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9 理想と現実


「……PV……100万!?」




 マイページに表示されていた、自作小説のPV数を読み上げ、唖然とする。

 何かのバグか?タチの悪いいたずらか?


「嘘……だろ……?」


 動揺が隠し切れないまま、通知の欄をクリックする。


「ええと……"あなたの小説が日刊ランキング一位を獲得しました"……だと?」


 PV数だけなら何かのバグもあり得る。だが、ランキングの誤表記まで同時に起こることなんてありえるのか?

 ひょっとして、本当の本当に……?


 震える手で、小説のページをクリックする。詳細なPVの履歴がそこに表示されるのだ。


 何故かはわからないが、金曜日の夜から急にPV数が爆増してる。

 この二日間で、とんでもない人数が読んで、そして評価してくれていったってことだ。


「マジかよ……。ていうか、マジなんだ……」


 少しずつだが、実感がわいてきた。

 正直言って、この小説『雪の残り香』はこのサイトで伸びることなんか絶対にないだろうと、諦めていたんだ。


 でも、ほとんどの人に見向きもされないまま、それでもクオリティを落とすことなく毎日書き続けた成果が、実を結んだんだ。

 ひょっとしたら、偶然有名なレビュアーさんの目にとまって、その人が広めてくれたのかもしれない。


 つくづく、金曜日の夜に何があったのか、気になる。

 

 うっすらと浮かぶ涙をぬぐい、俺はどこにいるかもしれない、たった一人のかけがえのないファンに感謝の声を上げた。


「エドさん、ありがとう。エドさんがいてくれたから、俺、今日までやってこれたよ……!」


 そう、言ってしまえば、この作品は俺とエドさんの二人で書き上げたようなものだ。

 きっとエドさんも今頃草葉の陰で泣いているに違いない。


 この俺たちの作品……そう、タイトルは──


 作品ページのトップにある、その名を見上げ……





     ピシッ




 

 その瞬間、俺の視界が粉々に砕け散ったような錯覚に襲われた。

 嘘……だろ……?

 凍り付いたような喉で、日刊ランキングぶっちぎりの1位を取った、その作品の名を読み上げる。




 ──拝啓、青蓮院(しょうれんいん)琴音(ことね)様──




「そっちかーーーーーーーーーーーーい!!!っていうか、なんでアップロードされてんだよおおおおおおおおおおおおお!」

  

 頭を抱えて絶叫する。

 隣の部屋から弟の抗議の声が聞こえるが、今はそんなこと気にしてらんねえ!


 どうしてこうなった!?

 非公開にしたはずなのに……!非公開にしてたのに!


 世界中の人達に、俺の妄想全開の恥ずかしいラブレターを読まれちまってるってことか!?


 こんな、こんなに俺が目立つなんて……あり得ない……


 不意に、世界中の人間が俺に注目しているような幻覚に襲われる。

 頭の中が真っ白になり、その場で俺は卒倒したのだった。





「……とにかく、状況はよく分かった」


 目が覚めて、冷静さをとりもどし、ようやく事態の全貌を把握した。


 事件が起こったのは、やはり金曜日の夜だ。

 あの日、翌日に迫った彼女との予定に完全に浮かれ切っていた。だから、いつも欠かさずにチェックしていた非公開設定を押し忘れていたんだ。


 そして、突如としてサイトに出現した一挙2000話掲載のラブレターの数々は、その物珍しさから一気にランキングサイトを駆け上っていった。

 『謎の超新星連載、爆誕。たった1人の女性に向けて書き連ねられた、狂気すら超える恋文の数々』と言ったタイトルで、ネットニュースが上がっているのを見てしまった。

 

 たった二日間で、こんなとんでもないことになっていようとは……。


 ここまで有名になってしまっては、おそらく明日には学校中の噂になっているだろう。

 何しろ、彼女は名前まで個性的だ。同じような容姿、名前の女性はそうそういるものではない。おそらく彼女本人に知られるのも時間の問題だろう。


 まさか、ラブレターを完成させる前の下書きの方が先に本人に届くなんて、思っても見なかった。


 最大の懸念点は、まさにそこだった。

 読んでくれた人たちは結構面白がってくれているが、当の本人は一体どう受け取るだろうか?正直言って、全く分からない……。


「しかし、本当に首の皮一枚でつながったな」


 ため息をつきながら、アップロードされていたラブレターの最後のページを閉じる。最初から最後まで読みなおすのに、随分時間がかかったが……。

 最後のやつは二日前に書いた、全身がむず痒くなるほどの恥ずかしい文章だが、何とか我慢して読み切れた。そして、確信する。


「この文章からでは、誰が書いたのかを推測することは不可能だ」


 俺の無意識下の行動だったのだろう。普通なら手紙の最後に記すであろう差出人が空欄だったのだ。

 文面には、俺個人を特定するような表現が見られなかった。投稿者名もペンネームなので、身バレの可能性は限りなく低い。


 最初は、あまりの恥ずかしさですぐに削除してしまおうと考えもした。

 でも、ここまで拡散した後では無駄だろうし、どんな形であれ俺の書いた作品が夢のランキング入りを果たしたのだから、もったいないとも思った。

 

 万が一、これを書いたのが俺だと知られることがあれば、俺はおそらく二度と外を歩くことはできず、再起不能になるだろう。

 

 しかし、本当に首の皮一枚で生きながらえることができたようだ。

 新作を投稿することはしないだろうが、このままランキングをどう推移していくのか、楽しみに見守ろうと思う。


 でも、やっぱり問題は……。


「青蓮院さん、これを見てどう思ったかな……」




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