第三小節 「再会」Ⅰ
禁書庫を抜け、長い階段を小走りで降りながら、呼吸が少しづつ浅くなっていく。階下の旋律に近づく程に、こう、胸の奥から何かが綻びていく様だった。
あの時の感覚は今でも覚えている。薄暗い奥底にしまった様に、押さえ込んである様な感情が──それはまるで、初めて飛ぶ事を許された鳥の様に。わたしの心の奥底で魂が跳ね上がって波打った。
「…こっち…から、聞こえる…」
いつもは自室にいるか、禁書庫にいるかのどちらかであるのに──。多くの人が集まる場所には滅多に顔を出さない。自身の特殊な体質のせいもあってか、人前に出ることが辛くなってしまっていた。だが、今は違う。いや、正確には構っていられない。呼ばれている、と思った。
足早に音色に誘われるまま、歩みを進めた。本来であれば、城の廊下をこんなにも必死に歩き回る等、全くと言っていいほどない。案の定、私を見かけた兵や女官達は、驚き、本当に彼女なのか、と目を擦り事実を受け入れるのに時間がかかっていたと思う。だが、そんな周りの様子など今は意識の外。この旋律が、私を呼んでいる──。胸の辺りにもどかしい言い表せない何か──鎖が、後何手かで解ける様な焦りを感じた。
ようやく辿り着くと、音色の発生源のその先へ──ゆっくりと伏し目がちに、誘われる様に導かれた、桜色の髪の少女は、そこで一人のピアノ奏者に意識を奪われた。
「────」
「……きれい…」
心の奥底で抑え込まれていた何かが一斉に跳ねて、目の前の映像を色づけていく。真っ直ぐに顔を上げて、人混みの中に更に深く飛び込んだ。聴衆と一緒になると、音色の発生源に──釘付けられた。今まで感じたことのない感情が大きなうねりと共に、「私」を行き着く事の無かった岸へ座礁させた。
でも──この演奏は何処か寂しくて物悲しい。美しくはあるが、何処か憂いがあり胸が締め付けられる。何より、わたしは、この旋律を聞いた事がある。
「────」
演奏が終わり歓声と拍手が響くと、慣れない感覚に襲われながらも何処か居心地の良い、夢の様な感覚としばし共存した。湧き上がる歓声にゆっくりと意識を引っ張られながら──魔法が解けた様に、途端に現実に引き戻される。
湧き上がる場の雰囲気と、旋律が途切れた事で意識が周りの聴衆へと向いていく。歓声とその場を包む熱気で酔ってしまう程だが、先ほどの旋律の名残り、なのか──私をいくばくかの余韻に浸らせてくれる事を許してくれた。
周りの観衆に応えながら奏者が席を立つと、私は慌てて顔を隠す様に俯き、近くの柱の方へ──人混みをかき分けて姿を隠した。
だが、その時──奏者である銀髪の男性と、瞳の奥の──そう、芯と芯が一つになる様にお互いを捉えた。
吸い込まれる様な瞳。銀髪の美丈夫は一瞬驚いた表情を見せた。日常的に他人と目を合わせることがない。それだけ、その時の感情が強烈に根付くから。必要な情報以外は記憶したくない──だから、避けられない出会いなどは相手の予備動作を監視して、出来るだけ記憶に残らない様に立ち振る舞う癖がついていた、筈──なのに。
今交差している瞳の色が、忘れられない。深い海の様な翠緑の瞳と、銀色の髪に切れ長のまつ毛。それに何処かで、出会ったことのある様な既視感を覚え、理解出来ない感情の起伏や、身体が震えている反応に耐えられず、逃げる様にその場を後に駆け出してしまった。
「…!なに…これ…!はぁ…はぁ…収まれ…!収まってよ…!!」
胸元を強く、掴むことのできない何かを指先で探す様に、わからないままに強く掌の形のままに無造作に押さえつけながら──全力で走った。
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フィラッチェ出港からおよそ二週間後。
銀髪の青年は、十年ぶりにルクセリア卿国に足を踏み入れる。もうこの国に足を踏み入れる事は無いだろうと考えていた。「彼女」の安全と今後を考えると関わるべきではないと考えていたからに他ならない。
ルクセリアに到着すると、ちょうど霧が晴れてきて陽射しが港を照らし出す。この世界で陽の光が差す国はそう多く無い。【双眼の眼】というこの世界を二分する門の影響もある。天災と呼ばれる災害が多い中、この国は【双眼の眼】の風の影響が非常に小さい、数少ない国の一つだ。それが「彼女」を預けた理由の一つでもある。
船から降りると、船員たちは霧が晴れた事でフィラッチェに戻るのが来月になる為、積荷を手際よく降ろし、滞在のための手順を手慣れた様子で進めていく。
「オイ!アンタ!──ええと、ソウナ?か」
船長の男が名簿を見て、上目遣いで何処か品定めする様にこちらに怪訝そうに近づいてくる。ルクセリアが如何に出来た国であっても、見慣れない者には警戒はするだろう。ましてやそれが顔の半分を仮面で覆う様な者であれば尚更だ。
「……ルクセリアは初めてじゃねえのか?この国には入国証が必要だ、このまままっすぐ進めば──」
「ああ………初めてじゃない」
「...へえ、フィラッチェからルクセリアに来て初めてじゃないって事はアンタ貴族出身──」
「──ただの旅人だよ」
ソウナと呼ばれた男は、首元に入国証となるペンダントを船長に見せると、振り向かずにその場を直ぐに後にした。
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ルクセリア卿国とはダグザという西と東を【双眼の眼】の門で大きく分つこの世界の中心に浮かぶ海上国家。先代のルクセリア国王が十年前に亡くなってからはルクセリア•トレス女王がこの国を建て直した、ともっぱらの評判だ。
ただ、海上に巨大に浮かぶ移動都市でもある為、年々自然災害の脅威にもさらされている。だがそんな過酷な環境に負けじと国民はとても活気があり逞しい。これはこの国が希少な「音楽」を生活の一部としている者が他国と比べて多い事も大きい。
港から出るとすぐに商店街が立ち並び、二日後に迫るパレードの準備で賑わう街並みにどこか安堵感を覚えた。街ゆく人々の笑顔にあてられて口元が緩む。この世界にもまだ、こんな光景がある──久しく見なかったその景色に心が引き寄せられていく。
商店街を抜けていくと、少し落ち着いた雰囲気の専門店が立ち並ぶ区画に入った。迷わずに真っ直ぐに歩みを進め──向かう先はこの国随一の【調律師】の構える「桜と月」がトレードマークの建物だ。
「……」
「いらっしゃい。試奏する時と、音呼びの時は声をかけて……」
全身を鍛え抜いているであろう、その厳つい体を大きく乗り出し、男は店内にやってきた俺に大きく目を見開いた。そう、此処にいてはいけない、いるはずのない男を驚きと懐かしさの混じった目で歓迎してくれた。
「──ソウナ...?」
男の目が銀髪の美丈夫を捉えると、瞳が大きく揺れた。
俺たちの邂逅は叶うことのない夢として──引き出しの奥底に大事にしまい込んだのだから。事前の心構えなどあるはずもない。彼はカウンターから身を乗り出すと──そう、大事な友人に──だが、年月は見えない障壁として二人の間に居座っている。自身の気持ちの整理がつかぬまま、淡々と俺は口を開いた。
「あの時のままだな───ゴズ。変わらずだな?」
「ソウナ!!...てめえには言われたくねえなっ...!一体何年振りの…んな事より、何時戻ったんだ!?」
苦し紛れの返しだったと思う。十年ぶりの再会に、もっと気を利かせた言葉は出てこないのか、とゴズは自身を恨んだ。だがそれは俺も同様なのだ。
「──ちょうど、今し方着いたところだ。フィラッチェから船で来たよ。ここは変わらずでいいな…街行く人達の表情も明るい」
ゴズと呼ばれたその厳つい青年は、出会いの嬉しさ、驚きから平静を装い取り繕おうとしているが、それと同時に言葉を慎重に選んでいるようだった。無理もない。
「──お前さんが出て行ってからもう…十年くらい経つか。ルクセリアにいる時だけは、羽を伸ばしても良いんだぜ。此処にはヤツらも干渉はして来ない」
「──変わらずで安心してる」
俺は店内の無数の楽器を見渡した。この国に音楽が根付いている事が素直に嬉しい。自然と笑顔が溢れた。帰ってきた場所が、思っていた通りに──元通りとなり、前へ進んでいるのだから。
「──ソウナ…少し変わったな」
「そうか…?一人で旅を続けてきたしな…。正直、この国の今の熱気にあてられて、浮ついている自覚はあるよ」
「良いタイミングで帰ってきたぞ。知ってるか?明日はルクセリア・トレス就任から十年目の節目だ。まあ、お前の事だ…当然折り込み済みか」
「…そうでもない。本来この国に脚を踏み入れるつもりはなかったんだが──」
「へぇ…」
ゴズは顎に手をやりながら、まじまじと此方を改めて定める様に、確かめる様に確認し、目を細めた。その視線の移動は決して不快なものでは無い。品定めとは違う、かつての友人の無事を安堵し、少しの驚きと共に家族を想う。そんな眼だ。正直な所、少し照れ臭ささえ感じる。
「まぁいい──ソウナ。お前泊まるとこはあるのか?もうこの時期は何処も埋まってるぞ」
「…それなんだがな。以前来た時に、一つだけ場所を確保しておいた。まだ残っているといいんだが──この区画の先だったか?」
「以前って…十年前だぞ」
「いや、大丈夫だ。まだある事は脈で確認してる。結界も敷いているし人目には付かないしな。言うなれば秘密の隠れ家ってヤツさ」
「ははっ…!相変わらずぶっ飛んでるな。十年維持する式とか流石だよ」
「それより──せっかく来たんだ、何か弾いて行ってもいいか?」
「ああ、もちろんだ。残してあるぞ。お前の」
俺は粒子状の脈を全身に纏わせると、蒼い粒子がうっすらと身体を包み込む。同時に、一台のピアノが奥の方から旋律を奏でて呼応する──。久しく眼にするその力の顕現はゴズにとっても嬉しさ半分、悲しい過去を思い出すきっかけが半分、というところだろうが、こればかりは致し方ない。
「…処分せずに置いておいてくれたんだな」
俺は身体から発現した脈がたどる軌跡を追いながら、ゆっくりと楽器へ近づいた。ピアノカバーを外し、優しく撫でると杢目の香りがする。椅子に腰を下ろすと、どうしてか、とても懐かしい記憶が脳裏をかすめた。暫く微動だにせず、只々黙って鍵盤を見つめていると──「──弾かねえのか?」とゴズがこちらを覗き込んだ。
「あぁ…そうだな」
指をそっと運び出すと、それは本当に美しい曲だった。少しもの悲しいが、情緒があり、温かい唯一無二の旋律。旋律の数は多くないが何度も同じ旋律を伴奏を変えながらゆったりと気の向くままに──。
だが、演奏を始めたその指先を見てゴズは絶句した。焼けただれた様に、大きく痣が指先に広がっている。この十年が過酷である事を言葉よりも指先が先に伝えてしまった。
「ッ……」
ゴズの反応に気付き、「しまった」と思った。旋律に気を取られて何時もなら隠すはずの身体の一部を見せてしまったのだから。
奏でていた旋律は突如行き場を無くし歩みを止める。散らばってしまったその音階は空間に余韻を残しながらも、ゆっくりと薄まって儚く消えてしまう。
「──あぁ、目立つよなこれ。すまない、やっぱり少し浮かれてる」
出来るだけ「大した事はないんだ」と、笑って見せた。だが、ゴズは顔に手を当てて表情の変化を必死に抑え込む様に平成を装うが──隠すことなど出来ないのを知っているし、隠してもいつかは知る事だった。だが、それでも久しぶりの再会に涙を見せたくはない、そう思ってくれた気遣いに心の奥で何かが優しく跳ねた。
同時に俺たちの間の僅かな沈黙を破る様に階上から明るい声が響く。「ゴズ──?今日の夕飯は──」二階から降りてきた細身の女性が此方を見ると、驚きの表情のまま時が止まった様に階上で動きを止めた。手にしていた調律器具が、力の抜けた指先から、ゴトン、と静かに音を響かせた。
「──ソウナ……?」
「ソワレ…さん?見違えたな。挨拶が遅くなって──」
上手く言い表せないこの感情は、この場の誰もが同じだったと思う。もしまた会えたのなら──どういう表情で迎えたらいいのかわからなかった。それは、お互い様だったのかとも──今では思う。
だが、それよりも先に彼が言い切るよりも早く、階段から駆け降りると、彼に駆け寄り胸の前に飛び込もうと──彼の目の前まで近づいて、浅くなっている呼吸と感情が一斉に溢れてきて──だが、彼の胸には飛び込めなかった。
その様子を見て、そっと私の肩に手を添えると、優しく──こちらに微笑んだ。私はどうしてかわからない感情はそのままに、溢れてくる涙を必死に堪えようとしながら──。ゆっくりと静かに涙をこぼしていた。
△▼△ ▼△▼
俺は十年ぶりに見る、記憶の中の少女の成長に心が少し絆されるのを感じた。あの時の少女がもう、しっかりとした大人の女性として──。落ち着きを取り戻しつつあるソワレは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「元気そうで…本当に…!ソウナは、あの時のまま…」
「────」
俺の見た目は、ある時から全く変化していないのだ。驚いて当然の事だ。だが、改めて時間を越えて友人に会うと、こうも寂しさを感じてしまうのはどうしてだろう。そう、それは変わらない代償として背負う「不老」という、呪い。俺は失った友人達がほとんだった。長い年月をかけて再会出来たのはゴズとソワレが初めてになる。
「本当に変わらずで…ふふっ、うちの筋肉バカにも...半分分けてよ」
「──ソワレ!俺の身体は趣味でやってんだ!」
「はいはい」と相手にされずにゴズは顰めっ面をさらに皺深く鼻筋から刻んでいる。この二人は以前、短い期間だがルクセリアに滞在していた時に、知り合った数少ない友人達でもある。それと同時に、ある事態にも巻き込んでしまった二人──。
「よし...!落ち着いてきた...ソウナ!今日はウチに泊まって!一人分も二人分も食事なんて変わらないよ。せっかく会えたんだよ、ゴズとも一杯やってくれると助かるな。ゆっくりと羽を伸ばしてよ」
「──まあ、後半は置いておいてだ。ソウナ…今日くらい良いだろう?まだ来たばかりなら時間はあるだろ?」
「ははっ…。久しぶりにソワレさんの手料理が食べられるし、断る理由もないな」
「...」
私は一瞬表情が曇っていたかもしれない。胸が──締め付けられた。敬称で呼ばれたことが、この十年を感じずにはいられない。十年の距離を出会ってすぐに埋められるとは思っていない。手放しに喜べない事情も知っている。それでも、今だけは──と、願わずにはいられなかった。
「…っと、決まりだね!じゃあアタシ食材少し買い足してきたいから、出てくる!」
「──今から行くのか?パレード準備で何処も混み合ってるぞ?」
「うん、せっかくソウナ来たんだよ?ご馳走作りたいじゃない」
「手伝うよ」
「いいの...?!じゃあゴズはお留守番ね!パレードで今から楽器を買う人なんて居ないんだから、閉めちゃったら?」
「何言って──」
「じゃあソウナ!これから夜になったらもっと人が出るから、これからすぐ行こうと思うんだけど…。あ、荷物はそこら辺に置いちゃって」
「あぁ──」
「──さっ行こう!」
私は、泣きはらした目元を袖で拭い、まだ活気のある市場へと目を細めながら店を後にした。
ソワレは少し寂しそうな顔で、聞こえない様に──此処にはいない誰かに向けて小さく何かを呟いた。ゴズはすぐに分かったが、ソウナは気づいていない様だった。彼が背負っていたヴァイオリンのケース。それは、今はここにいない彼女の──。
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ソワレと共に商店街の方まで足早に店を出ると、周囲はパレードに向けての準備なのか、段々と慌ただしくなってきている。まるで、今までの事を急いで忘れようとしているような、人が前に進むと言うのはこう言う事なのだろうかと、俺は自問自答し視線を落とす。
「ソウナ…?」
「あぁ…すまない」
「──ソウナ…少し変わったね」
「…さっきゴズにも同じ事言われたよ。ちょっと浮ついてるかもな」
「──ふふっ。ねえ…今回は出来るだけ家にいて良いんだよ。ゴズだって嫌なんてもちろん言わない。私たちは、何があってもソウナの味方なんだよ。ちゃんと頼ってほしい」
「ああ、本当に二人には助けられてばかりだよ。ただ、こういう感覚が久しくて──」
「あ、あった!ソウナ、今日はラト鳥の蒸し焼きにしよ!!」
「──ソワレの得意料理だな」
ソワレは振り返ると嬉しそうに、はにかんで此方を見つめ、表情を一段と輝かせた。そう、やっと壁が一つ崩れて、あの時の距離感へ近づく様に。
「──やっとさん付けやめた」
「……そうだったか…?なんだか久しぶりに喋るからかな、此処十年で、一番今日が話してる」
「──ふふっ。はい、じゃあそういう事にしておくね。ソウナ、これ持って」
ソウナが荷物を受け取ろうとすると、服の袖から傷だらけの腕が視界に飛び込んだ。その傷とも言えない黒ずんだ痣の様な紋様──。私は絶句し、反応が出来なかった。湧き上がってくる言葉を慎重に、ゆっくりと選んで吐き出す必要がある。それに傷というのも生温いこの──。これ程にひどい症状を見るのは、そう──十年前の記憶が脳内を過ぎったのは言うまでもない。そんな数年で治るのであれば、そもそも彼はここに居ない。
「……ねえ…そんなに…悪いの」
「…食欲失せるよな。見えない様に隠して──」
「違うっ……!!」
私はソウナが隠そうとして袖口を引っ張ろうとするのを止め、腕を真っ直ぐに見据えた。自分の瞳が揺れているのが分かる。泣いてはダメだ。伝えたい事や聞きたい事が沢山ある。それを笑顔で笑って聞いてあげたい。辛い過去を涙で色付けたくない──だけど、今は素直に再会を喜んで彼の荷物を少しだけでも預かってあげたい──。
「それはっ!…ソウナがこの十年、一人で抱えてきたもの。否定はしない……よしっ!ごめん!取り乱しちゃった。今日は美味しいものたくさん作るから!旅の話聞かせてよ?」
私は、荷物を取り返すと胸の前で抱え直して、駆け出した。この十年何があったとしても私は──。
食材を手早く購入すると真っ直ぐに、ゴズの待つ自宅へと向かった。道中の歩き方や所作から、この十年──彼の容体はあまり良くなっていない事に、私は呼吸が苦しくなるのに何度も耐えながら、他愛も無い話をして──必死に誤魔化した。