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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第三楽章 da capo 「アローガンスムーン」編
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第九小節 「龍の方舟」 弐

 私達は今、()()から脱出するべく、変化し続ける景色にお互いを見失わない様に、しっかりと彼の手を握りながら移動を続けている。

 本当に奇妙な光景だった。現れては消えていく──、繰り返し無限にも思える景色が移り変わっていく中、奇妙な事に、それが全くの初めて見るものではなく、恐らく自分達と何か関係性がある映像が現れては粒子となって飛散し、その粒子が空間自体を包み込んでいる。正に夢の中とでも言うのだろうか──。その中でも、一際目を惹く映像が何度も繰り返されていた。それは──、恐らく()()()()が写されているのだ。その現れては消えていく泡沫の様な光景に、繰り返し出てくる銀髪の青年と銀髪の女性、そして桜色の髪の女性が三人で共に過ごしている。仲睦まじい様子が幾度も繰り返しているが、それと共に不穏な映像も多く、もし、私の行く道を表しているのであれば、それは苦労が絶えない道になるのかもしれないと思った。


「──奏梛…こ、こっちであってる、の…?」


「ああ、大丈夫だ。このうねりに沿って中心へ向かっていけば出口の筈だ」


「……」


 自身の手を引く同じ髪色をした彼には妙な親近感を感じている。今までの経験もあってか、すぐに信じ切るのは難しい。だけど、彼の瞳──。翠緑の双眸に惹かれて、無防備に、受け入れてしまいそうになる。

 私は物心着いた時、既に親は居なかった。代わりに面倒を見てくれていた育ての親から聞いた話によると、赤子の状態で捨てられていたのを見つけ、代わりに育てたのだと聞かされた。私には家族と呼べるものはいないのだ。残されたものといえば、この身体一つ。本当の親など──、興味はない。私にも未練などはないが、唯一、この健康な身体で産んでくれた母──、には感謝している。かなりの過酷な生活ではあったが、それこそ受戒するまでは()()()無茶が効く身体であると思っていた。

 それなのに──。あの日、村が突然脈獣達に襲われて、壊滅しかけた際、育ての親は私を脈獣の餌に、と捨て自分達だけは生きながらえる為に──、拾い上げた私を再度捨てたのだ。自分で拾った赤子を育て、生きる為に捨てる。

 何のために私を育てたのか──、そう言えば理由は聞けずじまいだった、とグローザは握っている手を見つめながら奏梛の背中を見つめていた。


「──どうかしたか」


 振り返らずにこちらに問いかける彼の背中は妙に大きく見える。背丈の割に細身ではあるが肩幅があり、私の手を引くその服の袖からは自身と同じ結晶が動きに合わせて姿を覗かせている。


「…な、なんでも、ない…」


「奏梛…一つ、聞きたい、事、ある…」


「答えられることだといいけど」


「──奏梛の、両親は…ど、どんな人」


「────」


「…….」


「多分…()()()んだと思う」


「……」


「…ご、ごめん、なさい…」


「────」


 彼はそれから暫くの間ずっと口を噤んでいた。何か触れてはいけない事を聞いてしまったのだろうか、と考えを巡らせたが、彼の背中からは怒りの感情などは見当たらず、むしろ握っている掌を優しく握り返してくれた。こういう心地よさが「家族」なのだろうかと、手に入れたことのない関係に想いを馳せる。手に入れた事がないのだから、どういうものなのか全く分からない自分が少し可笑しくて、もどかしかった。そんな私の変化に彼は掌を握る強さに強弱をつけて応えてくれる。言葉を発する訳でもないのに、そんな所作一つとっても──。私の事を考えている事が伝わってきた。本当に信じても良いのかもしれないと、彼への警戒がゆっくりと静かに瓦解していく。


「────」


「奏梛?ど、どうかした…?」


 歩みを止めた奏梛に連動して、私は俯きがちだった顔を上げるとそこには、大きな門がそびえ建っている。門の中心、入り口には先程目にした様に、様々な情景が浮かび上がり消えていく映像が、粒子となり固まりながら渦を巻いている。門の手前には石碑が一つ、見慣れない文字が一面ぎっしりと彫られており──。私はその文字を何処かで目にした事がある様な──、あれは何処だっただろうか──。


「グローザ、この先が出口だ」


「────こ、この中…は、入って大丈夫…なの?」


「絶対に手を離すんじゃないぞ?絶対にだ」


「…う、うん」


「それと──、一つ聞いておきたい事がある」


「なに…?」


「グローザは、()()()()()()()()()()()んだな?」


「う、うん…一度見たら、忘れない…よ」


「わかった」


「…?」


「行くぞ、しっかり掴まってろよ」


 彼はそう言って私の手を勢いよく引いたかと思うと、そのまま私を正面に抱き抱えて、その門の中に飛び込んだ。まるで水の中に潜っていく様に、扉の先へ深く、深く沈んで行く様だった。奏梛に抱えられるままに、彼の胸元に顔を埋めながらも、その不思議な空間に落ちていく感覚が無限に続いていくかと思えた矢先──、私達は現実世界で目を覚ました。


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