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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第三楽章 da capo 「アローガンスムーン」編
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第四小節「遭遇」

 三人は夕食を済ませると、店を後にする。辺りはもう完全に陽が落ちて、アローガンスムーンがいつもの様に姿を表し、辺りを凍てつくほどの寒さが覆い出している。立ち並ぶ店は寒さを凌ぐ為に焚べる火を一斉に大きくし、凍りつく様な寒さをやり過ごす為、慌ただしく動き出す時間でもある。凍てつくような静けさと、生命が存在する為の生存本能が慌ただしく動き出す混沌とした時間でもある。

 そんな、普通であれば絶対に移動する事など以ての外である時間帯。奏梛達は、リドウ王国西門から大樹海(イセリアフォレスト)へ向かう為移動を開始する。強固な石造りによるかなりの高さの城門を潜ると──、直ぐに鬱蒼と生い茂る森林地帯へと突入する。

 出立前に門番から、なぜこの時間帯に移動を開始するのか、翌朝まで待たないのか、何かあっても自己責任である事を散々言って聞かされて漸く城門を抜ける事が出来た。こう言う時、スズレは上手く立ち回るのが本当に上手いなと胡桃は常々感じていた。心配を通り越して、ほぼ移動を拒んでいた門番達に金を握らせ、穏やかに言いくるめるとそれ以上彼らは何も言わずに手にした金額に、頬を赤らめながら私達を送り出してくれた。


「スズレ──さっきはなんて言って説得したの?」


「ん──?はて?なんであったかな」


 スズレはおどけながら胡桃の追求をかわしながら歩みを進めている。スズレは()()()()()に妙に慣れているような気がする。何時も私達とは違う視点から物事を見て、必要な事を必要な時にしてくれる──。胡桃はスズレの所作や、振る舞い言葉遣いに何処かで目にした事があるような感覚を覚えており、記憶の中を探ろうと試みているのだが、未だそれがなんなのかは分かっていない。ただ、分かるのは、このスズレという存在が今の自分たちにとっては必要不可欠な存在である、という事。何時も考えを巡らせて、最終的に着地する場所が()()である為、以前は何処で何をしていたのかなど──、あまり肝心な事は聞けずにいた。そんな事を考えながら、歩みを進める毎に気温がどんどんと下がっていくのに耐えられず、つい言葉に出てしまうのは酷く単純で原始的な言葉だ。


「...胡桃っ!寒い寒いって言うな!」


「──寒いっ!何度でも言うよ!寒い!」


「まだリドウから数十分しか経ってねぇんだ!」


「──胡桃は寒さより暑い方が得意である様だしなぁ」


「そりゃあ──、奏梛と初めて出会ったのもルーグリッドだし…あの砂漠の暑さに比べたら──」


「──じゃあ、我慢できるな?」


「出来ない!本当に寒いよ奏梛!!」


 胡桃が凍える身体で奏梛の真後ろに尾けると、奏梛を壁にして寒気を凌ごうとしている。それを見てスズレは「奏梛殿に負担をかけないのではなかったのか?」と胡桃を諭す。それを聞いて胡桃は渋々、奏梛の後ろから移動すると初めて言葉を覚えたまるで赤子の様に寒さを訴えている。

 だが、この寒さは確かに尋常ではない。井戸水なども一瞬で凍り付き、野営で例え暖かいスープを作ったとしても火の近くから離れれば数分もせずに凍りついてしまうほどだ。

 胡桃の言う通りこの寒気は考えものだ、とスズレは指先に脈を纏うと、静かに詠唱を開始する。奏梛と胡桃は「詠唱式」と言うものをその時初めて目にしたのだ。そう──、この二人は主に()()で脈と式を操っており、そして「白と黒」以外の脈を操っているのだ。スズレからすれば彼らの方が異常であり、ましてや人前で行使するなど以ての外である、とスズレに強く言って聞かされている。


「選ばれた白、理の外の黒──、我の呼びかけに応じてその力を反復せよ、混じり合わずに反復する力は詩をもって顕現する我の力──溶け合わずとも想い合うのは我の業なれど──新たな色にならずとも並び立つ七色の面影を我に与えよ」


「……」


「────」


 スズレは詠唱を終えると、白い脈に黒い脈がぶつかり合って熱を帯び、辺りを静かに熱風が覆い出す。二人はその様子を惚けた顔をして見つめており、突然訪れるその暖かさに、特に胡桃は驚きを隠せない。二人にとっては全くの異質な──、初めて見る式であり、強引にねじ伏せる様な、力任せの式ではない、何処か優雅さと気品の様な──感動を覚えた。 スズレからすると、二人の脈や式こそが異常であり、詠唱も何もすっ飛ばして感覚で、()()()()()()()()したりなどの方が驚きを隠せないのだが──。そういえば二人の前で詠唱をしたのは初めてだったかもしれない──、唱えた後でスズレは口に手をやりながら二人と合流した後の旅路を思い返していた。


「──スズレ!今のどうやってやったの?すごい綺麗な式だった!」


「確かに──、俺たちとはまるで違うな」


「──そう言うと思いましたよ。改めてそう言われると少しおもはゆいですね」


「だが──、其方達の方が我からすれば()()、であるよ?」


「そうかなぁ──。ねぇスズレ!今度その式教えて欲しい!」


「こんな簡単な式は子供でも扱えるものだが──」


「ううん!良いの!約束ね」


「──わかりましたよ、胡桃」



「────」



「──どうしました、奏梛殿?」


 スズレが奏梛の様子を見て──、表情を厳しく真剣なものへと瞬時に切り替えた。胡桃もまた、彼女の表情の変化に気付き警戒を強める。この三人での旅はまだ時間としてはそれほどではあるのだが、お互いを支え合う呼吸の様な速度が似ていると言うのか、こう言った瞬時の対応力や危機の察知、臨機応変さは、熟練の長い間共に過ごした者達でしか成し得ないものがあり、スズレは特に、旅を共にする上での大きな理由の一つとなっているが、彼女はまだ、それを二人には伝えてはいない。いつか、もう少し自分の話しを──。


「──何かいる」


「────」


波紋ソナーで探るね」


「…ああ、頼む」


 胡桃は愛用の杖を握り込むと、自身の脈を注ぎ込み杖の先端が淡く、薄紫に輝きだす。ある程度の脈の収束を確認すると、杖の先端を地面に向けてかざし、集めた脈を大地に伝う様に解き放つ。その瞬間、地面が胡桃の力に呼応するように、放たれた脈が円状に広がっていき、脈の通り道が一瞬隆起する様に盛り上がりながら辺り一帯に広がっていった。これは波紋上に脈を広げて、周囲の生命を宿す者たちをマッピングする式で、彼女のお気に入りの一つ。精度が高すぎて、生き物全てを情報として術者に渡してしまう為、覚えたての頃は、目に見えないほどの虫や小さな動物まで捉えてしまい、中々普段使いの式として昇華するまでには相応の時間がかかったものだが、今となっては比較にならない程の精度を誇る。


「────」


「反応がない──、おかしいな…」


「ふむ──、胡桃…対象は()()絞ったのですか?」


「えっと…私達に対して攻撃性を持つ者──かな」


「胡桃の式の精度は疑ってないが、妙だ──」


 奏梛は口に手を当てながら何やら考え込んでいる。その様子を見ながら胡桃とスズレは静かに返事を待つ。こう言う時、必ず有効な策を次に導くのはこの男だと二人は理解している。奏梛は何やら考え込みながら、掌に脈を集めては飛散させて──、繰り返し行いながら、数度目の後、再度胡桃に波紋(ソナー)を頼む。条件はこうだ。


「龍脈──」


「…龍脈?この辺に龍脈獣がいるって事?」


「奏梛殿、この辺りでは龍脈の洞穴や地脈も特に──」


「────」


「ふむ…」


「──もう一度やってみるね」


 胡桃は何か理由があるのだろうと、疑いはせずに再度式を執り行う。脈を収束し、先程とは条件を変えて式を展開し集めた脈を地面に向けて放つと、胡桃の脈の通り道が一度目と同じ様に地面が隆起して──、一瞬盛り上がった様に見えるその波に隠れて突如、一人の子供が奏梛に切り掛かった。


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