6-1 御業
エイトは、一頻泣いた後、再び黒い塊の前に来ていた。
そして人知れず、回復魔法をかけたり、呼びかけたりしていた。
だが、応答はなかった。
(こんなになったけど、僕よりもとても、剣技が上手なんだ。
僕よりもずっと強い魔法を撃つ、大切な仲間だ。)
もう日も落ち、辺りは暗い。広い草原には焚火があった。
とても大きいその焚火を、たくさんの人が囲んでいる。
肉を焼くもの、それを頬張るもの、たくさんの笑顔があった。
酒を酌み交わし、何度目かの乾杯をし、踊っているものもいる。
エイトは涙を袖で拭い、なんなんだこいつらは! と小さな殺意を覚えた。
エイトは、何かの音で、そのドンチャン騒ぎから目を移す。
目に映ったものを見て、エイトは固まる。
黒い塊に少し亀裂が入っている。
(えっ!)
黒い塊の一つはコトッと動く。
エイトは開いた口が塞がらず、凝視している。
黒い塊の上から下まで亀裂がピキパキピキン。
(おおお!)
そしてバキバキビキッ・・・・・・、ポンッと飛び出た。
(Wah------oh! Woooo!)
そして次々と飛び出す。
ポンッ、ポンッ、ポンポンポポポーン!
それらはテクテク歩み、ジリジリとエイトに近づく。
そう、5センチのチェスの駒であった、ポーン8体は横一列に並んでいる。
エイトは一瞬目を疑った。
涙でぼやけた眼球にぼんやり映るのはレッド達だろうか、と。
エイトは咄嗟に手を伸ばす。
そして触ってみる。
(ほんとうだ。)
エイトは8体を抱え、机に突っ伏し、また泣いた。
今度は悲しみからじゃあない、絶望じゃあない。
「レッドなのか、良かった、ブルーにイエローだな、良かった、よがだー。
グリーン、シルバーにゴールド、そうか、無事だったんだな。
ホワイトもブラックも・・・・・・よがっだー。
よしよしよし。」
(あれ、キーちゃんはどこなんだ?)
(主、ずっとテントの横に居りますぞ。)
(なんだよ、キーちゃんは、知ってたのか?)
いくばくかの思案の後、キングは語る。
(主、レッド達は今しがた、自動修理と自動回復で復活したのです。
しかしですよ!
主があまりにも失意のどん底だったため、想定でものを言うのはためらわれたのですよ。
だってそうでしょ、漢は背中で語るものですから!)
こ、こいつはまっているのか、任侠映画に・・・・・・、エイトはそんなことが頭を過る。
(そうか。)
エイトは言って踵を返す。
「あっー、みんなにも伝えないと。」
そしてエイトは急いで、レッド達を引き連れ、テントに走る。
テントではテレスト、ハナ、アビー、マチ、エルドラが泣き疲れたのか寝ていた。
「起きろっ、みんな見てー! 生きてた。テレスト見て! ハナ見てくれ!」
「アビー、寝てないで起きろって! マチ起きろ! エルドラ見て!」
エイトは燥いでいた、走り回って騒いでいた。
「みなさま生きてたのですわね!」
テレストは言い、隣のエルドラの体を揺する。
皆はゆっくりと体を起こし、動いているからくり人形を見て喜び。
エイトが元気に笑っているのを見て、もっと喜んだ。
エイトは説明し始める。
エイトの説明は嬉々としていた、それゆえに単語が飛び交うだけのものであった。
皆一様に意味不明だった。
「何それ、まるでマトリョーシカね。」
ハナは言うが、みんなそれが何なのかわからず、キョトンとしていた。
「マトリョーシカはわからないが、黒い塊が割れて出て来たんだよ。」
そして、あっしが話しましょうと言わんばかりに、出てくるキング。
そして語り始める。
「エイト殿が親なら、あっしらは子も同然。
エイト殿の熱い血は、自動修理の枠までもてっぺん超えちまってます。
虫けらのように死んでたレッドたちも、エイト殿に、命を貰ったんです。
ここまでの力を、恩義をかけられちゃー、報いないわけにはいかんのです。
親父の力は本当に凄いんです、そりゃあ絆されるでしょ。
義理を欠いちゃあ、渡世の名が廃るってもんです。
あっしらだって漢です、血が滾るってもんでさー。」
何もしていないエイトは、煽てられ尻こそばゆくなるのであった。
それともう一つ、キングに任侠映画を禁止しようか? と思案するエイトであった。
そして、エイトたちは、レッドやキングたちを引き連れ、焚火を囲んでいる輪に入った。
そこに集う人々は、エイトたちを、歓声と、拍手で迎え入れてくれる。
ハナはおもむろに薪を井桁に組み、焚火を更に大きくし、言う。
「キャンプファイヤーよ!」
ハナは誰も理解していないと悟ると言った。
「ま、まあいいわ。レッド達の生還に乾杯しましょ。」
そういうとハナはグラスにお酒を注ぎ、みんなはそれを手に取った。
「それじゃ、乾杯ー。」
周りの人たちも、わけも分からず笑顔で参加する。
「「「「かんぱーい。」」」」
エイトは考えていた。
(落ち込んでいた僕は、大勢の笑顔を見て、死ねばいいとさえ思っていた。
なのに、今はその笑顔の中で、一緒に肩を組み、乾杯している。
僕は酷いやつだな・・・・・・。)
一気に呷ったエルドラはゲップをし、テレストが注意する。
「エル、だめでしょ!」
「いあ、え、俺は悪くないぞ。シュワシュワしてるから、みんな絶対ゲップ出るんだって。」
そしてみんな乾いた喉に流し込む。
みんな耐えている、みんなよく我慢はしていたのだが。
「「「「ゲプー!」」」」
アハハハハ!
「これはね、シャンパンっていうお酒なの、お祝いとかで乾杯するときにお勧めよ。」
ハナはそう言いつつ、保管庫から次々に見たこともないお酒を取り出している。
「ワインは赤と白、ビールに梅酒にスクリュードライバー、カクテルと。」
「あと号外で、お金もいっぱい貯まったのも乾杯しないとですわね。」
「アビー!!」
アビーが口を滑らせた、それをハナが制した。
しかし、エイトは気づいたようだ、そしてハナに尋ねる。
「ハナ、どういうことなのかな?」
「チッ」
と舌打ちをしハナは説明する。
号外2は貴族には金貨1枚、約10万ゼニで売った。
平民や商人は銀貨1枚、約1千ゼニであった。
号外3は貴族には金貨2枚、約20万ゼニで販売し、平民や商人は約2千ゼニである。
それをハナは、写本の出来るゴーレムを総動員し3000枚用意したのである。
その3000枚は、だいたい6億ゼニになったのだ。
しかしそれだけではなかったマクジル王国だけで6億ゼニなのだ。
現在店舗は8か国にあった。
よろず屋壱号店はマクジル王国、弐号店はサポジ王国、参号店はロックファスト公国、四号店はグパラト公国、五号店は南マウアト王国、六号店はドラゴニア地域、七号店はウルティー連立王国、八号店はエインテー帝国であった。
そして8つの国に送られた結果、約50億ゼニの金額が入ったのだという。
エイトはそのとんでもない金額を聞いて言う。
「返せー俺のインゴットー!」
まあまあまあと宥めるハナをエイトは睨んでいる。
いつもの光景であった。
「ご、50億にもなったのですわね。」
アビーは普段お金を使わない、なんとなく多いと感じたのであった。
そしてみんな飲みつつ談笑している。
ハルバートを背負っている、エルドラは斧のイエローに師事しているのか。
なにやら師弟の関係らしい。
アビーはホワイトと片手棍つながりか。
マチはグリーンに弓習い始めたのね。
槍はテレストにブルーだな。
あれっハナはブラックに絡んでいる・・・・・・。
「鎌はね雑草と麦が刈れればいいのよ!」
大鎌使いのブラックは、何か言いたそうなのだが喋れない。
延々とハナの酔っぱらいの絡み酒に、付き合わされるのだった。
「エイト、大出世だな。」
そこには懐かしい顔があった。
エイトが兎肉を買ってもらってた店の親父である。
「まあ、飲め。」
そして酒を注ぐと親父は言う。
「本当にありがとうな、故郷のアイゼンブルグを救ってくれて。」
そう言って親父は泣いていた。
それが引鉄だったのか、エイトはたくさんの人にお礼を言われた。
初めて見る人、多くの種族、子供に年寄りいろいろだった。
あーとか、うんと言うしかなかった、エイトは戸惑っている。
仕方ない、他人に率直に感謝されることに、慣れていないエイトなのだ。
「だらしない顔になっています。」
とマチは言い。
「なに、ニマニマニマニマ、きもい。」
とエルドラは言う。
そして、1時間後、みんないろいろ味見し、ヘベレケだった。
そして、何回もの乾杯が、幾多の場所で行われ盛り上がった後、静かになっていく。
そして、2時間後、焚火の周りで、起きているものはいなかった。
そして、夜は更け、焚火だけがユラユラとパチパチと静かに存在していた。




