3話
4月、私たちは教室にいた。彼は言う。
「18万で1カ月人間を奴隷のようにこき使えるのなら人間の1カ月は18万の価値でしかない」
彼はたまにこういった過激な発言をして周りの反応を楽しんでいた。また変なこと言ってるよ、周りがそんな顔をしている。
「別に18万で全力で働いているわけじゃないんだからさ」
私はなぜか無性にいらだちを覚えてそう言った。かれのこのぶっきらぼうな人間を馬鹿にしたような発言に私は賛同できたことはない。彼は人間を俯瞰している自分に酔っているのだ。嘲笑することで下の立場だと認識し、偉くなった気で居やがる。本当に虫唾が走る。
「てことは18万もらってるのに懸命に働かないってこと?そんな奴、奴隷以下だろ」
なんで彼はこんなことしか言えないのだろうか。彼のその捻くれた考えに共感できる日は来ないんだろうなと思った。彼は満足げにその場を去ってく。昼食の時間だ。彼はいつも学食に1番乗りだ。授業の終わりのチャイムが鳴ると授業が終わっていなくとも一人教室から飛び出し、走り出す。彼は常に最短コースを模索している。ある時は廊下の窓から飛び降りようとしていたがさすがに危ないので私は全力で彼を止めた。彼をそこまでさせる昼食とは何なのか。
それは牛乳とあんパンである。彼は昼食にいつでも牛乳とあんパンを食べていた。体育大会、文化祭、芸術発表会、いつでも牛乳とあんパン。それ以外の昼食を食べている様子はない。なぜいつも一緒なのか聞いたことがあった。
「選ぶのめんどくさいから」
たったそれだけの理由である。けれども彼にとってそれは自分の昼食を決めるに値する理由なのだ。彼のこだわりはとても強く、譲らない。定規は絶対に直定規である。中学ではそれで何回も注意されたことがあったようだ。彼は教師に対して尊敬やリスペクト、礼儀を持っていない。気に食わないことがあれば何でも反抗し、絶対に言うことは聞かなかった。しかし、彼が納得できることは素直に従う。実に謎だ。
彼は変わっている。今朝のテレビで見たテーマに一日を費やして悩んでいることが多々ある。夫婦別姓、子供の参政権、ウクライナの戦争、テーマは多岐に渡る。そのテーマについて意見を求められ、答えるとふーんと言って興味がないそぶりを見せる。望むような答えを私は持ち合わせていないのだ。その彼の知的好奇心はとどまるところを知らなかった。世間は彼を奇人、狂人の類であるとしている。
ある日彼は事件を起こした。