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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第一楽章
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第八小節 「桜」Ⅱ

 強烈な目眩と共に意識を戻すと、部屋中に花弁が入り込んでいて床やベッドに至るまで、美しい薄紫の花が部屋一面を彩っていた。時間にしてほんの数分の筈が、窓から覗く空は既に陽が沈み出している。現実と夢の境界線が未だハッキリとしない。意識を呼び戻し、志弦へ封印式の綻びをつなぎ合わせる為に式を行使しようと空間に印を刻みだすと───志弦に施した式が「共鳴」しない事に気付き、指先で虚空を力無くなぞった。


「…夢…ではないんだな───」


 目の前の事象に理解が追いついていかない。胡桃の脈の残滓が志弦を包んでいる。胡桃が──。志弦に施した秘匿結界はその夢と共に消失し、解除されていた。



▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼



 私は目を覚ますと、身体中に纏わりつく様な気怠さと酷い熱から解放されている事に気付く──何かがおかしい。

 目に入る対象全てが、情報として刻まれる様な感覚が常であった筈なのに「何も感じない」のだ。理由は分からないが、部屋に散らばっている無数の花弁。自室に配置された食器達、小物に至るまで寸分違わず位置のズレさえ把握出来ていたのに。

 どうして突然───。戸惑いつつも、確かめるようにゆっくりと辺りを見回す。何度か部屋を見渡した後に、口元に手を当て思考を加速させる。だが「人」にはこうやって世界が見えているのかと、初めてこの世界に生まれ落ちた様に、世界がただただ、美しかった。

 体を起こすと先ほどまでは気づかなかったが、胸元に小さく一つの紋様が浮かんでいる事に気付いた。そのままベッドから抜け出し、鏡の前で「桜の花弁」の紋様を優しく指でなぞりながら、ふと先程まで見ていたであろう、夢の中の光景を思い出す。


「あの人達は…」


「──キレイな人…だったな…」


 立て掛けてあったお気に入りの楽譜を「元の位置に戻しながら」眼前に広がる景色を見つめて呟いた。指先に薄紫の脈を遊ばせながら──。



▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼



 志弦の封印が解かれてから数刻。この世界で生きていくには余りにも辛い運命を背負うはずのそれは、彼女の未来を案じた故に「二人」で施した式。薄紫の色の脈。司るのは「封印と解除」の力。あらゆる事象を「封印」し「解除」する事が可能な相反する力。かつて月の民が地上に分け与えた七つの色の中でも特に強力だった力。

【原色の時計台】へ至る為に必要な色。ソラリスが求め、戦火を招く要因となった色。唯一「胡桃が扱いきれなかった」力。存在が明るみに出れば、確実に狙われる──。


 俺は志弦の部屋から飛び出した後も直ぐには戻らず、考えをまとめる為に思考を続けている。王城を直ぐには後に出来ず、気がつくと禁書庫で一人椅子に腰掛け、広げられた本を目的もなく捲り続ける。目的の文献など此処に無い事は分かっている。それでも、心の何処かで騒めき続ける何かを鎮める理由が欲しかった。

 貴重な文献が列毎に仕切られ、綺麗に区分けされているが、陳列されている本の全てが、何度も読み返した跡があった。深く息を吐き出し、禁書に囲まれながらページを捲り一人呟いた。


「何処かで気付いていたんだな…」


「──胡桃…俺はどうすれば良い……?」


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