表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき

音を辿って

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんじゅういち。

 お題:狼・ピアノ・嵐




 バシャバシャ―!!!

 真っ暗な森の中。

 嵐の中を、一匹の狼が走っている。

 その姿は、普通の狼よりひと回りもふた周りも大きく。

 身体を覆う毛は、周囲の闇などものともしないほどに、白く、美しく輝く。


(この音、この音はどこから……!?)


 雨が地面を叩く音。

 風が木々を揺らす。

 森が悲鳴を上げている。

 しかし、彼の頭に響くのは、幽かなピアノの音だけ。


(聴いたことある……でも、どこで……)


 彼自身、なぜ自分がその音を、その正体を探しているのか分からなかった。

 ―しかし、どこか懐かしい気がするのだ。

 嵐の吹き荒ぶ中、突然その音が頭を支配し、気づけば、体は外に飛び出していた。


  :


 どれくらい、そうやって走っていたのか。

 闇雲に、目的地もはっきりしないままに、走っていたのか。

 いつの間にか嵐は止み、山の頂点まで来ていた。


「ハァ、ハァッ……」


 息も絶え絶えに着いた、そこには小さな小屋が建っていた。

 この森の事は知っているつもりだったけれど、こんな建物があることは初めて知った。

 ―ピアノの音は、そこから響いていた。


(あれは―)


 その中から、1人の少女が出てきた。

 細くて、今にも倒れそうで、弱弱しいけれど。

 しっかりとした足取りで、こちらへと向かってくる。

「久しぶりだね。」

 その言葉に、何かが、溢れた。


(そうだ。彼女は、僕が幼い頃怪我をした時に助けてくれた―)


 親とはぐれた上に、怪我をしてしまったあの頃。

 彼女は、傷が塞がり、完全に歩けるようになるまで、ずっとそばにいてくれた。

 離れてしまった親を思い、泣く僕を、抱きしめてくれた。

 その時に、よく、ピアノを弾いて、歌を唄っていた。

 とても柔らかな、優しい音だった。


(どうして、忘れていたんだろう。)


 ゆっくりと、彼女の元へと近づく。

「おかえり。」

 抱き寄せられた。

 あのころとは違って、彼女は僕の頭を抱きしめるので精一杯。


  (ただいま……。)


 彼女には、ただのうめき声にしか聞こえなかったかもしれない。

 それでも、彼女は、より一層強く、抱きしめてくれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ