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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第二楽章
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第二楽章 十小節 「すれ違い」

 ゲンディアとソノマの間 

 ーストラの森ー


 ニ日ほど先へ進むと、リディアンは道中の小屋で仲間と合流すると言い、一行は森の小屋で休息をとっている。彼女は手持ちの薬と置いてある布などで奏梛の応急手当てを手際よく行ない続けている。奏梛はその様子を視線で追っていると、リディアンが妖艶に奏梛に微笑む。


「気になりますか...?私が」


「...手当てしてくれて感謝はしている。だがそろそろ教えたらどうだ」


 彼女の淡い琥珀色の瞳を覗きこむ。リディアンは残念そうに口を尖らせながら、奏梛の包帯を巻き終えると答えた。


「...私はソノマの反レジスタンス、剣影のリーダーです。ゲンディア侵攻もそうですが...ソノマは近隣の国に無茶な侵攻を続けており...」


 一息に話し始めるリディアンに奏梛は遮る様に「そこじゃない、ソラリス出身者がなぜこの大地の事に興味を持っていると聞いているんだ」と、鋭く質問を挟む。

 しばしの沈黙の後「やはり剣聖様には隠せませんね」と認めると、ライガンとファゴットもソラリスという単語に表情を変える。


「おいアンタ...ソラリスのモンかよ」


 明らかに不快感をファゴットが全面に出している。ライガンは何か考えているのか顎に手をやり沈黙を守っている。「ライガン侯爵を見習ってください、思った事をすぐに口に出すのはトラブルの元です」と、リディアンが意地悪くファゴットに返す。ファゴットの不満げな舌打ちには反応せずリディアンが続けた。


「──私はソラリス出身ではありますが、”落城”した身です。あの国に未練などありません」


 それを聞いて沈黙を守っていたライガンはリディアンに問いかけた。


「どう信じれば良いのです?ソラリスはここ数年各国をそそのかし、戦争の引き金を作っている。世界中の大きな争いには必ずソラリスが後ろにいます。その様な国の出身を信じろと?」


 リディアンは少し言葉を選ぶ様に思案し、静かに頷くと徐に服を脱ぎ始める。


「──ッ何してやがんだ突然!!」


 ファゴットは視線を逸らしているがリディアンは躊躇いもせずに背中をファゴットとライガンに晒した。そこにはソラリスと縁を切った者の証。“天帝の爪痕”があった。大きな消えない傷を晒しリディアンは続ける。


「──ソラリス落城者に刻まれる印です。ソラリスにお詳しいお二人であればご存知でしょう?」


 リディアンの表情は真剣だ。ファゴットとライガンはリディアンの覚悟を感じ、黙り込んでしまう。

 ファゴットは思い返している。子供の頃から嫌と言うほど聞かされていたソラリスのことを。六年に一度、ソラリスに相応しくない者は()()され【地上に落とされる】

「浮遊国家」である傲慢な国の考えそうなことだとファゴットは当時感じていたのを思い出しながら記憶を辿る。選定された者は”落城”の印として、かつて剣聖が振るったとされる剣で背中を切り裂かれると──。ファゴットは芋虫を噛み潰した様な顔でリディアンに謝罪した。


「悪かったな...」


 リディアンは笑顔で「いえ、気にしておりません」と言い恥ずかしげもなくそのまま服をまた羽織った。

 奏梛はいまのやりとりと見て「概ね理解した、立ち入った事を聞いたな。すまない」と、リディアンに謝罪すると「剣聖様が謝罪する必要などありません、私は貴方をずっと探していました...この話はいずれ別の場所でお話しを」と、リディアンは悪戯っぽくウィンクをして話を終わらせた。奏梛は少しの沈黙の後、自身の最優先事項を隠さずにリディアンに伝える。


「──リディアン、俺にはすぐに合流しなければならない人がいる」


「ええ、理解しております。ソノマの剣影のメンバーから、ドラグナド研究所から連れてこられた、異国の女がいると情報が入っています。恐らく、剣聖様のお仲間でお間違いないかと」


 奏梛は志弦の笑顔が頭をよぎる。旅を始めたばかりで、すぐに危険に晒してしまっている事への罪悪感、自身への嫌悪感、無力感が脳内を巡っていた。リディアンはその様子を見つめながら「大事な方なのですね」と静かに呟くと──小屋の入り口がドンドンドンと扉が鳴る。

 リディアンがすぐさま立ち上がり、入り口へ向かうと同じく扉を2回鳴らした後に、再度3回のノックが聞こえる。どうやら仲間内の合図の様だ。リディアンが求めた回数再度ノックが鳴ると、彼女は警戒を解き、扉を開け仲間を引き入れる。


「待たせたな、遅くなった」と、大柄の男と少女が一人合流する。


「リディー!!おそくなってごめ──ん!」


 ファゴットが顔を顰めながら、ライガンは少女を優しい笑顔で迎え入れている。


「リディ!一人で大丈夫だった〜?」と青い髪の少女がリディアンに飛びついた。


「こらシーシャ!場をわきまえろ!」


 大柄の男がシーシャと呼ばれた少女を摘みあげる。


「シーシャまだ何もしてない!ロナーのバカ!!」


 ロナーと呼ばれた男はムッとして言い争いを始め出す。リディアンがため息を付いてパン!と掌を鳴らすとその場に静寂が戻った。二人は一瞬で静かになり背筋を伸ばしている。リディアンが表情を引き締めて「二人とも、剣聖様の前ですよ!」と、気を入れ直す。


「──リディアン、剣聖呼びはいい加減やめろ...奏梛だ。奏梛で呼び捨てでいい」


「しかし!」とリディアンが続けようとすると、ロナーが遮る。


「剣聖様の影の剣になりたいって願いがあるんですよ、剣影の名前には」とニヤニヤしながら奏梛に視線を送る。


 リディアンは見せたことのない恥じらう様子を見せて「やめなさい!」と静止するも、シーシャが続ける。


「シーシャはリディが、ずっと剣聖に憧れてたの知ってるもん!!ちなみにリュドミラじゃないよ?奏梛の方ね!!」


 三人で揉み合っていると奏梛が呆れながら、こんなに賑やかなのは久しぶりだと笑い出した。


「こんな騒がしいのは、いつぶりかな...」


 そう言うと調子を整えて、3人に奏梛が続ける。


「大体はわかった、お前達...俺に協力してくれるんだな?」


 奏梛がそう尋ねると3人は「はいっ!!!」と、即答だった。


▼△▼△ ▼△▼△


 志弦奪還の手順を確認するため小屋のテーブルで話し合いが始まった。シーシャが入手した特棟の図面を見ながら、ロナーが指を指す。


「おそらくシヅルさんが捕まっているのはここだ、シーシャの情報によると最近ここに異国の装いの女が囚われたと情報が入っている」


「シヅルちゃんめっちゃ美人!少ししか見えなかったけど、奏梛の言う情報と一緒だったし間違いないよ!」


 シーシャが小さい体を目一杯大きく見せようと胸を張っている。


「嬢ちゃんを助けた後はどうするんだ?また脱獄させたとあっては目立ちすぎないか?ルルシナ要塞のこともある」


「大丈夫だ、今回剣聖様...奏梛がルルシナで浄化した者達は皆、ゲンディアの途中の村へ匿ってきた」


 ファゴットは手際が良いなと感心する。ライガンは「私はソノマについてからは、世間では死んだと公表されているでしょう、しかるべき時まで身を潜めます」と告げ各々の動きを確認していく。リディアンは奏梛の方を見て心配そうに声をかける。


「奏梛様...お体の加減はいかがですか?ここからソノマまで十日程移動が続きます、もう少し休まれては...」


「いや...むしろ志弦と出来るだけ早く合流したほうがいい。あいつには...特殊な脈と式があってな、俺の状態も志弦に会えば少しは動ける様になる」


「──分かりました」


「では今日はもう遅い。明日の朝から出発します、各々まずは身体をしっかり休めて準備してください」


 リディアンがそう言うと、各人それぞれ、装備の点検など手順を確認しその日はすぐに休むことになった。リディアンはその夜、早く休まなければいけないのに中々寝付けずにいた。憧れの剣聖と共にいるという事実と、ルルシナで見た浄脈法──。


「あの力があれば、多くの人の命が救える奇跡の式──」


 目が冴えてしまって、外の空気を吸おうと小屋の裏庭に出ると、そこには剣聖が月の光に照らされている。傷だらけの身体──。今までの凄まじい経験がその背中にまざまざと刻まれている。奏梛は白と蒼い脈の二色を自身に纏わせて何かの式を行使している。──美しい海の様な深い深い蒼。この世界に失われた色を操る剣聖。言い伝え通りの眼前の真実にリディアンはしばらく目を奪われていると奏梛が振り返る。


「...いつまで覗き見してるんだ」


「っは!...申し訳ありません。見惚れていました...本当に美しい色ですね」


 奏梛は返事はせずにリディアンに問う。


「──何故、落城した?リュドミラ亡き後のソラリスは確かに良い噂は聴かないが。シェヴァン家や、まだ話の分かる者は居たはずだが...」


「シェヴァン家の者は...月沙侵略の際の責任を取り...皆殺しにされたと聞いています。人づてではありますが数少ない人格者だったと...」


 奏梛は沈黙の後、月の灯に照らされながら傷で火照った身体で問いかけた。真っ直ぐにリディアンを見据え──。


「リディアン、俺はソラリスを滅ぼすべきだったか?」


▼△▼△ ▼△▼△



ー翌朝ー


 早くから準備を済ませた六人は移動を開始する。ストラの森は巨大だが、特に危険は少ない。たまに脈獣報告が出るがそれも一年に一度あるかないかだ。ストラの森林地帯を抜けるとバル平原が広がりその先が機械都市ソノマだ。一行はスムーズに森を抜け、予想よりも早くバル平原に出る事が出来た。


「このまま行けば、少し予定より早くソノマに着きますよ」と、大荷物を背中に抱えるも余裕そうな笑みでシーシャを見ているロナー。


 シーシャは元気よく周りを駆け回りながらも周囲を警戒している。


「ね〜リディ!神獣居なかった!残念!」


「神獣ってまさかあのゲンディアに伝わる、神獣ですか?」


「そー!シーシャずっと会いたくて探してるの!」


「ただの伝説にしては、やけに具体的な伝承も多いからな...」


 するとライガンがそのやり取りを見て間に入る。


「──神獣フェネックは、かつてこの世界の色が七色だった時、失われた各色の長が飼っていたとされる獣です。伝説上の御伽噺ではありますが、奏梛殿がいると現実味を帯びてきそうな話ですね」と穏やかに笑っている。


 一行はバル平原の街道沿いの宿を目指し足を進めているが、リディアンは複雑な表情で平原の先を見つめている。先日の夜、奏梛から滅ぼすべきだったかと訊かれ即答出来ずにいた自分に。あれだけ忌み嫌った国、家族を皆殺しにした国、自身を迫害し続けた国──。奏梛はリディアンに問いかけた後、肩に手を当てて「忘れろ、ただの戯れだ」と言ってくれた。だが、自分はもし国を滅ぼす様な力を持っていたとして──復讐のために一国を滅ぼすのだろうか?

 リディアンは答えが出ぬまま、ただ奏梛がその答えを示している様な気がして、この人の背中をしっかりと追っていかねばいけないと感じていた。


▼△▼△ ▼△▼△


ーソノマ機械都市ー


 予定より早く到着した一行は最初の作戦通りすぐに各々移動を開始する。ファゴットとライガンは剣影のアジトに向かいしばらく身を隠す。ロナーとシーシャは情報屋のいる龍雲亭という飯処へ向かう。リディアンは奏梛と拠点になる宿を取りに向かう手筈だ。リディアンは受付を済ませると、「奏梛様、こちらです」と手配した部屋へ奏梛を案内する。


「──奏梛様は此処でまずは少しお休みを、食事を手配してきます」


 リディアンは道中、奏梛の病状をずっと観察していた。並の精神では立っていることも難しいはずなのに、顔色一つ変えずに、シーシャの歩くスピードに合わせてペースを落とさず歩き続けてくれた。


「────」


 リディアンは龍雲亭に着くと相変わらずごった返している店内を慣れた手つきでかき分けてカウンターに直行すると「レトラ!」と手を振り挨拶をする。


「リディじゃないか!最近顔を見せないから心配してたよ!」


「レトラさんも変わらずで良かった、今日は急ぎで食事を持ち帰りたいんだ」


「あいよ!ちょっと待ってて」


 レトラは注文を手際よく捌きながら、新しいオーダーを後ろにいるドナーに伝える。ドナーもこっちに気づくとリディアンに「ロナーは?」と聞いてくる。「先に来てるはずだと思ってたんだけど...」と伝えるがシーシャもいない為辺りを見回す。


「レトラ!ちょっと出てくるから席だけ取っておいて!」


「一体何をして...」


 リディアンは店外へ出るも二人は居らず辺りを探していると裏路地でちょうど見たことがあるシルエットを確認する。


「おーい!シーシャ!ロナー!何してるの!」


「──ん?おおリディアンか」


「ねえ、リディ聞いてよコイツが──」


 ロナーに羽交い締めにされる少年がバタバタともがいている。


「おい離せよ!もう返しただろ!!」


 リディアンが見慣れない少年を訝しんでるとシーシャがその少年をコンコンと棒で叩きながらリディアンに説明する。


「リディ、コイツがロナーの持ち物盗んだんだ」


「ロナーもう良いよ、取り返したなら早く行こう。志弦様の痕跡も早く見つけないと奏梛様が──」


 そう言うとロナーに絞められている少年がピタっと動きを止めて表情を変えた。


「シヅルとソウナ...」


 三人は反応した少年を見逃さなかった。リディアンは殺気を放ち少年の首元に即座にナイフを当てる。


「ちょっ...待ってくれ!!その名前が聞いたことがあって!!」


「奏梛様の名前を聞いたことがある...?下手な嘘は言わないことね。どこでその名前を聞いたの」


 リディアンが迫ると、少年は続ける。


「おれはこの前まで特棟の見張り番をやってたんだ!その時に捕えられてた女が最後に言ったのが──確かその名前だ!」


 シーシャが顔を顰めながら顔を近づけて問いただす。


「ん〜?最後ってどう言う事?志弦様もう居ない?」


「おいガキ!!しっかり話せ!!」ロナーが語気を強め押さえつけている腕にさらに力を込める。


「うるせー!筋肉バカめ!こんな...!力で絞められてたら話せねえんだよ!!」


 リディアンはナイフをしまい、ロナーに「離してやれ」と伝えると、言われた通り少年を離す。少年は地面に膝をついて首を押えながら咳き込み、呼吸を荒げている。リディアンは再度少年に問いかける。


「──早く話せ、奏梛様のお名前を特棟で聞いたというのは本当だな」


「...ああ!間違いねえ」


「最後っていうのはどういう事だ?」


「──俺はこの前特棟の見張り番をクビになったんだ!女は妙な式を使って棟を丸ごと破壊してどこかへ消えたよ!!おかげでこっちは仕事を失うし、迷惑被ってんだ!!」


 シーシャは笑みを浮かべながらナイフを掌で高速で回しながら少年の瞳の近くを再度覗き込む。


「志弦様のことコイツ迷惑って言ったよリディ!」


 リディアンがため息混じりに「志弦様はどこに...」と考えていると龍雲亭のレトラが食事を持ってわざわざ外に出てきてくれた。


「ああ此処にいたのかい、全く...呼んでもいないからどこ言ったかと...ん?レナンじゃないか、アンタ達知り合いかい?」


「いいえ」

「違うよ!」


▼△▼△ ▼△▼△


ー龍雲亭ー


 四人の男女がテーブルでヒリついた空気を醸し出している。およそ龍雲亭には似つかわしくない空気を持っている為、店内で異様に目立ってしまっているが、レトラはため息をつきながら各人に水を出しそのテーブルを離れるx


「で──志弦様は特棟ごと破壊して逃げたと」


 リディアンは頬杖をつきながらレナンに向かって毒づくように続ける。


「ああ...。ただ目を覚ますともう瓦礫まみれだったしなにがなんだか...ただ瓦礫の中でこれを拾って──」


 レナンは布で包んだ腕輪を取り出す。一見して明らかに”価値”がある物だと分かりすぐにロナーは布で包み直す。


「おい!こんなところでそんな貴重そうな物見せるんじゃねえ...!誰が見てるか分からねんだ」


「やっぱりこれって結構な価値がありそうだよな、こんな色の宝珠?装飾も見たことがないし...」


「とりあえずそれはこっちで預かるから──」


そう言ってリディアンはレナンから包まれた腕輪を強引に奪う。


「待ってくれ!!売って金にしようと思っていたんだ!見張り番を首になったし金の当てがねえんだ!返してくれ!」


「ふーん...じゃあ〜...私たちの仕事を手伝う奴隷一号ってことで」


「はあ?!」


「なんであんた達の下僕みたいにならないといけないんだ!俺は普通の仕事で暮らせれば十分なんだよ!」


「普通の暮らしを求める奴が、()()()()()売り捌いた日には次の日に命を落とすぞ」


ロナーが冷たく言い放つとレナンは黙ってしまう。


「ひとまず私は奏梛様を待たせてるから、一度宿に戻る。二人はこの小僧から他にも情報持ってないか聞き出しておいて」


 リディアンはそう言うとすぐに席を立ち小走りで店を後にした。レナンは「待ってくれよ!!」と静止するも、リディアンはすぐに視界から消えてしまう。


「全く時間を予想以上に食った...!奏梛様に早く報告しないと」


 リディアンは急いで宿に戻ると、三階の奥の部屋の鍵を開ける。奏梛の姿が目の前に確認できるとリディアンはほっと安心して、テーブルに食事を用意する。


「奏梛様、特棟にいた見張り番からこれを手に入れました」


リディアンが包みから広げた腕輪──。


「志弦──」


 奏梛はゆっくりと腕輪に触れると志弦の脈の痕跡を辿る。柔らかい幾つかの色が腕輪から発する光と絡まり合っている。


「奏梛様──何かわかりましたか?」


「ああ、志弦は無事だが──行き違いでゲンディアに向かった様だ」


 リディアンはペースを落とさずにソノマまで進んてきたのを一瞬後悔する。──もう少し焦らずに進めば合流できたやもしれないのに。


「申し訳ありません...」


「謝るな。謝る様なことじゃない、リディアンは精一杯よくしてくれている」と、リディアンに優しく微笑む。彼女は突然剣聖からこの様な言葉が出てくると思わずに動揺している。


「そ、そ、そう...です...ね」


「今下手に動くとまた入れ違ってしまう可能性も高い...。俺はこのまま情報を集めようと思う」


「リディアン、シルディというゲンディアの騎兵団団長だった者を調べてくれ。俺は他に確認したいことがある」


「かしこまりました!」


▼△▼△ ▼△▼△


ールルシナ要塞付近ー ストラの森


 志弦は乗り合いの馬車などを用いてなんとかルルシナ要塞付近まで進んでいた。特棟で使用した式は共振だ。ほぼ全力に近い形の共振を発動して脱出を試みたが、全身の脈を凄まじく消耗しており足取りがおぼつかない。そんな中、森の街道を少し外れた所に見覚えのある脈の残滓を見つける。


「これって...!奏梛!!」


 ふらつく足で目一杯土を蹴って小屋の扉を開ける。──そこには数日前まで人がいたであろう痕跡とよく見覚えのある脈の痕跡があった。


「奏梛の脈...此処に居たんだ...。つまり捕まってる状況からは脱出したって...事だよ...ね」


 気が抜けたのかそのままベッドに横たわってしまう。そこには奏梛の脈が残滓として残っており、志弦は泣きながら、枕に意識を落とした。


△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼


 志弦は夢を見ている。奏梛がルクセリアの図書館に居て──二人で積み上がった本の上に座り朝まで語り合って、いつも優しく髪を撫でてくれた。奏梛の手櫛で髪を整えてもらうのが大好きだった。触れられていると心が落ち着いて──最後は大体が二人で喋り疲れてそのまま眠ってしまう。


「奏梛は私を守る時だけ無茶をして.......私が奏梛を守るから──」


△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 志弦はビクッと身体を起こし意識を落としていたことに焦り辺りを見回すも──。


「ああ、そっか...小屋見つけたんだった...」


 安堵と同時に夢の内容を思い出して胸が苦しくて、志弦はボロボロと涙を流す。


「私が守るから...!だから奏梛には無茶をもうさせないって意味だったのに...!私...」


 志弦は胸のネックレスをギュッと両手で握り、意識をなんとか切り替える。


「...とりあえず何か食べないと...!あの見張りの子も言ってたし!」


 志弦は小屋に残っている調味料などを泣き止んだくしゃくしゃの顔で鼻をすすりながら確認し、森で食料を見繕う事にする。


「そういえばあの見張りの子大丈夫かな...咄嗟に防護結界を張ったから多分生きてると思うけど...ごめんね...」


 そんな事を思い出しながら──。志弦は森を散策し動物達を探すが、全くと言って良いほど動物の気配が感じられない。静かすぎるのだ──弱肉強食の自然の摂理が、この森からは抜け落ちている様だった。志弦はこの森に足を踏み入れた時には気づかなかったが、今なら感じ取れる。大きな力の支配源になっている者がいると直感で感じとる。向こうもおそらくこちらを認識している。だけど敵対心は感じない──。

 志弦はフラつく身体に鞭を打ち、式を展開する。地面に手を当てて水面の様に広がっていく脈をイメージして波紋を起こす。志弦を薄紫の光がゆっくりと包んでいく。すると、突然志弦の前に見た事もない白銀の毛並みの大きな狼が飛び出してくる。


「なっ...何処からっ...」


 志弦は咄嗟に構えるが──目の前の狼には殺気がない。それによく見ると怪我を負っている。志弦はゆっくりと呼吸をしながら警戒を解いていくと、狼に近づいていく。


「キミ...一人ぼっち?お母さんやお父さんは?」


 志弦が首元に優しく手を伸ばすと白銀の狼はその手を受け入れ気持ちよさそうに鳴いている。狼は従順に頭を下げて志弦に顔を擦り寄せる。どうやら志弦の式の色を気に入っている様で、懐いてしまい志弦から離れようとしない。


「──傷...治そっか」


 志弦はそう言うと脈を操ろうとして奏梛がくれた腕輪が手元にない事に気づく。


「そうだ...捕まって装備品はあそこに...」


 すると、白銀の狼は志弦を大きな毛並みのいい尻尾で包むと背中に乗せソノマの方角へ突如走り出す。凄まじいスピードで移動し始めて驚く志弦だが、風の抵抗を全く感じない。


「キミは......一体──ううん、このまま進んでソノマへ向かってくれてるんだよね?...お願い!」


 志弦は白銀の狼の首元に脈を伝えて、【思考】を伝達する。本来人間同士だと、意識の共有は非常に困難なのだが相手が動物であればそれほど苦ではない。


「見えた...?この人に会いたいの...!お願い出来るだけ、急いで欲しいの...!」


 白銀の狼は「楽器の様な」美しい鳴き声を響かせて志弦に呼応した。


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