第十三小節 「原質の森林浴」Ⅱ
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「イセリアフォレストの奥地に、原質の森林浴と言われる、場所があります。そこでなら、奏梛殿の病状もかなり抑える事ができる筈です──」
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「わ、わたし…原質の森林浴に…捨てられたの」
一同は驚きと共に、彼女に傾聴する。そう、それは大樹海の奥にあるとされる、言い伝え上の場所。スズレは、こんなにもキッカケが早く見つかるとは思ってもいなかった。それは奏梛や胡桃もそうである。この場の誰もが、その言葉が出てくるとは予想していなかった。
「わ、私、元々捨て子で…。原質の森林浴の近くに村があるの。そ…そこで拾われて育てられました」
「続けてくれ」
「わ、私は、ほ、他の人から、脈を受け取って複製する事が出来るって…。だから、そ、それを使えば食べるものには困らないからって、ずっと…」
複製──。スズレは背筋に嫌な汗が滴るのを感じた。脈の受け渡しもそうだが、それは複製した脈を自身のものにできると言う事。それは、あってはならない事の一つで、この世界の常識から余りにも逸脱している。この少女は一体──。
「──私も複製できるかな…?」
「胡桃は、そういうのはできなかっただろ」
「いや、お二人とも其処じゃないでしょう…。何を呑気なことを…」
とにかく規格外の二人ではあるが、更に面倒な少女を抱える事になりそうだ、とスズレは頭を抱える。
「良いですか、二人とも。この世界の常識の一つですが、他人が発する脈という力は受け渡すことは出来ません。受け渡す、と言うことは自分が持てない色を他人から譲り受ければそれすら使用可能になると言うことです」
「白と黒しかないのです──、この世界には既に」
「待ってくれ…俺はグローザと、蒼の脈で繋がって…グローザ、もしかして──」
「う、うん、ソウナの脈──とっても綺麗」
わたしは、手元に複製した蒼い脈を照らしてみせると、胡桃とスズレは絶句して言葉を失っていた。
「んなっ…」
「改めて見ると──、驚きを隠せません…」
「わ、わたしこの色、とても好き。優しいしあったかい」
「────」
胡桃がこちらに歩み寄り膝をつくと、私の目の奥を覗き込んで何かを観察している。彼女もまた、奏梛と同じ匂いのする人──。
「く、胡桃──?」
「よく見ると、少し違う──。奏梛の色と同じだけど、なんて言うか──」
「……」
「──取り敢えず、話を戻すが…グローザ、お前は其処で何かを強制させられてたのか?」
「……」
「言いたくない、か…?」
「ち、違うの、お、思い出したくない事が、ど、同時に頭の中でぐちゃぐちゃに…。い、いや…」
「奏梛、辛そうだよ…?」
「──スズレ、頼めるか」
「わかりました」
スズレはそう言うと、白い脈を掌に集め、グローザの額にその脈を送り出す。グローザはじたばたと、慣れない脈の流れに困惑しながら暴れているが、スズレはそんな彼女を無視して額に脈を流し込み続けた。暫くすると──、グローザの目元がハッキリと開いて、何か付き物が落ちた様な表情へと変わった。
「何を──したの…?」
「一時的にですが、体の不調を感じない様にしただけです、治療ではありません、あくまでも応急処置のようなものです。これで少しは楽になったのではないですか?」
「ありがとう──。スズレは…お医者さんなの?」
「まぁ、そんなところです。元、ですけどね」
奏梛はゆっくりとグローザに歩み寄ると、スズレと同じ様に、今度は彼女の額に手を当てて、蒼の脈を灯す。
本当に綺麗な色だ。この色に包まれると、とても心地いい。今までたくさんの種類の脈を複製させられていたけど、この始めて見る色の力は、そのどれもが違う──唯一無二だった。
「…やはり俺の脈が体内に残っているな。本当に定着してしまっている様だ──」
「こ、この色は捨てたくない…!そのままにして」
「──大丈夫。どちらにしろグローザの体内に流れ込んだ脈を除去なんて出来ないしな」
「そっか…」
わたしはこの色を手放したくなかった。様々な種類の脈を流されてきたけど──。この色は絶対に手放したくないと思った。わたしの脈の複製は一つずつしか保存できない。この脈にずっと包まれていたい。口元に自然と笑みが──、口角が上がるのを自身で理解すると同時に──、最後に笑ったのはいつだったろうか?
「──グローザ?」
「ううん、なんでもないよ」
「さて──、ではこれからの事ですが…」
「そうだな…」
「グローザ…俺たちはその原質の森林浴に用があってここまで来たんだ。道案内を頼めないか?」




