第十小節 「共通点」
私達は寒さを凌ぐために、一時的に休める場所を探そうと、スズレと共に辺りを見渡す。すぐに──、十分ではないが、岩壁に窪みが出来て祠の様にこの寒気を少しでも遮る事ができる所を見つけ、意識を失って目が覚めない奏梛と少女を横に寝かせ休ませている。私は彼の意識が戻らない事よりも、この隣で同じく意識を失っている少女が奏梛と共に、あの場所にいるのではないか、と気が気ではなかった。
「──奏梛…」
「…胡桃?大丈夫ですか?先程から一人何かを呟いていますが──」
「う、うん!ごめん、だいじょぶ。それよりも奏梛の肩…」
「──問題ありません、と言いたいところですが…治してみせます」
スズレは眠り続ける奏梛の肩を手当てしながら、もう少し傷口が深ければ命に関わる傷だった──、とは胡桃には伝えなかった。彼女は何かを気にしながら、彼の心配をしつつも、何処か心ここに在らずで、様子がいつもと違っている。だが気がかりなのは、その隣で眠る少女だ。擦り切れ、痛み切った衣服に身を包んで、伸ばしっぱなしの髪を揃えながらスズレはある一つの疑問が頭から離れないのだ。
そう──、この子は奏梛にとてもよく似ているのだ。髪の色も同じで、顔つきも何処か似通っている。それに擦り切れた服の隙間から見える大きな赤い痣の様に浮かぶ紋様。スズレは、幾つかの共通点を確認しながら、奏梛の肩の応急処置を終えると、地べたに優雅に座り込み、ゆっくりと煙草に火をつけ、静かに煙を燻らせた。
「…さて──、これで一先ずは問題ない筈です」
「スズレ、前から思ってたんだけどそれ…美味しいの?」
「….ふふっ。胡桃も試してみますか?」
「……じゃあ、少しだけ」
普段の彼女であれば断る筈だろうと思っていたスズレは、意外な返答に少し驚きつつも、咥えていた煙草を志弦に渡す。訝しげに、火の着いた長めの煙草の香りに眉を顰めながら、スズレがする様に胡桃は勢いよく息を吸う様に煙を吸うと──。
「…ぇっ!?…何これっ!!こんなのいつも吸ってるの…?!」
「ゴホッゴホ…!!」
「胡桃、それは吸いすぎですよ、食べ物ではないのですから」
スズレは笑いながら咳き込む彼女の背中をさすり、小さな動物をあやす様に苦しそうに表情を歪める胡桃を楽しそうに見て引き笑いをしている。口元を手で抑えながら、笑いを堪えつつも抑えきれずに声が溢れるスズレの顔を見て、不満そうに胡桃が続けた。
「……ありがと」
「──いえ、どういたしまして。お嬢さん」
悪戯っぽく目配せをして、スズレは息を整えると「ふぅ…」と一息つき、胡桃から煙草を受け取るとそのまま口元に運び、煙を吸い込みながらゆったりと煙を燻らせた。
「あまり、今は余計な事は考えずに彼らが目を覚ますのを待ちましょう」
「うん…そうだね」
「──ひとつだけ…でも気になってる事があって」
「なんですか?」
「…似過ぎじゃない、かなって」
「…似ている?」
「そう…この二人まるで兄弟みたいに髪色も一緒で、何処か体型も似てるって言うか…それに──」
「瞳の色──、ですか?」
「そうっ!なんで──」
胡桃がスズレに前のめりに言葉を続けようとした瞬間、待ち侘びた声が後ろから聞こえた。最初に目を覚ましたのは少女の方だった。ボロボロの衣服に身を包み、あちこちが擦り切れながらも、何処か気品を感じさせるものがあるなと胡桃は彼女の所作を目で追った。
「…ここ、は──」
「お目覚めかな、お嬢さん?」
スズレは優しい笑みのまま、起き上がった少女を見つめているが──。胡桃は直ぐに気付いた。そう、スズレの眼の奥に少量の怒りが感じ取れるのだ。そうだ、彼女だって出会って間もないとは言え仲間なのだ。奏梛が傷ついても、表面上は冷静さを失わない様に振る舞っているだけなのだと。
「──あなた、たちは…」
少し大きく呼吸を整える様に咥えた煙草をふかしながらスズレは答える。吐き出す煙に目を細めながら、その眼前に起き上がった少女をしっかりと見据えている。
「わたしは、スズレ。こちらは胡桃。あなたの横で未だ眼を閉じている、奏梛殿の仲間です」




