音を辿って
三題噺もどき―よんじゅういち。
お題:狼・ピアノ・嵐
バシャバシャ―!!!
真っ暗な森の中。
嵐の中を、一匹の狼が走っている。
その姿は、普通の狼よりひと回りもふた周りも大きく。
身体を覆う毛は、周囲の闇などものともしないほどに、白く、美しく輝く。
(この音、この音はどこから……!?)
雨が地面を叩く音。
風が木々を揺らす。
森が悲鳴を上げている。
しかし、彼の頭に響くのは、幽かなピアノの音だけ。
(聴いたことある……でも、どこで……)
彼自身、なぜ自分がその音を、その正体を探しているのか分からなかった。
―しかし、どこか懐かしい気がするのだ。
嵐の吹き荒ぶ中、突然その音が頭を支配し、気づけば、体は外に飛び出していた。
:
どれくらい、そうやって走っていたのか。
闇雲に、目的地もはっきりしないままに、走っていたのか。
いつの間にか嵐は止み、山の頂点まで来ていた。
「ハァ、ハァッ……」
息も絶え絶えに着いた、そこには小さな小屋が建っていた。
この森の事は知っているつもりだったけれど、こんな建物があることは初めて知った。
―ピアノの音は、そこから響いていた。
(あれは―)
その中から、1人の少女が出てきた。
細くて、今にも倒れそうで、弱弱しいけれど。
しっかりとした足取りで、こちらへと向かってくる。
「久しぶりだね。」
その言葉に、何かが、溢れた。
(そうだ。彼女は、僕が幼い頃怪我をした時に助けてくれた―)
親とはぐれた上に、怪我をしてしまったあの頃。
彼女は、傷が塞がり、完全に歩けるようになるまで、ずっとそばにいてくれた。
離れてしまった親を思い、泣く僕を、抱きしめてくれた。
その時に、よく、ピアノを弾いて、歌を唄っていた。
とても柔らかな、優しい音だった。
(どうして、忘れていたんだろう。)
ゆっくりと、彼女の元へと近づく。
「おかえり。」
抱き寄せられた。
あのころとは違って、彼女は僕の頭を抱きしめるので精一杯。
(ただいま……。)
彼女には、ただのうめき声にしか聞こえなかったかもしれない。
それでも、彼女は、より一層強く、抱きしめてくれた。