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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第一楽章
21/86

全休符 「弎」

「──奏梛」


「──起きてッ」


「──────」


「ん…此処は…?」


「──ふふっ。奏梛、寝ぼけてるね。今日はもう一気に上へ出るからねっ!もう直ぐ、地上だと思うんだよなあ…」


 俺たちは以前の拠点から地下を通じて穴を掘り進めて、地上を目指していた。崩落によって閉じ込められてしまい、生きていく資源は湧き出る水が少量のみ。明かりもなく、本来であれば、そのまま生きる事を諦めて屍になるのを待つだけの筈だった。だが胡桃は、一階に描いた空間中に敷き詰めた絵をまた見たいと言って聞かなかった。

 崩落した所からなんとか建物の一階に戻ろうとしていると、さらに崩落が進んでしまい、さらに下層へと落下してしまった。今俺たちは地下の砂を掘りわけながら地上を目指して進み続けている。

 不思議な事に、俺たちが放り込まれたこの空洞はとても砂漠地帯とは思えない巨大なトンネルと化しており、俺たちは地上を目指すため昼夜歩き続けている。

 騒がしい奴だと思った。行き当たりばったりというか、小さな一つ一つの出来事に全力で驚き、楽しみ、泣いていた。少し──羨ましかった。


「──ねえ、これ…食べれるかな?」


 興味津々といった様子で砂中に住まう生物を見つけては、此方に持ってきて目を輝かせる。


「食えない事はない…だが食ったが最後、もう二度と何も食べられなくなる──」


「…?じゃあ食べれるって事?」


 胡桃は首を傾げながら、その小さな生物を口の中へ運ぼうとし──。


「バカッ!…ちゃんと聞けッ!それは龍脈虫だ、食えば体内の脈が龍脈と繋がって中毒症状を悪化させるんだ!普通の人間には食えたモンじゃない──」


「ふぇっ?」

「おい、口ん中見せてみろ…」


 もぐもぐと口を動かしながら、とぼけた表情で此方を見ている。


「んーー!んーーー!!!」


「──聞いてなかったのかッ!これは食えねえって言ったんだ…!」


 胡桃の口を強引に掴み、口の中でほうばっていたそれを、奏梛は無理矢理掴み出し、後方へ投げつける。振り返ると、彼女は不服そうに顔を膨らませ此方を見ている。


「…お腹空いた…」


「ったく、どう考えたら龍脈虫を食おうって判断になるんだ…」


「だって、私達どうせすぐ死んじゃうんだよ?それだったら少しでもお腹が膨れてた方が幸せだし──それに、私…もう味とかよく判らなくなってきてて…」


「────」


 伸ばしっぱなしの毛先を指でくるくると巻き上げながら、何処か彼女は他人事のように呟いた。


「──味を感じないのはいつからだ」


「んーと、奏梛と会うちょっと前だから…」


 胡桃は暗がりで、薄紫の脈を指先に纏わせて、指を折り数えている。


「もう五日目?位かなあ…?」


「……」


「ちょっと背中…見せてみろ」


「ふふっ…奏梛、私の背中見たいの…?」


「…早くしろッ!」


「もう、そんな大きな声出さなくたっていいのに──」


 胡桃は恥ずかしげもなく、無造作にフードが付いたコートをその場で捲り上げ上半身が露わになる。


「────」


「…奏梛?…やっぱりちょこっとだけ恥ずかしいかも…」


「──────────」


「そ、そんなに見つめなくても…」


「胡桃、お前──」


「───!やっと胡桃って言ってくれた!もう一回!ね!」


 彼女は目を輝かせて肌けた身体を気にせずに奏梛に擦り寄る。まるで小さな動物の様だった。


「…受戒者の紋様が、変化している──」


「そういえば…なんか奏梛と会ってから背中がもぞもぞしてた感覚続いていたかも」


「───どういう事だ?」


「ほら、受戒者って侵食が広がると浮滲結晶が出て来るじゃない?私、その一歩手前まできてた筈なんだけど──奏梛と会ってから……どうしてか判らないんだけど、良くなって来てると思う」


「全然説明になってない……。受戒して症状が治るなんて聞いた事ねえッ。大体──そんな事が可能なら、この世界の根幹が揺らいじまう──」


「…それって──そんなに大事な事?私、死ぬ間際に奏梛に会えたから…別に他の事はもう良いかなって」


「だってほら、()()()()()()()みたいだしッ!」


「とりあえず、吐き気や震えの症状とかは無いんだな?味が判らないだけか?」


「んー、そうだね…。後は──ちょっと目が霞むかなってくらい?」


 胡桃の顔を近づけて、奏梛は眼の奥の更に奥を食い入る様に見つめる。


「奏梛の眼の色──綺麗だよね。睫毛も長いんだ」


「……」


「私の眼の色も、忘れないでね。奏梛の脈と同じなんだし」


「体内の龍速は変わっていないな──」


「──ねえ、奏梛ってお医者さんだったりしたの?詳しいよね、そういうの」


 いつからか自然に記憶に刻まれていた──なんてうまく伝えられるはずもなかった。俺は黙って胡桃の言葉に耳を傾けている。


「もう少しで、地上に出られたらさ──もし生き延びられたら、二人でこの世界の受戒者を治して見て回るってのはどうかな?」


「ハッ…てめえの事でさえ、ままならねえのに何言ってやがる」


「だからこそだよ?私たちが生き延びるって事は、この世界からはみ出して、理から外れられたって事でしょ?それは、つまり世界中の一人ぼっちの味方になれるって事じゃない?」


「それに、私決めたんだ」


「──?」



▼△ ▼△ ▼△ ▼△ ▼△



「ーー約束ね?良いでしょ?」


「ーーまあ…悪かねえよ」


「やったッ!」


「よし、特に今の所は大丈夫そうだが──次からは何か異変があれば直ぐに言うんだ。分かったな?」


「えへへっ…」


「分かったのか──?」


「うん!」


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