第二楽章 全休符 壱
銀髪の青年。桜色の髪の女──特徴的な簪で髪を結っている。半身が獣の様な少女が一人──。シルエットが三つ。三すくみの様に各々が脈を繋げ合い膨大な力を圧縮している。特に銀髪の男の横には対になった刀の様な物が大地から何かを吸い上げている。吸い上げた脈のような漆黒の脈を三つのシルエットが受け渡しながら、浄化をしているようだった。
信じていなかった訳じゃない。あの二人はこの村に本当に尽力してくれた。近くの脈獣も一掃しこの辺り一体に束の間の平和をもたらしてくれていた。それにグローザを龍脈の海から掬い上げてくれた、いや助け出して──しまった。
俺は父として失格だった。あの子が龍脈中毒である事から目を背け、食い扶持を減らすための村で日常的に行われている「それ」に従い、あの子を捨てた。そんなグローザを抱えてこの村にあの二人がきた時は天罰だと死を覚悟した。あの龍脈の海から還ってきてしまったあの子を見て、正直いつ殺されてもおかしくないと震えが止まらなかった。
だが──。あの子は記憶を失っているようで、俺の顔を見て分からないようだった。何も──。他人のように振舞われた事によって、自分の中の罪悪感が刹那的に緩んだ。許されたと勘違いした俺は、考える事を辞め、ただ今日を生きる事だけを考えて逃げ続けた。
そのツケが回ってきたのかと──。
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ー三ヶ月前ー ルーグリッド帝国外れの砂漠地帯
「おい…何時になったら着くんだ」
「んー?おかしい?なぁー」
薄紫の髪の女はとぼけた表情で口笛を吹きながら、目を泳がせている。──男は知っている。こいつが、こういう表情をする時は絶対に一つしかないと。
「胡桃…また…」
「ええっと奏梛くん!そんな怖い顔しても…な、何も解決しないよッ…!」
「この砂漠で絶対にやっちゃ行けねえ事ってわかるか、胡桃さんよ…」
「な、なんだろうねー?!いやー今日も良い天気だなー!」
「これの何処がだ!!」
ルーグリッド地方は砂漠地帯で知られる帝国領土の一つ。この地では、双眼の眼からの風の影響が特に強く、各都市、小さな村に至るまで「防風堤」が人々の住まう環境を包むように保護している。ひとたび外に出れば、並の人間なら一日と保たずに遭難、餓死、変質、進化など、受戒者の条件がこれでもかという程揃っており、基本的に各都市や拠点から移動する場合は、脈を使った転送陣を用いる。常人はそのまま防風堤の外に出るのは命取りであり、そもそも、この周辺の地域に住む者であれば持っているであろう「ある乗り物」を使用するのだが──砂漠の嵐と強風に晒されながら、二人は事もあろうか徒歩によって移動をしている。
「胡桃ッ!!テメエが脈を波紋上に広げて方角を見失わねえっていうから信じたらこのザマだ!!」
「だ、だってぇ!奏梛も賛成してくれたじゃん!!」
「バカヤロウ!宝珠があるから承諾したんだ…!よりによって宝珠を盗まれてるなんて…!」
「そうなのッ!!だからこんな複雑な識を長時間維持するとか無理だってわかってくれるよね!奏梛優しいなぁ!」
「はぁ…どうして胡桃…お前はいつもいつも災難ばかり…」
奏梛が額に手を当てて、深くため息を吐きながら愚痴を溢していると、彼の胸元の宝石が光り、半身が獣の少女が顕現する。身体の節々が粒子化しており、顕現しきれていない。
「ふふッ!相変わらず飽きない二人よのう!!奏梛、此奴については諦めて腹を括るのじゃな、反省はしておるようじゃが、何処かで楽しんでおる!」
「ゲンティアッ!勝手に顕現してくるんじゃねえ!お前が出てくると脈の消費が激しいんだ!ただでさえ疲れるんだから大人しく──」
「あ、ゲンティア!奏梛と契約してから初めてじゃない?出てきてくれるの!」
「そんなぽんぽんと出てくるような存在じゃねえんだよ胡桃!こいつは危険すぎるし──」
「なんという言い草か!!妾の様な存在を従えたというのにその態度は理解できんぞ奏梛!」
「ねーゲンティアの力でこの砂漠を何とか…」
「──胡桃ッ!んな事したらこの辺り一帯がどうなるか…!」
ゲンティアは胡桃の提案に満更でもない様子で、何やら詠唱を始め出す。勢いよく脈が集まり出し、空に向かい鋭い光を発すると、それに合わせて奏梛が膝を折る。
「二人ともふざけた事言ってるんじゃねえ!それにこいつの燃費の悪さは胡桃!お前も知ってるだろッ!」
「──確かに!!ゲンティア!ちょっと緩めで行けないかな?!」
「はははっ!そうくると思っていたぞ胡桃ッ!」
「ちょ、ちょっと待て!本気でやろうとしてんじゃ…!!」
「胡桃よ!しっかりと奏梛に捕まっておれ!」
「準備完了!!」
「──行くぞッ!!」




