傷のこと
「ごめんね、取り乱したね」
なんて姿勢良く座り直して、先程まで泣いていたことを感じさせないような、素敵な笑顔を見せられて、この子がよく分かんなくなってくる。けれど、ずっと俺に偽りの顔を見せたいんだろうってことは分かった。信憑性ないな、どーでもいいけどさ。
「そんなに誰が嫌いなの?」
「それはぁ……来羅を殺した奴だよ」
言うか言わないか迷って、一度目を回してから、そう言ってくれた。おそらく、その犯人は言ってくれないんだろうけれど、今までの文脈から、家族の人なのかな?とは大まかに予想がつく。
「その人は、来羅くんを傷つけたの?」
「そうだよ、だから、死んでんじゃん!」
と見れば分かることをわざわざ聞くな、と言うように、棺桶を指さして、イラつき気味に言われてしまった。
「どうやって?」
「それは……言えない」
今度は目を左右に揺らしてから、うつむき加減で答えられた。一寸前の威勢はどこのやら、彼は黙り込んで拗ねたように考え事を始めた。
「君はその言えないことを俺に言い当てて欲しいんだ」
「は?」
「だって、そうでしょ?俺になら分かってもらえると思ったから、君は声をかけてくれたんだよね?そういう子、何人も見てきたから」
「違うし、暇つぶしだし」
「ふふっ、そっか」
「けど正直、アンタなら救ってくれるかもって思ってた」
「過去形かよ」
「だって、死んじゃったもん」
「君のことじゃないの?救ってくれるかもって」
「来羅のこと、嘘、僕のことかもね」