第二楽章 十一小節 「跡地」
ーソノマ機械都市重犯罪者特別収容施設棟 跡地ー
奏梛は破壊の残滓が残る通称【特棟】の跡地を見渡している。破壊の跡がまざまざと残るその場で志弦の式と脈の痕跡を探している。通常この世界には「白」と「黒」しか脈の色はない。
それ故に、奏梛と志弦が操る脈と式は【異質】なのだ。この世界で行使すれば、必ずその余韻が残る──。【龍脈】が、その異質な残滓を吸い上げて【濾過】を行い大地に還っていく。
奏梛はいつもこの濾過が行われるこの大地のシステムに違和感を常々感じている。龍脈は「純粋」過ぎるが故に人の手では扱えない。だがそれを「機械」を用いて吸い上げて産業エネルギーとして扱う国がソノマだ。吸い上げた龍脈は100%の濃度でエネルギーには変換できない──。その為、幾らエネルギーとして転用可能であっても、それは龍脈というエネルギーの「上澄み」を掬うだけなのだ。転用できずに扱えない残りのエネルギーは、一度でも【人工的に吸い上げる】とこの大地に負の連鎖を引き起こす。
奏梛が自身で行う【濾過】も同じだ。上澄みを利用し、利用できない部分は奏梛の式で大地にゆっくりと還す。ゆっくりとだが、奏梛は龍脈を大地のあるべき所に帰すことができるが、ソノマはそれが出来ない──。
欲望のまま吸い上げて、処理しきれない龍脈を雨として強制的に大地に還している違いがある。そして自身が扱う脈と式も、今のこの時代には「異質」な物として分類される。全てのエネルギーは龍脈と同じなはずなのに、奏梛や志弦が起こす脈と式は、まるで龍脈の上澄みを掬った後の──汚れた力と一緒なのではないか──。考えを巡らせているとリディアンが現れる。
「──奏梛様、シルディについて...いくつか分かった事があります」
「...聞かせてくれ」
「シルディの母は、リノザという商人でした。リノザはゲンディアとソノマを結ぶ交易路を最初に取り付けた人物ですが──その際に、イグノア宰相の妾にとソラリスに一度迎え入れられています」
「リノザは交易路を開いた際に、その成果を買った当時のソノマの機械都市の都市長、ミュルジスと結婚する筈でしたが、イグノアがリノザを見染めてソラリスへ特待として招き、第7夫人として迎えています。その際ソノマの都市長、ミュルジスは最愛の人を献上した対価に機械エネルギーの開発のための援助を受ける事になったそうです」
「開発は難航していた様ですが...ちょうど去年、機械を利用して龍脈を吸い上げる事に成功しています...ソノマは新たな技術をソラリス協力の下開発し、それを足がかりに世界中に向けて、転用可能な龍脈エネルギーについて大々的な発表を行っています──ですが、その際に発表された【龍脈変換装置】発表時の爆発事故により、娘のシルディが亡くなっています」
「...」
「お気づきかと思いますが、そのシルディという女──おそらく──シルディの顔を模した全く別のものです。そして龍脈変換装置を発展して、吸い上げたエネルギーを雨にして降らせる事が可能な降雨機──。ドラグナド研究所の施設が誕生したという所までは調べがつきました」
「天候学が専門のゲンディアには降雨機はすでにあったのではないのか?」
「それなんですが──。ゲンディアでは長い間雨が降り続けており、もう十年ほど陽の光が差していないそうです。降雨機は、確かに存在していましたがその存在自体があまり知られていなかった様なのです...」
「つまりゲンディアには意図的に長い雨が降り続けていて、龍脈の雨に入れ替わっても気づかない様、十年以上前から計画されていた──って所か...」
「はい──。ただ降雨機自体は当時からゲンディアでも珍しい物ではありません。なぜゲンディアにとって身近な存在の降雨機の存在が当時の十年ほど前から記録に残っていないのかが──」
「...」
「これは推測の域を出ませんが──。恐らくソラリスが地上の人々に対して何かしらの実験を行っていて、その利害関係の一致からソノマは利用されているものと思われます。私はソラリスが奏梛様にとって──。無視できない国だと言うことは...理解しています。この大地に生きる者にとって、あの国は癌そのもの...です」
「......」
奏梛は特棟跡地を見つめながら静かにつぶやく。
「──お前が望んだ世界から、また離れていくよ...リュドミラ」
リディアンは風の音で上手く聞き取れなかったが、眼前の剣聖がやり場のない悲しみを背負っているのだけは理解できた──。
「リディアン......イグノアに会いに行くぞ」
「はい!」
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ーソノマ機械都市中央 連鎖の斜塔ー
この機械仕掛けの都市には筒状に伸びている細長い建物が乱立している。無計画に立て続けたその建物たちは地盤の緩みや天災など──。さまざまな自然現象が要因となって、建てられた筒が倒れ込み、その倒れた筒にまた建物を繋ぎ合わせ、螺旋の様に建物が倒れ込み、絡み合っている。無計画に建造され続けた歪な集合体は、いつしかこの都市を表すシンボルになっている。
その歪な集合体の中心に、中でも一際大きい目を惹く建物がある。ソノマ機械都市の中枢──。
「イェグタリト──。いつ見てもおかしな建物の集合体ですね...ここは」
「どれか一つでも失えばバランスを失う積み木の様な...。まさにこの都市を象徴しています...。過度な成長と発展に人々の暮らしが全く追いついてない」
リディアンは奏梛の隣で建物を見上げて呟く。
「...ソラリスも...月沙も...かつての月の民も...。どうして人は地上から離れる事を望むんだ...」
「────」




