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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第三楽章 da capo 「アローガンスムーン」編
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第十九小節 「応戦」Ⅰ

「見えた...!!奏梛...あれっ!」


「っく...!」


▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△


 奏梛と胡桃が辿り着いた時、私はもう意識がなかった。残っていたのは根源的な殺意と憎悪。何かが弾けたように、鎖が解けてしまった。もう、私の体は、()()()()()()()()()()()、暴走した。一番見て欲しくなかった人に、会いたかった人に──。


▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△ ▼△▼△


 雄叫びを上げて全身から紅く光る痣が、より明確に現れて、それは獣のように三人と渡り合っていた。離れたところにはスズレが倒れており、俺はすぐにスズレに駆け寄った。だが──意識がない。龍速はまだ感じる事はできる。


「──胡桃っ!スズレがまずい!手を貸してくれ!」


「うん...!!」


 スズレが負っている傷には黒く腐食したように、表面に黒い脈がまとわりついていて患部を浸食しているようだった。それに眼の辺りは特に──。大きく浸食され食いちぎられたように損傷が激しい。どうしてこんな酷いことが──。胸の奥から怒りが湧き上がってくる。でも、今は治療に集中しないと──。私は杖を媒介にスズレの傷口の進行を抑えるため、脈を集めてスズレの腐食箇所の除去を試みる。


「奏梛...!...今までにない症状で...!少し時間が欲しい...!ここは私がなんとかするからグローザを!」


「あぁ...すぐに終わらせる...!」


 彼の顔を見ずとも、その口調から本当に怒っているのを感じた。あとは奏梛に任せておけばいい──、私は目の前のスズレに集中しなければ。粘着性が非常に高い──とでもいうのか、かなり深く根付いている。無理に除去しようとすると、スズレ本人の龍速を傷つけかねない。慎重に、素早く、的確に、慎重に脈を操作しながら──。


「──大丈夫だからね...!スズレ!大丈夫...!」


 目の前では今、グローザと思しき少女が、髪は紅く獣のように唸り声を上げて戦っている。その様子はまさに獣のそれであり、あれは最初に出会った時と同じ様──。意識もなく、おそらく暴走している。だがここには龍脈は溢れてもいないし、何よりも俺はまだ何も力を発現していない。引き金となったのはなんだ?考えろ──。何きっかけとなるものが──。


「ふははははっ!!あなたまさか()()()()()()()()()()でしょうか...!!おかしいですねぇ!...あれはずいぶん前に全て処分されて、研究も終わっていたはずなのですがぁ...!!今日は本当に運がいぃ!!!」


 ペシェは大きく距離をとると、自分の喉に一息に剣を突き刺す。大量の龍脈虫を体内から引き摺り出し、黒い脈を大きく再度纏わせると鞭のように変質させる。


「さっきとは違いますよぉ!これは体内で飼っていた龍脈虫全てを使って...!!早く連れ帰って隅々まで調べたい欲求を抑えられないのでぇ...!そろそろ終わらせてもらいますよぉ!!!」


 ペシェは大きく振りかぶり、それをグローザ目掛けて勢いよく叩きつけた。対象は纏った虫たちに食い尽くされる筈が──。

 グローザは呼応する様に咆哮を上げると、その黒い鞭ごと強引に──。自身の口で膂力に任せて食いちぎった。真っ二つに、力任せに引き裂かれた、その大きく黒い鞭をその両顎で咥えたまま、回転をしながらペシェに向かって突進し、力のままに、粗雑に投げ返した。


「──なっ!!!」


 大きく衝撃と共に砂埃が舞い上がり、二人の姿は粉塵に包まれている。周囲の木々は衝撃でなぎ倒され、黒く淀んだ脈は周囲に撒き散ると、辺りの木々を手当たり次第に腐食していた。厄介な脈を纏っているが、今しかない──。舞い上がる粉塵で姿を隠せている今が好機。即座に脈を自分を中心に、大きく円状に広げていく。規模が大きいのもあって負担は大きいのは覚悟の上。素早く正確に──。一帯を枝分かれした脈が伝っていく。だがこれだけでは正確に捉えられない。大きく息を吸い込み──。


「胡桃...!!!波紋(ソナー)を!!!!」


 その瞬間。胡桃の方角から即座に波紋が広がった。同時に()()()()に割って入るように、彼女(クルミ)が現れる。周辺の生物情報と位置情報が共有されると、グローザに向かって真っ直ぐに脈を伸ばしていく。早く、もっと早く──。自分を中心に、胡桃とスズレにも蒼い脈を伝わせておいたのだ。接続をしているのは彼女のみで、意識を一時的に共有している。常人であれば、自身の思考が他者に侵される様な感覚だが、胡桃なら──。今までに幾度もやってきたおかげで、お互いの思考を共有できるまでになっている。負担は大きいが今は他に選択肢もなかった。

 グローザを補足すると、彼女は意識を失っている様で、そのまま蒼い脈を接続をするが反応がない。瞬間、思いとどまったが方法は一つしかなかった。()()は後で甘んじて受け入れよう。


「──胡桃!()()を使うぞ!」

「...わかった!!いつでも!」


 蒼い脈は倒れているグローザをそのまま包み込むと、その場に紋様が現れる。陣の中にいるグローザの体が変質すると、水のように途端に大地に溶けていった。かと思うと瞬時にグローザは奏梛の足下に、同じように紋様が浮かぶ陣の中へと現れた。


「間に合った...!胡桃...すぐに撤退する!!」

「グローザは無事なの?!スズレの症状はひとまず大丈夫!応急処置も終えたよ!」


「よし──すぐにここから──!」


  すると、風に乗って、粉塵の向こう側から異様な声が響き渡る。耳元にまとわりつくように、周囲に反響する粘着質なその声は、酷く不快で、耳を塞ぎたくなる様な声音だった。


「貴様ぁ...、今...()()した......」


 耳障りな声に乗って、急に風が強く吹き荒れると、視界が一斉に開けた。男は顔の半分が吹き飛んでいて──。いや、違う。なんだこの違和感は?そもそも全く出血をしていない──。それに黒い脈が傷口を塞ぐように蠢いている。意識の中で、胡桃が酷く嫌悪感を示しているのが伝わってくる。


「──さぁ...?なんだろうな...。あんたとは話したくないね...!」


「見間違いかぁ...?!いや!!!!!!!そんなはずないだろぅ...!!!!!なんだ貴様は!!!先ほどの()はお前かぁあああああああ!!!!!」


「...うるっせぇな...うちのモン散々傷つけておいて何いってやがる...!」


「だめだ...貴様はだめだぁ!!!!もうこれ以上検体を傷つけさせないでくれよぉ...!!!!!」


 ペシェはそう言うと、一緒に連れてきていた従者のような仮面で顔を隠している二人を手招きすると、すぐに二人はペシェの前に膝をつき頭を垂れた。その時。ペシェの傷口を漂っていた黒い脈──、龍脈虫の集合体は二人をそのまま()()()()。異音と共にそれは、取り込んだ二人を、形を複雑に変えながら吸収すると、どんどんと大きく肥大していき、元の倍はある異形──。龍脈獣──、黒い龍のような姿に変化した。そしてその姿はどこかで──。


「────!あれはっ...!」

「奏梛っ!これって...ルーグリッドの地下にいた...!!どうしてここに...!」


 その姿は当時、二人が見た姿とは比較にならないほど、黒く禍々しかった。龍脈獣の特徴である身体から生えている毛の先からは、黒く澱んだ脈をまき散らしており、飛び散る脈は辺りを一瞬で砂漠のように、生命と名のつくものを全て大地に砂として還していく。一帯を砂漠と化すその事象は、大地を伝う奏梛の脈をも分離し、意識の共有が解除される。

 目眩と共に自分の体にかえった感覚に、接続が解除された事を把握した私はすぐにスズレを脈で保存し、スズレの手を肩に回して奏梛の元へ駆け寄るが──。


「奏梛っ──!」


「うぅ...!!!うっぐうううううぅ...!!!」


「奏梛!大丈夫っ...?!その腕は...!!」


 彼は膝をついて、大地を伝って蒼い脈を流し込んだ右腕を抑えながら、痛みに声をあげていた。そうか、これは──。


「っく...!辺り一帯の浸食が脈を伝って流れ込んできやがった...!!」


 奏梛の右腕は肩口まで黒く変色しており、段々と体の中心まで症状が進行しているようだった。このままじゃまずい。だけど、さっきまでスズレの治療にほとんどの力を使ってしまった。ここに来るまでにも脈の消費が大きすぎて──。これ以上は──。


「──やっかいなもん撒き散らしやがって...!!」


 黒く大きな龍脈獣──、以前はペシェと呼ばれたそれは、咆哮を大きくあげると口元に大きく脈を集めて収束させていく。辺りを吹き飛ばしてしまいそうな程の脈が、黒い竜の口元に咆哮と共に集まっていく。


「胡桃......!!()()を...!」


「──まさか...!だめだよ!()()はっ!戻れなくなるよっ!!!ダメっ!」


「だが...!ここからどうにかして脱出しないことには...!!」


「ううん!ダメっ!!奏梛っ!ここは私がやる!」


「無茶だっ!ここに来るまでにもかなり消耗したはずだ!治療式でスズレの体を保存し続けているのもかなりの負担がかかっている...!ここはおれに...!」


「ダメっ!絶対に許さない!あれは戻って来られなくなる!それに今の私じゃ、奏梛を()()()()()()!!離れ離れになるのは嫌!!」


「胡桃──」


「私だって...考えなしに言ってるんじゃない!早く私の後ろにっ!」


 確率としては五分五分といったところだった。失敗すれば、ここにいる全員が連れて行かれてしまう。そんなのはダメ。許さない──。出会ってからは能力を解明するためいつも試行錯誤した。私の力はいつも奏梛を支えるように使ってきた。能力の相性や方向──って言ってたよね。

 だけど、私の力は対象としたものをそのまま、時間を止めたように保存してしまう力。でもそれは、保存するんじゃなくて、()()()()()()()()力。この()()()()()()()()()()()()させる。だからその対象は影響を受けた事象の()()にいくから、傷が進行しない。影響も受けない。なら──!!

 

 巨大な黒い龍脈獣は大きく咆哮が止んだかと思うと、収束した脈を一気に、眼前の対象へ向けて吐き出した。


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