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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第二楽章
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第二楽章 十七小節 「残された二人 これからの二人」

 ソノマ機械都市での事件からちょうど一ヶ月が経とうとしている。都市中に広がる破壊の残滓は、急ピッチで復旧が進められており、元々歪であった都市構成をさらに複雑にしていく──。

 以前までこの国に遣わされていた、ソラリスからの武官達は「あの日」を境に行方不明となっており、街の統治問題で一悶着があったのは記憶に新しい。死んだはずのライガン侯爵や、ゲンディアの学者達などが一斉に現れ自治権の回復に努めたが──。死んだはずの存在が表に突然復帰した事で既存勢力との軋轢もある様だが、ここ二週間程は特に大きな問題も起きてはいない。

 そんなソノマ機械都市の、イェグタリト「連鎖の斜塔」から南の広場にある龍雲亭に一人の金髪の少女が向かっている。少女はここ数日の日課になりつつある龍雲亭に昼過ぎに向かい”皆”の食事を持ち帰る為に注文をしにいく。


「──レトラ、いつもの」


「アスタちゃん!いらっしゃい、すぐに用意するから座って待ってておくれ!」


「──問題ない」


 アスタと呼ばれた少女は慣れた様子でいつもの席に座り、微動だにせずに待機している。最近では、龍雲亭に美人が集まるともっぱらの噂になっており、アスタと呼ばれる少女もその一人だ。席で待っていると、入り口からもう一人少女が此方に向かって走ってくる。


「シーシャ、遅い」


「ごめんごめんっ!急いだんだけどロナーの筋肉バカに捕まって!」


 二人は談笑しながら料理を待つと、レトラが袋に数人分の食事を持ち帰り用で詰めてくれた紙袋を持ってくる。


「──お待たせ、お題はもう貰ってるからそのまま温かいうちに持っていってやんな!」


「うん、ありがとう。姉様も、レトラの料理は美味しいっていつも喜んる。私も嬉しい」


「…落ち着いたら顔出す様に”二人”に伝えておくれよ」


「──もちろん」


「シーシャ、半分持って」


「ええー、シーシャ疲れた!荷物持ちやだ!ロナーのせいで身体中が痛いよー」


「その程度で筋肉痛とか訓練しても無駄。大人しく龍雲亭で皿洗いでもすればいい」


「っふぁ?!ちょっとそれは酷いよっ!」

 

 シーシャを揶揄いながら、レトラに「また明日」と挨拶を済ませ店を後にする。二人は数人分の料理が詰められた紙袋を胸の辺りに抱えながら、リズム良く走り出し、宿泊先の宿へ向かう。


「アスタロス…もうちょっとペース落とせない…?!」


「──この程度で根を上げるなんて、シーシャ才能ない」


「…ハアハア…いやだってアスタロスが異常なんだよッ」


「もう着く。先に行ってる」


「ああー待ってよー!」


 アスタロスは宿に着くと受付を通り、そのまま3階の一番奥の部屋に向かう。この部屋が一番大きいのと、室内にいくつか部屋があり身を隠すのにうってつけだった為、少し値は張ったがやむなく滞在している。扉を開けると、テーブルの上に荷物を下ろし──()()を呼びにいく。


「──シヅル、ゴハン買ってきた。食べよう」


「…」


「…テーブルに置いた。後で来て」


「……」

 

 アスタロスはそのまま反対側の部屋に向かい、入り口に着くと扉を開けて、銀髪を靡かせて窓際で遠くを見るその人に声をかける。


「──姉様、戻りました」


「…アスタロス。──おかえりなさい。気づかなくてごめん」


「食事、買ってきた。皆で食べよう」


「…そう。今いく」


 アスタロスは姉と慕う彼女が席を動かずに窓から外を眺めている様子を見て、彼女の膝の上に無理やり自分の席を作り両手を自分に抱き寄せる。


「──姉様、わたしは何処にも行かない。安心して欲しい」


「…ありがとう。食事にしましょう」


 二人が部屋から出てくると、息を荒げたシーシャがヘトヘトになりながら席で服を仰ぎながら涼んでいる。


「あっつい…あ、グローザ!」


「シーシャさん。いつもありがとう」


「ううん、全然良いよー。そこのアスタロスちゃんも労いの言葉とかないのかなー」


「…シーシャは戦闘の才能はない。冒険者の荷物持ちでもやるといい」


「辛辣っ!!つら…」


「二人とも、すっかり打ち解けたね」


「グローザさん、これは打ち解けたとは言わないっ!」


「シーシャ、うるさい。ロナーを見習って」


「…いただきましょうか」


 三人は、一人分だけ残して食事に手をつける。


「でもさ、雨ばっかりだったし、ソノマもず──っと雲が覆ってたのにあの日から急に陽の光が差し込む様になって気持ちいい!これも剣聖様のおかげだね!」


「バカシーシャ。そこじゃ無いでしょ」


「だってずっと雨だったのがこんなに陽射しが──」


「──じゃあ、この都市の周りの大量の砂塵と砂漠地帯はどう説明するの」


「恐らくここはルーグリッドの近く──、たまたまイェグタリトの都市構造のお陰で防風出来てるけど…」


「──この結界だっていつ消えるか分からない」


「辛うじて結界のお陰で暮らせてる──」


「確かにッ!奏梛様は、やっぱりすごい!」


「ばかシーシャ、剣聖の話は──」


「──シーシャさんのいう通り、陽の光が差し込むのはとても気持ちいいですね」


「──そうだよね!意外と日照りは長くないけど、龍雲亭とかは今お花を育て始めたりしてるんだー。」


「シーシャが花…」


「シーシャだって花くらいわかるよっ!」


 二人のやり取りを見つめながらグローザは何処か心ここに在らずで、会話の内容がいまいち頭に入ってこない。手早く食事だけ、淡々と済ませるとグローザは席を立つ。


「──ご馳走様、わたしは部屋にいる。シーシャ、アスタロスと仲良くしてくれてありがとう。ゆっくりして──」


「うん!!」


「…姉様は遠回しに早く帰れと言っている。ばかシーシャ」


 二人をおいて、グローザは自室に戻る。窓辺の椅子にまた腰掛けると、外から生命の息吹の様な植物の香りが鼻を掠める。この大地にも土臭い、緑を感じる香りがあるのだと思うと尚更胸が苦しくなる。遠い昔。奏梛と共に過ごした記憶──。

 指先で自身の脈で蝶を描き、室内に舞わせては飛散する。繰り返し繰り返し、指先で描きまた消えて──。何度目かの指先が不意に水に濡れて、グローザは俯いて目から溢れる水を拭った。


「──ソウナ…ごめんなさい…ごめん…」


 遠い記憶がグローザの思考を感情の波で揺らすのと同時に、ドアがノックされる。外にいる脈でグローザは誰がいるか察知し、力無く扉の方を見つめている。


「入っていい…?」


「…」


ドアノブは回らず、扉越しに声の主は震えた声で話し始める。


「──グローザ、わたし、どうすれば良いのか解らない…」


「奏梛が…消えてしまって──」


「────」


「心の何処かで…絶対に奏梛は大丈夫って…鷹を括ってた。でも……本当に、消えてしまって…」


「奏梛の…脈は消えてないのは分かるの…でも何処にいるのか検討もつかない…」


「──脈の痕跡を探そうとすると、近づけば近づくほど、遠いところに居るって感覚が大きくなって…」


「たくさん、泣いて……何処に行けば、会えるのかも、手がかりが全くないの…」


「──グローザ、貴方なら何か、知ってるんじゃない…?教えて欲しいの…」


「…」


「──グローザ…お願いっ…」


 扉の向こうから物音がして、扉に寄りかかり衣擦れの音が志弦の胸の内を代弁する様にドアの前に彼女は寄りかかり腰を落とした。


「…シヅル、ソウナは貴方に”呼び戻せ”と、言った。その言葉を…」


「──っ探してるの…!もうずっと探してるのに痕跡がこの世界にないのっ!ねえっ…!」


 グローザはゆっくりと立ち上がり、扉を開ける。そこには目の下に大きな隈を作り、桜色の髪の女性が悲痛な表情で此方を見ていた。


「──シヅル…」


 グローザはそういうと、志弦の手を引いて抱き寄せた。志弦はすぐに気づく。奏梛がよく同じ様に抱き寄せて頭を撫でてくれた。優しい記憶が溢れ出して、グローザの胸の中で志弦は堪えきれずに泣いていた──。

 志弦はグローザのベッドで泣き疲れて寝てしまっている。まだ十一歳という若さで立ち向かうにしてはあまりに過酷な道。グローザは力無く拳を握り、後悔の念が押し寄せ潰されそうに、一人静かに自問自答を繰り返した。

 志弦は目が覚めるとグローザが横で手を握りながらずっとそばに居てくれている事に気付く。


「──グローザ、寝てないの…」


「気にしないでいい、シヅル、少し…落ち着いた…?」


 志弦はグローザはこんな優しい表情をするのかと驚くが、グローザの瞳が揺れている。彼女もまた、後悔や不安と戦っていた。


「奏梛の事…聞かせて欲しい。貴方のことも…」


「シヅル……」


「…じゃあ教えて。どうしてソラリスに身を寄せたの…」


「わたしは…当時、月沙が攻め込まれた時()()()()()しかできなかったの」


「…うん」


 グローザは志弦に──。本来奏梛と志弦に伝えたかった事を話し出す。あれは当時グローザがまだ月沙に迎えいれられる前の事──。まだ、リドウという国に居た頃の話──。


やっとこの後から本番始まります...←え?

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