6-2 始業
「あーあ、頭痛え・・・・・・。」
そんな声で朝を迎える。そして、ハナは言う。
「ちゃんぽんの祟りね。」
・・・・・・。
「ううぅ、気分悪ぃ。」
「わたくし靴が無いのですわ。」
「俺、寒いー。」
「エルドラ、ギャートルズの服だから寒いのよ。」
「ってかギャートルズって何よ!」
ハナはスルーし、続けて言う。
「はーい、みんな、起きて。今日は登園日よー。」
不満の悲鳴が上がる。
「うぇ。」
「キャー。」
「忘れてたっ!」
「やっぱ俺も行くんだよな?」
「エル、みんな行くの、我儘言わないで。」
エルドラは尋ね、テレストは釘を刺す。
「やったやった。ぼくも行くのぉ。」
マチはとても楽しみにしている。
エイトは言う。
「じゃあ、よろず屋壱号店に転移するよ。」
エイトたちは転移し、慌ただしく準備をするのだった。
私立ラルウッド学園の正門へと続く並木道、両端に整然と植えられているジャカランの木だ。
夏から秋、緑の葉はずいぶん濃ゆい。
まだまだ朝でも気温は暖かいが、風は涼しくなっている。
心地よいその風に秋を感じるエイトたちであった。
「おはようございます。エイトさん、間に合いましたわ。」
アビーは濃紺の制服に身を包み、ハイソな雰囲気を醸し出している。
とても昨夜のヘベレケなアビーからは想像が出来ないものであった。
「おはよう、アビー。大丈夫だった?」
「何か言いたげなお父様が近づいて来たので・・・・・・。足早に振り切りましたの。」
そう言ってアビーは笑っていた。
エイトは思っていた。
(親の心子知らず! 婚約してから、外出も増え、外泊もし、父母の言うことを聞かなくなり、態度も高慢になっていくアビー・・・・・・。)
(絶対、俺の影響だと思われて、好感度ダダ下がりだな・・・・・・。)
エイトは項垂れている。
「そう言えばさ、アビーは落成式のときのドレスは作らないの? 」
エイトは尋ねる。
「えと、みなさんご一緒に誂えるのなら、わたくしもご一緒によろしいですの?」
「いいよ、じゃあみんなで一緒に、ザ・ブルー・オイスターへ採寸に行ってね。」
エイトはみんなに聞こえるように言い、ハナは怪訝な様子だった。
木漏れ日の中、一行は歩んでいる。
勉強は嫌いだ!と豪語するエルドラの足取りは重く、楽しみで楽しみで仕方ないマチはスキップだった。
エルドラを連行するテレストは、ほくそ笑んでいる。
昨夜の深酒の影響は少ししかないようだ。
(11歳の回復力って凄いわ!)
ハナはそんなことを思っていた。
そして、教室に入ると、日焼けした懐かしい顔に白い歯が眩しい。
「エイト領主様、おはようございます。」
「おはよう、執政官見習のみなさん。あと学校で僕を呼ぶときは、エイトでお願いします。」
「「「「「「はい。」」」」」」
一番に挨拶してくれたのは、6名の執政官見習であった。
イライザ・キース・ラルウッド(理事長の孫)がエイトを見る目はいつも優しい。
ウェンディ・ベーカーフィンチは、真面目で固いそんな印象である。
エイドリアン・ストールはキツイ、貴族令嬢のイメージどおりの人だった。
カリス・イートンとシェリル・イートンは双子、両方の意味で他人との距離の近い二人。
オリヴィア・リアーノ(リアーノ領主、タカさんの娘)は母に似たのだろうか、氷の微笑というイメージだ。
「あとね始業式が終わったら、準備とか、すこし話したいことがあるので教室に残ってもらえるかな? 」
「「「「「「はい。」」」」」」
***
エイトは、以前に、既に配置されていた執政官見習の任務地に行き、こんなことを話していた。
「貴女たちの将来目指すところというか、目的は? という話をしたいのです。
それは、なるべく爵位の高いとこへ嫁ぐことだったりするよね?」
皆、一様に頷く。
「その理由は? というと、家の役に立つことだったり、両親によく見られたいとか、両親に褒めてもらえる。などかな?」
また皆、一様に頷く。
「わかりました。じゃあそれ以外で将来こんなことがしたい。
例えば自分で店を持ちたいとか、錬金師になりたいとか、他に手に職をとか言う人があれば、直接言ってきてください。」
「「わかりました。」」
「それはメモしておいて。」
「じゃあ高い爵位の人に見初めてもらうには、どうすればいいのか。
それは何より、結果を出すこと。なのです。
結果と言うのは担当した街の人口が増え、お金も潤い、治安がいい。
執政官としての結果は、そう言うことになりますよね?」
またまた皆、一様に頷く。
「それは簡単なのです。
既に着手している、学校や病院、上下水道に道路、それに各エリアの産業を発展させる。
それをやっておけば簡単にクリアできるでしょう。」
またまたまた皆、一様に頷く。
「誰でもここまでやれば出来る。
という答えは、すこし知恵のある人ならすぐ理解できます。
問題はここからです。
それは必ず邪魔が入るということなのです。
それは街のチンピラだったり、ダニのような連中だったり、冒険者などいろいろです。
中には人気も人望もある貴族だったりします。これが一番たちが悪いです。
同じ仕事をする仲間の中にもいたりするのです。
前例がないとか、そんなに仕事増やしてどうするんだとか、言って邪魔をします。
そして解決法ですが、そういう連中は大抵、暴力を振るいます。
強そうな悪そうなやつらが、5、6人いや20人30人、拳で剣で威嚇し襲う。
仕事している人や、工事している人、一般の人を脅したりするのです。
それらはすべて皆さんが、暴力で制裁を加え排除し、被害者を助けるのです。
簡単に言うと、ボコボコにして黙らせる。ということです。
真面目な貴族や面倒くさいやつは、僕が対処します。」
えっどうやってキョロキョロ、という態度をする執政官見習の一同。
「4月1日、学園の始業式の後、特訓をします。
なので1日、2日、3日の放課後は全て、特訓のため開けておいてください。
僕の友人は全員やっています、もちろんアビーもです。
わかりましたか?」
「「はい。」」
*
私立ラルウッド学園の始業式は、久しぶりに見るマレー園長のちょっといい話と、ブレンダン理事長のためになる話で終わる。
教室に戻り、人払いの後、エイトは執政官見習の全員に眷属の話をする。
「実は皆さんが赴任するとき、みなさんの安全を考慮して、僕の眷属にしています。
なにか身辺に変わったこととかありましたか?」
オリヴィアは言う。
「そ、それで! 剣で切った傷がみるみる治りました。」
「それは眷属の自己治癒が上がるというものですね。」
エイトは続けて話す。
「皆さんが任を解かれるまでの期間、眷属のまま居てもらおうと思っています。
なにより安全のためです、よろしいでしょうか?」
「「「「「「はい。」」」」」」
「では人気の指輪を配ります。
指輪を嵌めて念じると、保管庫が使えます。
あとみなさんの位置がわかります。
自己治癒能力が上がる話はしましたね。
魔素回復能力も上がりますので、今から覚えてもらう魔法が多く使えることになります。」
イライザは手を上げている。
「はいイライザさん何でしょう?」
「あの領主様は魔法を教える。と言うことが出来るのでしょうか?
と言うのが一つと、保管が使える、という意味と言うか、なんというか。」
エイトは直径4センチのボールをいくつか、みんなに渡していく。
「保管庫です。
まずは、これを保管庫に出し入れしてください。
指輪は嵌めて行うのですよ。」
エイトは続けて言う。
「魔法は現地に着いたら教えます。
たぶんみんな覚えることが出来ると思うんです。」
「僕の天職は傀儡師なんですよ。」
と言いつつエイトはビショップLを呼び、扉のようなものが現れる。
エイトが誘導するので皆は扉に入って、もう皆我慢の限界だった。
「「「「「「いやー、ああー、おおー、うあああー、ぎゃあー、ひでぶぅ。」」」」」」
口々に悲鳴を発した。
そして全員が魔法を覚え、99格になる。
驚きと興奮、混迷と困惑、様々な感情の中、学生と執政官見習という二足の草鞋を履くのだった。
***
「この場所に必要なものは何かと言うことを考えていくと、するべきことは見えてくる。
人の生活だったり、下支えする公共施設、物流の流れに統治する者だったりする。
と言うことで、このデスゾーンに国を造ろうと思う。」
エイトは集まった関係者に言った。
関係者と言うのは、エイトの眷属意外だと、種族の長や代表者を集めてもらっている。
皆は一様に絶句だった。驚きに言葉が出ない。
「国名はポムドテール共和国、合議制の国とする。
議会は種族の代表者で構成し、初代代表者はアレクサンダー・シュナイダーとする。
万共和国を参考に、行政の中心となる建物を造り、議会を行う。
管理のしやすい中央集権がいい、予算関連などの事務方も置く。
城壁都市を築き、魔物や盗賊の外敵から守る軍や警備も置く。
全種族がものを持ち寄り販売する市もいるし、不足するものは輸入する。
隣国のマクジル王国から鉄道を引き、取引をする。
特産品は国名の通りジャガイモである。
人が増えれば商業や冒険者ギルドも配置できると思う。」
「観賞用のジャガイモの花のことでしょうか?」
「食用です。」
エイトは答える。
「あの根のイモは、食べると吐き気や、嘔吐、腹痛などになると言われています。」
「ああーあの白や紫の花のことですか。」
「このイモはダメですよ、エイトさん。
というのも私たちも作ってたんですけど、寒い場所でも育ち、種を巻かないのにどんどん増えるんです。
しかも短期間で育つので人を怠惰にするんですよ。
あと食べると腹持ちもいいですし、飢えも無くなる。
でもそのすべてが罠だったんですよ。
これが悪魔の食べ物とまで言われる原因は毒なんです。
中毒を起こす人が次から次に増えていきます。
そういうことでうちの種族は遠慮します。」
エイトは全員に資料を配り、話始める。
「ジャガイモの話で盛り上がったので、ここで説明をしますね。」
今、配布したのはジャガイモ取扱説明書です。
表紙を捲ってください。
ここにはジャガイモの毒のことを書いています。
結局、緑の部分や芽にソラニンという毒がある。
それを1ミリ剥ぐこと、芽を食べないこと、それだけです。
保存法は5℃の低温で湿気の多くない、暗所がいいです。
次のページからはレシピですね。
ソーセージとガーリックバター炒め、通称ガリバタにフライドポテト、ポテトチップス。
ポテトの燻製にコショウの効いたジャーマンポテト、蒸かしたポテトにバターだけ。
こちらは、ポテトサラダに肉じゃがですね。
あとはキッシュとお菓子のスイートポテト、大学イモ、イモ餅などです。
料理したものを準備していますので、出してもらいましょう。」
「おおーこれは美味しい。」
「悪魔のイモとは思えない美味しさだ。」
「どれもうちの嫁の食事よりうまいぞ!」
エイトは言う。
「お嫌いな方は食べなくても大丈夫です。
ただみんなに知ってほしいのです。
ジャガイモ取扱説明書、これがあるだけで知識の共有が出来ると言うことを。
あなた方がこれを怠ったばかりに、このジャガイモは悪魔になったのです。
あなた方が教育を怠るから、字が読めず、危険と書かれた場所に近づくのです。
あなた方は種族全員に読み書きを教え、知識を教え、自分の後継者を選んでください。
いつまでも庇護するべき自分の種族を、こんな危険なデスゾーンに住まわせていたバカな指導者は、とっとと退いてもらいたいと切に願っています。」
エイト主導の下、建国は進む。
すべての代表者の反感を買って・・・・・・。




