動画を撮り始めた。それを見て彼は自分の目の下を黒の名前ペンでなぞり、ほほに赤い名前ペンで丸を書き、スマホで動画を撮り始めた。A子は怪訝な顔を浮かべる。何がしたいのかわからなかった。数十秒その空間は広がっていた。実に奇妙であった。彼は言った。
「自分だけが撮る側でないことを覚えていたほうがいい。それは陰口も同一だ。自分が言っているのなら相手も言ってることを考慮するべきだ。」
A子はその話を聞いているのか聞いていないのかわからないが彼のその不気味な行動に面食らっているのが分かる。彼はその姿を見て大口を開けて笑った。彼のことは好きではないが少し痛快な気がした。少し彼のことが好きになった気がした。
彼はぽっけからガムを取り出した。そのガムをくちゃくちゃと噛みごくんと飲み込んだ。
「分かったか!」
彼は大声で怒鳴った。まるでライオンの咆哮である。彼はすっきりしたのかすたすたと歩き始め、廊下に消えていった。ちなみにガムは校則違反である。A子を見ると涙を浮かべて宙を睨みつけていた。それを見たA子の取り巻き達が慰め始める。
「サイテー」
「何あいつ」
「ヤバいやつじゃん」
なんで彼があんなに怒ったのか分からないが何か考えがあるのは分かった。そのあと彼は何事もなかったかのように席に戻り本を読み始めた。彼の伝説はここから始まった。