第十一小節 da capo「ソワレ・ピルグナー」Ⅱ
クガネと共に式を行使し続けて数刻──周りの医者達も傷口の縫合や脈で賄いきれない傷を治療し続けている。部屋中に傷跡を治療、縫合した医療品が散乱し現場の壮絶さがまざまざと積み上げられていく。過去、後にも先にも、これだけ長時間、緊張状態が続く事が私の人生の中であっただろうか。
「…胡桃様っ!聞こえますかっ!?今はまだ傷の固定に成功しただけです、奏梛様のお力でないとこれ以上の治療式は私には行えません…!今はご自身とお子様の事を最優先に考えて──」
「……ねえ、玖我音…私達は間違ってない、よね…?どうしてこんな…酷い事…!!若様もあんなに酷い傷をっ…!」
「──大丈夫です…奏梛様はこの程度で音をあげる様なお方ではありません。さあ、今はまず目を閉じてお休みに──」
「私がっ!信じたからなのかな…!スズレもグローザも!!皆静かに暮らしてただけなのに…!!」
「────」
グローザ──語感に妙な違和感を感じたが今はそれどころでは無い。クガネは優しく彼女の手を握りながら、瞼に指先を添えて眠りへと誘った。呼吸が一定になった事を確認して彼女は兵達に「…ルクセリア国王は何処に!急ぎお伝えしなければならない事が…!」と伝え「主人」の元へ寄り添い治療式を再開する。
すると、兵達が玖我音に報告を行うも奇妙な返答が返ってくる。私も兵達の報告の一部始終を聞いているが、違和感を感じた。
城内の何処にもルクセリア国王が見当たらないと──。
すると、波止場の方から轟音が突如響いた。城内が揺れるほどの衝撃に、皆壁に寄りかかり転ばぬ様に身体を支えた。
揺れが収まると、横になっていたはずの血だらけの男が体を起こし、男はゆっくりと自分の身体を見回して深く息を吐き出す。するとあろう事か、その身体で起き上がり呼吸を整えようとしている。正直同じ人間だとは到底思えなかった。意識が有るだけでも凄まじいが、自身の身体よりも優先する事があると言わんばかりに──。
「奏梛様!…まだ動いてはいけません!かなりの深傷なのですから…!」
「…国王は、どこだ…?」
「それが──兵達の話では見当たらないと…」
「なに…?兆候、は…?」
「──申し訳ありません。お二人の治療に全力でそこまでの視野が──」
「…わかった…玖我音は此処で胡桃の側を離れるな。今の揺れは恐らく奴らだ…」
「奏梛様!…お言葉ですがこれ以上の応戦は──」
「──玖我音!!」
「はい…」
銀髪の青年は息を荒げながら、玖我音に正確に指示、状況把握を開始していた。男はふと此方を見て、先ほどまでの表情とは打って変わって優しい笑顔で此方に視線を向ける。
「…君は──」
「──ソワレ様です、治療に協力して頂いております…」
「ソワレです、剣聖様…まだ動いては…」
「…俺は剣聖などでは無い。ただの奏梛だ。かしこまらずに呼び捨てで構わない…」
「はい…」
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月沙の剣聖が私に微笑みかけてくれる。身体中に瀕死の重傷を負っている者の笑顔じゃない。どうしてこんな風に笑えるのか──?この時の私には分からなかった。
でも今なら──。
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「時間がない…ルクセリア全体に結界を施す。此処で一番龍脈が集まるところを急いで…探さないといけない。もう巻き込んでしまっているかもしれないが…少しでも予想される被害を減らしたい…。それに…胡桃の治療には時間がかかる」
「──わ、わたし!多分その龍脈?分かる…かもしれ…ない」
「…なぜだ?」
「え…?」
「…どうしてそこまで協力を?」
「────」
「いけませんか…?わ、私が深入りする様な事じゃないって分かってます…でもどうしてなのか…分からないんですけど……」
「──いや、すまなかった。…ソワレ案内してくれ」
「は、はい!」
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今なら、分かるよ。──私は欲しかったんだ。
ソラリス出身者がこの国で生きていく理由が。




