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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第二楽章
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第二楽章 一小節 「ゲンディア機械都市」Ⅰ

 ルクセリア卿国の周りの巨大な岩壁には国全体を覆う霧が一月に一度かかる。霧が発生しているごく短い間、外部からの船が近くまでルクセリアに近づける為、その間に船と船を繋げて物資や人の移動を行なっている。二人も例に漏れずこの周期を利用してルクセリアから出国する。


「──奏梛、まずはどこに向かうの?」

「志弦は、行ってみたい所とかないのか」


「んーと…各地の龍脈を調査するんだよね?此処から近いのだと、まずはゲンディア天候学都かな」


「…そうだな、ちゃんと勉強してるな」


「うん!奏梛…若様の足引っ張らない様にちゃんとね」


「志弦...奏梛でいいんだ、自然体が一番だぞ?」


 「むー」と志弦は頬を膨れあがらせ不満そうだ。奏梛はそんな彼女を尻目に、ルクセリアから最初の街の一つ。ゲンディアの様子を遠くから式を使い確認している。二人はゲンディア大陸東海岸に着くと小さな村に到着した。周りを見回すと、この辺りで取れた海産物などを出店で捌く露店が多いがーー。奏梛が訝しんで辺りを見回していると、その様子に志弦が気付き「奏梛?どうかしたの?」と不安そうに声をかける。


「志弦、ゲンディアの特産は…」


「えっと、海鳥の姿煮と海岸沿いの朝露の光華?あれ、でも……朝露の光華…全然並んでないね」


「……」


 奏梛は考え込んでいる。この辺りで朝露の光華が取れないという事は、そもそも「朝がきていない」ということになる。ゲンディアに上陸してから、空はずっと雲が多く雨が降り続けており、大地を伝う脈の流れも、どこか濁っているような──。


「…奏梛!そろそろ今日の宿を見つけないと…!私先に宿取ってくるね!」


 私はそう告げると足早に駆け出した。奏梛はというと歩きながら考えに耽っており、どこか上の空というかずっと何かを探しているようだった。彼がああいう表情をする時は邪魔してはいけないというのはここ半年程の生活で察していた。

 一先ず今日の宿を探しに情報が多そうな酒場へ向かう。扉を開けるとそこは、屈強な男たちが酒を浴びたり、殴り合ったりしている。物語の序盤としては典型的な風景の一つ。志弦は良く本を呼んでいた為、物語の中の一幕に遭遇しているような感覚、少しだけ胸が高鳴った。


「んー、酒場?だよね…こんな感じなんだ……」


 辺りを見渡しながら入り口から中央に進むと、カウンター付近で酒を飲んでる二人組が私の手首を乱暴に掴んだ。どこかの傭兵崩れなのだろうか。幅をきかせて周囲の席を陣取っているようで、ここの常連である事が伺える。かなり酔いは回っているようだ。酒場なので当然と言えば当然だが、非常にお酒臭い。握られた腕を見ながら、不快感は隠さなかった。


「おい、ねーちゃん止まんな」

「へぇ…」


 男達は私の顔を品定めする様に、上から下まで目線を移動させている。こう言った視線を浴びるのは初めての事だった。彼女はどういった意図があって、視線を集めているかを理解しているわけでは無い。志弦は、声をかけられた事よりも自分の身体に「奏梛以外が」触れる事に酷く嫌悪感を感じていた。そんな彼女の感情など無視するように、男達は品定めを続ける。


「…今日はこの酒場は俺たちで貸し切りだ。他所を当たんな」

「──手、離してください」


 志弦は手を振り払い、奥に進もうとすると男達が立ち上がって進行方向を塞ぐように志弦を取り囲み出す。大きく溜め息をついて、「私、なにかしました?」と言わんばかりの不満の表情を隠さない志弦は、不快感を露わにする。


「──酒場の主人にちょっと聞きたいことがあるだけです」

「嬢ちゃん、貸切って言葉わかんねえのか?おい。こっちきて一緒に付き合ってくれるんなら良いけどよ」


「あの…どいていただけますか」


「今日は、ゲンディア機械都市の専属騎兵団の──」

「機械都市?天候学都でしょう」


「ああん?何にも知らねえんだな、その服装もこの辺りじゃ見ない服装だ──良く見ると、良い女じゃねえか」


「私まだ十一だけど…」


「はははッ!そんな身体で何を言ってやがる!!」と志弦を笑い飛ばし、周りの男どもが、いやらしい目つきで上から下まで視線を上下させる。


 ──そういえば奏梛が言っていた。選民で選ばれた人間は、身体の成長が早くて十二歳くらいで成人の身体くらいになるって。確かに、なんか胸も最近すごく膨らんだし、身長も一気に伸びた気がする。雑念を払い、志弦は男達には構わずに奥の店主らしき人物に呼びかける。


「店主さーん!ちょっと今日の宿を聞きたくて!」


 店主は奥にいるが、面倒事はごめんだよと手を振っている。その態度に、この酒場に集まっている客達の厄介さが垣間見える。志弦は気にせずに、さらに奥に強引に進もうとし、店主に声をかけ続ける。


「このあたりで泊まれるところ探してるんですけど、何処か紹介してもらえませんか?」


 店主からの返答はないが、代わりに周りを取り囲む男達が志弦に返答をする。相変わらず気持ち悪い笑みを浮かべてこちらを品定めしているようだった。


「──嬢ちゃん、俺たちの詰め所なら空いてるぜ。ちょっと一緒に話そうか」


 「はあ…」とため息をついて、志弦は右の目に式を発動させようとする。なんて事はない、黙らせてしまえばいいのだ。そのためにこの半年間集中して玖我音と奏梛に鍛えてもらった。志弦がまさに式を発動しようとしたら瞬間ーー。志弦の肩に手を乗せて「志弦、なんでも力任せに事を勧めるなんてクガネが泣く」と彼女に取って心地よい声音が響く。ぱあっと表情が途端に明るくなり、右目の式が解除された。


「奏梛!」


「…なんだてめえは」


「──旅の者だ、ひとつ聞きたい。ゲンディアは機械都市ではなくて、天候学術都市だったはずだが?」


「いつの話をしてんだ?去年ゲンディアを治める、ライガンが亡くなってから、此処は変わったんだ!横の女置いてさっさといけ!!」


「んなッ…!!奏梛になんて口聞いてー!!」

「志弦…噛みつかない…悪かった、邪魔したな。改めてまたくるよ」


 そう言うと、奏梛は志弦の手を引いて店を後にする。後ろから、何人か襲ってこようとしていたが、突然男どもの感情が全て無かった事の様に各自席に戻りまた酒をあおりはじめた。


「──志弦、認識の解除なんてしなくて良いんだ…ああいうのは無視してればいい」

「だって…」


 志弦は不満そうにしていると、端の方で一部始終を見ていた少女が走って寄ってくる。


「──あの…旅の方!!宿をお探しですか?良ければうちにいらっしゃいませんか?!」



△▼△▼ △▼△▼


「うちの家、料亭なんですけど、お客様がこの時期全然居なくて…」


事情をなんとなく察した奏梛は志弦を見て確認する。


「…志弦、良いか?」


「もちろんです!」


△▼△▼ △▼△▼



 そこは立派な建物で築はもう数百年はくだらない風情を感じる建物だった。案内されると中にはこの家の主人らしき女性が帳簿を見つめている。


「──おや、お客さんかい?いらっしゃい!」


「お母さん!ただいま」


 少女に案内され奏梛と志弦はカウンターへ向かう。そこには以前は沢山の人々が此処で体を休めていたのだろう。台帳には多くの人々の名前が書き記されているのが見える。奏梛の視線に気づいたこの宿の主人は、奏梛の疑問に答えるように笑顔で答えてくれた。


「──この辺の宿は今、騎兵団の連中が占拠してるからね…うちくらいだよ、空いてるのは」


「女将さん、なぜ此処の宿はガラガラなんだ?来る途中、どの宿より此処は立派だった。俺ならこの宿以外選択肢にあがらないよ」


 女将は嬉しそうに、だが少し複雑な表情で「ありがとう、ゲンディアはいま色々過渡期でさあ…まずは湯でも入ってあったまんな」と手際よく部屋を手配し、奏梛に鍵を渡してくれた。そのまま旅の荷物を抱え、上に上がろうとすると、すかさず志弦が気を利かせて前に出る。


「──奏梛、荷物は私が先にお部屋へ持っていくね」


「いや…志弦。先にあたたかい湯を浴びておいで。俺は女将さんに少し聞きたいことがある」


「…では先に湯をいただきますね」


「そうだ──部屋は別々で良いのかい?」


「一つで!!」


「志弦、別々で──」

「一つ!!」


女将は笑いながら頷いた。



△▼△▼ △▼△▼



 志弦は女将の娘、ユリに背中を流してもらっている。二人しかいないその浴場はしっかりと清掃が行き届いており、この宿の格の高さを感じるものだった。志弦が辺りを見回していると、それに気付いたユリが教えてくれた。


「以前はここも、とっても人の往来が多かったんですよ?今では見る影もなくなっちゃいましたけど…。一度は此処を離れようかという話しもあったんですが、結局移動もできずに留まってて…」


「そうなんだ…私は此処気に入ったし、ユリちゃんも可愛いからたくさん宣伝するね!」


「ありがとうございます!そういえば奏梛さんと志弦さんってどういう関係なんですか?」


「えっ!?わ、わたしと奏梛は…その、なんというか離れてはいけないっていうか、一緒に居なくちゃいけなくて──」


「奏梛さん、カッコいいですよねー。私もああいう人と結婚したいなぁ…」


 志弦があたふたと動揺しながら顔を赤らめている。そんな志弦の様子を見て笑いながら、大事な人だと言うことは察したようだ。


「奏梛さんと志弦さんはもう一緒にいて長いんですか?」


「うっ………合わせて、半年と一日…?」


「え?じゃあ旦那様とかじゃないんですか??」

「だ、だ、旦那様……」


「だって志弦さんがしてる指輪、奏梛さんの眼の色と同じ石がついてるし」

「あ、えーと、これはその、預かってて、そのままっていうかうーん、いやでもそういう事になるのか?んー」


「まあ、仲は良いって事だね」


「…….うん」



△▼△▼ △▼△▼



 湯から上がると、奏梛が女将さんと台所で調理をしているのを見て、ユリが驚いてすぐに駆けつける。


「お母さん!お客様に手伝ってもらって──」

「──ユリちゃん、良いんだ。俺が手持ち無沙汰でな、女将さんに話を付き合ってもらう代わりに、料理を手伝ってるだけだ」


「──奏梛君は良い旦那になるねえ、志弦ちゃんも幸せだね」

「お、女将さん、奏梛とはまだ…」


志弦は嬉しさと恥ずかしさで口元がだらしなく緩んでいる。


「よし、出来たぞ、皆で食べよう?」


 食事の席では、奏梛と志弦の出会いの質問責めで志弦が終始顔を赤らめていた。肝心なこの国の状況はあまり聞けなかったが、奏梛が代わりにもう聞いているのかなと思い食事を楽しんだ。



△▼△▼ △▼△▼



 夜も更けて部屋に戻ると、奏梛は服を脱ぎ志弦に背中を見せている。志弦が優しく奏梛の背中に手を触れる。自身の封印と解除の力で、奏梛の病を中和している。それは各地の龍脈を自身に取り込んで、自身の力で濾過をして──この国の大地に還している弊害。


 ー龍脈中毒ー


 放っておくと体内の式と脈が自身の本来有るべき形と相違する事で激しい激痛と、進化を促してしまう。特に厄介なのが【進化】だった。人である事をやめ、放っておくと獣の様に成り果ててしまう。

 式とは、体内の脈という力の根源を自身が定めたルールによって放出する方法だ。脈とはこの世界に存在するエネルギーの根源。誰しもが持つ、魔法の様な力だ。式という入り口が大きければその分脈の力を大きく吐き出せるが、出力が高すぎると、体に負担も大きいとされている。奏梛の場合、そこに大地から吸い上げた龍脈を体内に保管して濾過を行なっているため、吐き出されずに体内に溜まるばかりの竜脈の膿ともいえるものが、奏梛を蝕んでいる。志弦は、この龍脈の膿を解除の式を使い中和し、整えている。


「奏梛…終わったよ」

「ありがとう、だいぶ楽になった」


「…ううん、嘘言わないで…。これだけ進行してるんだもん、しばらくは絶対安静だよ…」


「今日はもう遅い、休もう」


 そういうと奏梛は直ぐに横になり目を瞑る。志弦は奏梛と背中合わせで横になり、彼の背中越しに呼吸を感じながらまとまらない考えが頭を巡っている。奏梛の体は本当にひどい状態だった。半年間式と脈の操り方など実際に見て覚える必要があるものは全て玖我音が実践してくれた。できるだけ負担をかけずに訓練をしてきた。だけど──そもそもこの十年、奏梛は何処で何をして、何処へ向かっていたんだろう?

 私達は決して出会ってはならないという条件の元に、奏梛は巨大な式を構築し、私に施したと玖我音から聞いていた。だけどその式は、解除されて──条件をつけて行った式を、反故にした場合は式を行なったものに代償がある事も勉強した。その代償の大きさ故に条件付きの式などを行う者は今も昔も殆ど存在しなかったと玖我音が言っていたが──


「志弦、起きてるか?」

「はい…」


「寝られないなら、俺は椅子で寝──」


 志弦が奏梛に振り返り、腰から手を回す。その手は優しく奏梛を固定しながら小さく震えている。


「──やです。……このまま……前みたいに…一緒に寝ましょう。──こうやってギュッてしてれば奏梛気を使って、わたしが寝静まった後、椅子に行かないでしょ」


「…寝たらわからないだろ……」

「そうだけどっ…」


「──お願いします…このまま寝てください」

「…わかった」


 その日、志弦は夢を見た。初めて奏梛が志弦にかけた式の事を思い出しながら──。


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