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詩龍のCapotasto   作者: Ask
第一楽章
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第十七小節 da capo「白と黒と」

 扉を開けた先には形容し難い程に傷ついた男と、その隣に黒髪の女性が横になり眠っている。呼吸に合わせて、胸の辺りが小さく上下しているのが辛うじて分かる。身体中何処を見渡しても傷ばかりで──だが、生きてはいるのだ。私は頭の何処かで理解してしまっている。彼はおそらく容易には死ねないのだ、と──。


「さあ、入ってください」


 女王がそういうと、目の前の二人の状態に立ち尽くしていた私達はゆっくりと室内へ招かれる。二人を招き入れた後、誰も立ち入れない様に鍵を掛ける。施錠の音が不気味に響くと、私とゴズは無造作に置かれた二つの寝台横の椅子に腰掛けて、傷だらけの彼等の様子を隅々まで確認した。壁に立て付けられた篝火に照らされて、横たわる二人の身体が薄暗い室内の影と光の隙間を縫い、私達に訴えている。戦争の悲惨さ、大事な者を守るために代償としたものを──絶対に目を逸らしてはいけないと思った。女王が私たちを此処に招いた真意は判らないが、何か私に少しでも手伝えることがないか思案した。だが、横たわる二人の症状からはとても──諦めてしまいそうになる感情を、見て見ぬふりをしながら、だが視線だけは逸らさずに。


「──酷い…」


 ゴズがポツリと呟いた。女王は目を細め、ゴズを見やる。次に彼女の口から溢れた言葉は、私たちの予想を裏切るものだった。理解出来なかった。奏梛も玖我音も胡桃も──ソラリスに国を滅ばされたのに。女王の口から続けられた言葉に。



「──この二人が憎くはありませんか?」と。



「…どうして──そんな事を訊くのですか…」


 怒りとやるせなさで声が震えた。何故そんな事を此処で口にするのか。大事な者を護るために此処までの傷を負っているのに。この国を、あの国から護った人でもあるのに。


「...私は、正直に言って憎さ半分──憐れみ半分、と言ったところでしょうか…」


「なッ…」


ルクセリア・トレスが言葉を続ける。


「彼らが、私達を頼らなければ、夫は死なずに済んだかもしれない。城下の被害も併せて──私は心の何処かで頼ってほしくなかったと感じている──」


「──薄情な物言いをすれば、彼等が持ち込んだ問題に巻き込まれた…と言っても良いくらいです。これが正直な今の心境でしょうか」


「一応...誤解しないで欲しいのですが、()()は以前から彼等とは友人関係でした。ですが──焼かれた夫の遺体を埋葬し、破壊された城下を見ると…どうしても込み上げて来るものがあります。此処では一人の女として、彼等の友人として言葉を連ねています。だからこそ──行き場のないこの気持ちを吐露しておく必要があります。貴方達はどうなのですか?」


「──おれは...」

「……」


 ゴズの父親は、ソラリスからの攻撃によって命を落としている。だが、ゴズはこの二人とは面識がない。負の感情を抱いても不思議ではない。だがそれでもソワレは言わずにはいられない。


「ねえ、ゴズッ...!聞いてッ、この二人はルクセリアに被害が及ばないように尽力して──」


 言いかけて、遮る様に。容易に想像できたのだろう。ゴズはとても冷静だった。


「...見くびるんじゃねえよ」


「────」


「悪いのはソラリス(彼奴ら)だろ。わかってる.........そんな事くらい...分かってるッ」


「──それに俺の家は調律師...。月沙の剣聖様とは...俺は直接の面識はなかったが......親父はこの国に楽器の受け入れが始まった時から──剣聖様の事はいつも聞かされていたよ」


「でもよ...人の気持ちってのは、白なら白、黒なら黒って割り切れるものじゃねえ...。表面上はいくら取り繕っても、上手く処理しきれない気持ちがあるだろ...。それを今、女王様が伝えてくれた」


「────」


「……」


「父さん...は決して、このお二人を恨まなかったと思います...」


「────」


「わかりました...」


 女王はそういうと、大きく息を吐いたのちに二人に協力を求めた。内容はある程度は想像出来るものではあった。


「まず、今回の件ですが、知っての通り他言無用です。そして、この二人の治療は貴方達にお任せしたいのです」


「──今回ガラハッド...元国王が殺されたことにも起因するのですが、出来る限りこのことを知る人間を限定しておきたい。正直、今すぐにでも殺したいというのであれば、それも致し方ないと思ってはいました。ですが...ガラハッドからの遺言もあります。二人が回復するまでの間の世話を任せたいのです──」


「──お願いできますか?」


「...わかりました」

「構いません」


「よろしい...ではお二人にはこの部屋の鍵をお渡しします、必要なものは必ず私に直接伝えること。いいですね?」


「はい──」


 こうして私達の、歪で奇妙な関係が始まった。私達を護り、そしてある意味では彼等が原因で行き場を無くしてしまったもの達の共同生活が。


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