第二十一小節 da capo「目覚め」Ⅱ
ソウナが目覚めてから十日程が経っていた。ゴズと交代で朝昼晩と、ゲンティアさんの力を借りて治療式を行い続けている。ゲンティアさんが言うには、私自身も体力をつけないといけないらしい。私は朝昼晩といつもの倍以上は食事を摂り、ソウナの治療に差し支えない様に自身の体調にも万全に気を遣った。
それでも一日が終わる頃には、目の下にクマが出来るほど痩けていたらしく、ゴズは動けなくなるほど憔悴した私を担いで自室に連れ帰ってくれた。部屋に戻ったあとはゴズが私の体を「調律」し、漸く一日が終わる。
コレではどちらが看病しているのか、と自嘲気味におかしくなる。だが、そんな小さな笑いでさえ、ソウナの症状を一時的な緩和しか出来ずにいる現状が、私に無力感を突きつけていた。
それと胡桃さんのお腹にいたとされる、「志弦」と名付けられた何一つ自分ではままならない赤子。胡桃さんが子を宿していた状態でこの世を去ったのもそうだが、彼女の遺体は──
何処にも残っていなかったそうだ。
胡桃さんが息を引き取った場所に、彼女の代わりに突如現れ城の医者たちが女王の指示の元保護したと聞いている。何か、抜け落ちている様な──。私はずっと何かを見落としている様な感覚から抜け出せずにいた。整理しきれない情報が頭の端から端まで往来しては霞んでいく。そうやって意識を落として、次の朝が淡々と続いていた。
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目を覚ますと、いつもの様に強烈な倦怠感が体をまず出迎えた。ゲンティアさんが言うには、体を借り受けている身だからと、かなり私に気を使って力を行使してくれている様で、ここ数日は夢の中で彼の症状や治療の具合、そして少しだけ昔話なども夢の中でしてくれる様になった。
ゲンティアさんが、ソウナを主人と認めてからかなりの時間が経っている様で、過去を思い返しながら夢の中で語りかけてくれるゲンティアさんは、本当に優しそうな顔をしていた。おそらく誰にも見せた事のないものなのだ、と感じた。普段の彼女からは想像がつかない──決してソウナの前では見せない顔だった。皆、ソウナの回復を心から願い、案じ、心配していた。
強烈な倦怠感の後にいつも必ずゲンティアさんが、意識下で呼びかけてくれる──はずなのだが。今日は彼女からの反応が感じられない。私は瞼を擦って隣の部屋のゴズをすぐ呼びにいく。
「ねえ、ゴズ!起きてる?ゴズってば」
ノックをしても反応が無いので、勝手に鍵を開けてドアを開けると、そこにはベッドの上で羽毛に包まりながら寝息を立てているゴズがいる。
「ゴズ起きて…!ゲンティアさんが呼びかけても反応が無いの!ソウナに何かあったんじゃ…!」
「ん…んー…」
「ねぇ、ゴズってば…!」
「…ソワレ…?…っておい!!」
ゴズはソワレが自分の体を揺すっている事に気づくが、ソワレの姿を見て顔を赤らめる。
「ソワレ…!!せめて何か一枚羽織ってくれ!!」
ソワレは起きたままの格好でゴズを起こしに来てしまい、一瞬頬が紅くなるもすぐに意識を切り替える。
「ご、ごめん…!それよりもう起きて!なんだか気になるし、早く行こう…!」
「すぐに準備するから、お前も、き、着替えてこい」
「うん!」
ソワレはそう言うとバタバタと隣の自室に掛けて行き、ゴズの部屋を後にした。
「ったく…もっと見た目に気をつけてくれ…はあ」
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私たちは急いで朝の支度を済ませ、ソウナたちのいる病室へ向かう。普段毎日の様に呼びかけてくれたゲンティアの呼びかけがない。それはつまり奏梛の身に何かが起きたと言う事。私は服を上から被さりながら、彼らの顔を思い出す。
「優しい顔と…悲しい顔──」
浮かんだ二人の表情は対照的だった。




