第十二小節 「原質の森林浴」I
「ったく…寝ても覚めても静まる時がねぇな…」
奏梛はそう言うと自身の肩口の傷の具合を確かめる。確かにこれは重症だ──。確かめるまでもなかった。腕が上がらないし、首筋にも強烈な違和感が残っている。よく生きていたものだ、と自嘲気味に笑みが溢れた。
そして、そんな彼に何時もであれば一番に駆けつけ、心配する筈の彼女──。そう、胡桃が奏梛に抱きついて涙するまでが一連のこの仲間たちのお決まりなのだが──、先に駆けつけ、奏梛へ抱きついたのは、出会ったばかりの銀髪の少女だった。
「ソ、ソウナ!…だ、大丈夫?」
「おお、グローザ。体におかしい所はないか?」
「う、うん…へーきだよ。ソウナの肩、わ、わたしがちゃんと、せ、責任もって治す…から」
「おやおやこれは──」
スズレは咥えた煙草を口元から離して、指先の合間を縫う様に眼を細め、胡桃の方へ視線を送ると──。其処には案の定、口を半分に開けながら、怒りと驚きが混在した複雑な表情で奏梛の方を見て口をぱくぱくとさせている。
「…なっ!!??グローザッ!!離れなさい!!」
「??」
「ど、どうして…?」
「どうしてって…そ、それは私のセリフだよっ!」
「だって…ソ、ソウナの肩が心配──」
「もうっ!早く奏梛から離れてっ…!」
胡桃はずかずかと、地面を必要以上に音を立てて奏梛へ歩み寄ると、くっついたままのグローザを無理やり引き剥がそうとする。グローザは抵抗しつつも、胡桃に引き剥がされると、理解できないと言った様子で地べたに座り込み、胡桃を困惑した目で見つめている。交互に奏梛へ視線を送ると、其処には奏梛が優しそうな笑みで笑ってくれている。
「奏梛殿も、随分と懐かれた様ですね、ふふっ」
「────」
スズレは意地悪く胡桃を見ながら奏梛へ肩の調子を尋ねている。奏梛の肩は本当に危ない状況だったのだ。場の空気が解れているが、油断はできまい、とスズレは、意識を医者としての立場からブレずに症状を確認している。
一通り動きを見ると、奏梛の耳元でスズレは誰にも聞こえない様に小声で何かを呟いた。その様子を地べたに座りながら、見つめていた私に、奏梛はまた優しく笑ってくれていた。まるで──、何も心配するなと言わんばかりに。
「よし──。取り敢えずなんとか動く、大丈夫だ。スズレ、助かったよ」
「…」
「────」
「良いんですか、奏梛殿──」
「────」
「……」
「胡桃、そんな顔するな」
奏梛はそう言って、私のところまで来て優しく手を握ってくれた。だけど、納得がいかない。奏梛はどうしてこの子を既にこんなに受け入れているのか、それに瀕死の重傷を負う原因になった相手なのに──
「胡桃──、眉間に皺がよってますよ?」
スズレが、優しく笑いかけてくれる。なんだかスズレの笑顔は自分の子供を見る様に、妙に愛情に溢れている。子供扱いされている気がして、私はいまいち納得がいっていない。あの時だってそうだ。瀕死で二人、スズレに助けられた時も──。
「よし、肩も一先ずはなんとかなりそうだ」
「さて──グローザ、俺から幾つか質問がある」
「う、うん」
「さっき、俺と話した内容は覚えているか」
「う、うん!ぜ、全部覚えてる」
「────」
「──わかった」
「じゃぁ、質問を変えるぞ?グローザはどうして、こんな場所で一人でいたんだ?」
わたしを取り巻く空気が少し、尖る様に、ピリピリとしていくのを感じる。それは主に、スズレと呼ばれる女性と胡桃という人からだった。
「わ、わたし…捨てられたの。原質の…森林浴に」




