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5-1 陳情

「失敗だったわ!」


ハナは吐き捨てるように言う。


「みんな喜んでたし、大勢の知り合いも手伝ってくれて、大成功じゃあないか。」


「そりゃあお米はデスゾーンからもらって、うなぎは川で取って元手は要らなかったわ!でもねでもね、あのお弁当箱。そう木と竹で出来たあのお弁当箱、ひとつ1000ゼニもするのよ・・・。」


ハナは人生の終わりのような悲壮な顔をしている。しかし夕食を共にしている誰の心にも響かない。


「いくらになるんだっけ?」


エイトがそう言うとタチアナはすぐに答えた。


「500万。」


その金額を聞きハナは「ひいー。」と悲鳴のようなものを漏らす。しかしその他大勢はそれを冷ややかな視線で見ている。


みんなこう思っていた。


(ハ、ハナはケチなんだな。ケチなンダニャ。ハナぁケチィ。ケチいんだニャ。ケチッ。)




誰も口に出さなかった、いあ出せなかった。一人を除いては。


「ハナって結構儲けているのに、ケチだな。」


エイトがそう口にした。誰もが諦めのような表情になる。次の展開が予想できたからだ。



そうして、ハナは縮地と言わんばかりの速さで、エイトの目前に現れ胸倉を掴んだ。そうなるわよね・・・。皆一様に描いていた未来予想図だった。


「あたしはね、ケチじゃないの!」


ハナは続けて言う。


「単なる節約家なの!」


あんた!そんなことも解らないの!ハナはそう言わんばかりの勢いだ。


「あ、あーそっかー節約家だといい奥様になれそうだねぇ。」


エイトは言葉につまり、その声はやや震えていた。そこへ聞き覚えのある声がする。




「わたくしもハナさんのように、いい奥様になれるのでしょうか。」


「「「アビーさん!」」」


そんな声にも動じず、とても優雅に、白磁器の器で紅茶を、嗜むアビーが、末席に座っている。その空間だけはとても、静かに時が流れている。


「(結婚前だというのに)アビーったら、また泊ってたの?」


ハナは問い詰め。アビーは言う。


「だってえ、ハナさんやテレストさんだけずるいですー。」


小さい子がダダを捏ねている。とても微笑ましい光景だった。そんな愛らしいアビーに、全員が目を向けると、赤面したアビーは話始める。


「だってだってですよ!話についていけなくなりますし、みなさんばかり美味しいもの食べてずるいですわ。それにお父様には言ってありますし!!」


嘘つくなあ。とみんなの顔は語っていたが追及は、気を利かせたアントンくんの話で無くなった。


「あ、あのラ、ランニング途中で、き、聞いたのですけれど。よ、よろず屋い、壱号店なんですけど、きき、奇跡の店って、み、みんなが。」


アビーも言う。


「そうですわ、王城でも皆、口々に言ってますわ。奇跡の店の話を。」


エイトは考えが追いつかず、思わず尋ねる。


「奇跡の店???ど、どうゆうこと?」


なんでも飛空艇の空襲でほとんどの建物が被害を受けている。街でも屋根に大きな穴が開いていたり、屋根がひび割れて雨漏りしたり、壁が剥がれ落ちたり、焦げたりしているのだった。


貴族街の方では半壊しているところもあるというし、住宅街では火災が広がっていたりもした。そういうこともあって、暗い街の雰囲気を払拭しようと、ハナの発案で、エイトレンジャーオンステージは開催されたのだった。


そのとき、商業区に集った人々はよろず屋壱号店を見たらしかった。そう、まったく無傷の奇跡の店をである。更に近隣の建物がすべて黒く焦げたままであったことも、奇跡の店を引き立て、余計にクローズアップされることになっていた。


(まずかったのだろうか・・・。)エイトはそんなことを思っていた。当初より宣伝効果も兼ねて、着ぐるみパジャマを着たエイトレンジャー2体を警備に就かせていた。それに店舗の全面耐物理、耐魔法シャッターもあるのだ。中途半端な攻撃で傷つくはずもないのであった。


尚、ハナが失敗したと言っていたお弁当箱は、急遽作成されたのであった。普通なら予算として計上すべきものだった。そこまで配慮できなかった、それはただ、ただ、ハナのうっかりなのである。


***


婚約のパーティなどは、王都の現状もあり、貴族の集う議会での報告のみとした。その代わり、王妃に約束させられたのは、15歳になった時、結婚式は盛大に行うことと、エコル島の城竣工時落成式には呼ぶこと、であった。


そして現在、エイトは業務をこなしている。すでにいくつかは解決した。直訴での陳情であった、時には民家の塀を素手ですべて壊し。畑を掘りつくし穴にしたり、山をふっとばし平地にしたり、原因を無くした。


そうして度肝を抜かす住民に、「これは僕の仕事ではない。」と告げ、「今後、下らんことを言ってきたら家ごと隣の国に飛ばす。」と捨て台詞を吐いて帰路についた。


エイトは怒っている。なんでこんなことまで!そう言って当たり散らすエイトを、グースは冷ややかな目で眺めている。流れ弾に当たらないように気をつけながら・・・。




いくつ目かの陳情で海にいた。なんでも海にスライムが大量にいて、猟船が出せなくて困っているという、役人も視に来たが解決できないのだということだった。


「なんだこれは・・・。新種のスライムとかアメーバ系だろうか・・・。」


キーちゃんに尋ねても解らないという。仕方ないのでサンプルを取って後は焼きつくすことにした。レッドの火魔法でも上手くいかない。何か海水で保護しているようだ。雷、風、土魔法でも上手くいかない。そして氷で海ごと凍らせて粉々にしようとすると・・・。


「そんなことをすると海ガエルが死に絶えてしまうではないか!」


と、杖を持った偉そうなカエルが話しかけてくる。


エイトは喋るカエルに興味を惹かれ、グースは杖を持ったカエルに慄いた。そしてエイトは会話を始める。


「住民が船を出せなくて困っているから、領主の僕が解決しに来たんだよ。」


偉そうなカエルは思案している。どうやら魔ガエルという魔物のようだ。30格か弱っちいな。エイトは鑑定しそう思った。


そして魔ガエルは思案の後、海ガエルと相談すると告げ、潜っていくのだった。




暇になったエイトはニタニタして、グースに問う。「あの岩で足を組んで悩んでるカエルいるでしょ、名前わかる?」


グースは答える。「海ガエルでしょ。」


エイトは満面の笑みで言う。「ブッブー!違うよ!カンガエルだぞ。」


ブッー!グースは噴出した。


エイトは問う。「じゃああれは?なんか前転してるようなの。」


グースは考えつつ言う「転がる、コロガエル?」


「違うだろ!でんぐりガエルだぞ。」エイトは大いに笑っている。


「じゃあ死んだはずなのに、むくっとおきあがるやつは?」


「生きカエルだろ!簡単っす。」


「違うぞ!黄泉ガエルだ。」

「なんだそれ、生きカエルでもいいだろ!」


「じゃあ俺から質問っす。」グースはにやけている。


「いいよ!」


「天使のカエルは?」グースはニタニタしている。


エイトは思案する。天使・・・。エンジェル、羽、翼・・・。


「むむむ。悔しいが解らないです・・・。教えてください。」


「はははー!正解はミカエルっす。」


二人はじゃれていた。うはは、その問題はなかなかいい、着ガエルとか?寝ガエルは?おお!あとド根性ガエルな。なにそれ!アハハハハ



そして、


「おい、君たち!」


偉そうな魔ガエルが話しかけていた。


「遅いぞ!」エイトは答える。


「それでじゃな、海ガエルの方で移動するということになったんじゃが・・・。」


「ああ、僕はそれでいいけど、今日中に出来るかな?」


「うむ、全員揃ってからと言っておったからな、今日と明日で移動するように伝えるわい。」


「わかった。あとこのネバネバしたものは巣なの?」


「卵じゃよ!」


エイトは大きく頷き言う。


「なるほど、知らなかった。」


そう言うと、魔ガエルはちょこんと頭を下げ、潜っていった。エイトはそれを見送った。


***


「あの村だな。」


エイトはそう言い歩を進めた。本日最後の案件であった。


隣人が境界を犯す、畑の出来が悪い、うちの木が盗まれる。本当にくだらない!しかし、魔物が襲ってくる。魔物が作物を荒らす。


そういう魔物関連の案件については、エイトは積極的に動き捕獲する。それはもちろん図鑑のためであった。グースは聞いた。


「なあエイト、さっきの蜂の魔物と会話してたよな?」


エイトはお前何言ってるの?という目でグースを見る。


「ああ、魔ガエルの時も、モルボルンも、ウツボカズランも、ブレンビーも話が通じるやつがいたな。知能が高いって事だろうな。」


グースは顔を引きつらせている。


「あのさエイト、魔物の言葉を理解できるのはお前だけっす。」


エイトは血の気が引いた。グースは言う。


「漁師たちや村人たちがな、魔物と話しているお前を見て、領主様は魔物の王様、魔王様って叫びながら走って行ってたっす。」


エイトは両の手で、グースの上腕筋を掴みブンブン揺らす。脳がシェイクするほどブンブンと。


「なーぜー、言わなかったー!!なーぜー!教えない!!」


(なぜだ。魔物の言葉が理解できるのは俺だけなのか!わからない!わからない!)エイトは急に不安になった。


「待て、待て、エイト落ち着けっす!!」


そう言ってグースは目配せする。村民たちにいつの間にか囲まれていた。




「みなさん、こんにちは!神隠しのことで話を聞きに来ました。」


そう言ってエイトはその場を取り繕った。


しばしの沈黙があった。その後、村長の奥さんは人払いをし、当事者であろう女の人と僕とグースを村長宅へ招き入れた。そこには先客が座っていた。


一人は勇者のカミバヤシショウ、もう一人は賢者のモモだった。


村長の奥さんは全員を紹介した。エイトはみんなに習って軽く会釈をした。ただ、グースは勇者と会えて、テンションが上がっていた。そして村長の奥さんは、神隠しのことについて話始めた。


なんでも毎年のようにこの時期に6歳の子供限定でいなくなるのだという。ただ4、5年前に6歳の子供5人全員が姿を消した時は、人口が半減したらしい。


それ以降は毎年一人いなくなるのだという。勇者ショウと賢者モモは、その話を聞きつけ村長宅で滞在しているらしかった。現在のところ成果は上がっていないようだ。




そしてエイトは領主として、勇者にお礼を言う。


「我領の民のために助力いただき感謝いたします。早期の解決を切に願っています。」


勇者ショウはきょとんとしつつも、頭を下げていた。それは仕方がなかった、なぜなら村長の奥さんはエイトのことを、領主が派遣した人だと紹介したのだから・・・。


エイトは折角の勇者の好意に水を差すのも悪いと思い、建前では、勇者に任せることにした。そしてそれ以上は、何も言わず村を後にする。


しかし、エイトは犯人であろう場所を見つけていた。この村の北東の山頂あたりであろうか、敵対マップの示すところに向かった。


***


そこには明らかに人が手を加えたであろう、立方体の石が積まれていた。塀なのか壁なのか。一部崩れてもいるし、直した痕跡も無い。


「これは住処なのか?」


グースは不安からそんなことを言う。


「ここに犯人がいる気がするんだけど。何なのかは解らないな。」


エイトは正直な気持ちを口にする。(住居には見えないし、大掛かりな機械とか装置の一部かもしれないが、よくわからない。)


「なんで勇者に言わなかった?」


グースは尋ねる。


「だって僕が見つけると、勇者の好意に水を差すだろ。あと、どうやって見つけた?って聞かれると説明するのも面倒だしね。」




二人してその建造物を見て回っていると、明らかに奥に進めそうな隙間がある。しかも出入りがあるのだろう地面は踏み固められていて、草も生えていない。


エイトは躊躇いなく奥へ入る。グースは外から声をかける。


「なにか見つけたか?」


エイトは階下へ降りて行ったのか、返事はない。グースは慌てて追いかける。降りる階段がある、地下に居住スペースがあるのだろうか、薄暗いため、グースの歩みは遅い。


「こんにちは。」


ずいぶん遠くでエイトの声が聞こえる。グースはそれを頼りに歩を早くする。するとグースの目にエイトの姿が見えた。部屋の前で中を凝視し、明らかに機嫌が悪そうであった。


その部屋には扉はない、開口部だけが入り口を示している。そして目に見えたものにグースは腰を抜かすほど驚く。頭、足、手、そしてはらわた、子供のものだろう、透明なガラスの円柱の中で浮いている。


「ひぃぃ!」


グースはその光景に声を上げてしまう。


その足はガタガタと震えている。ひとつは透明の容器に入った人体の一部にである、このようなものを目にすれば誰しも、寒気が走り声を上げるだろう。しかもグースはまだ11歳なのだ。


そしてもうひとつはそれを冷たい目で見ているエイトにであった。なぜ驚かない。なぜ目を伏せない。なぜそんなに冷たい目で見ている。なぜ・・・。


「お前らそこで何をしている。」


いきなり二人の背後から声がかかった。こんな場所で、誰だって驚くだろう。心臓が口から出かかった、そんな形容がピッタリの状況であった。





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