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1-4 作業は捗り悩みは深まり

よろしくお願いします

「かかってこいやー!」


と、叫びつつ骸骨軍団に石をぶつけまくる。


そそくさと宝箱を開け、鑑定の必要なものは収納庫へ、それ以外は保管庫へ。


消音魔法と透明化の魔法を使い入り口側に出る。


壁際に移動し仮眠をとる。また空腹の場合は兎の干し肉を齧り水魔法で喉を潤す。


あと睡眠も食欲も満たされている時は、鑑定指輪の機能であるワールドディクショナリーで調べ物をする。


もう何度こなしたのだろう、エイトのルーティンワークである。




エイトはいろいろ分かったことがあった。先ずクリアした職業に応じて専用の武器、道具、装備が一つ宝箱から出るということ。


マリオネットのグラブ、守護者のモーニングスター、伝説の包丁などいろいろ。


残り4つの内訳は金貨、薬品、素材各種(概ね骨くず)


変わったとこでは見習い人形師は格が上がるたびに呼称が変わっていった。見習人形師からただの人形師になり傀儡師になって、現在132格でパペットマスターとなっている。


99格を超えたのはパペットマスターだけなのだが、やはり99格を超えるのは、天職の効果なのだろうか。どこまで上がるのだろうか、エイトは、食と我慢の限界まで上げてみる方針なのだ。



治癒師と初級魔導師はいつの間にか融合して白魔導師99格になっている。


というのも初級魔導師は黒魔導士になれるかもな?とゲン爺は言っていた。しかもゲン爺の話す戦いにはよく炎を操る黒魔導士が出てくる。エイトは秘かに憧れていた。


エイトは、最強の精霊魔法使いになることは、諦めることにした。




ゲン爺の治癒師にはみんなが成りたがっていた。怪我は治せるし火傷も治るし、ぎっくり腰もだ。あと常備薬だって作ってた、あとは服や靴が綺麗になる。


今のエイトは白魔導師だ。これはもうゲン爺を超えたってことだろう。とエイトは考えていた。


覚えた魔法は消音、透明化、物理強化、麻痺、回復。


(あれ地味じゃない?)



当面の問題はデスゾーンの事だとエイトは考えていた。なにより既に宝箱が出る部屋の4割ほどがデスゾーンになっていた。これに因って、リッチという骸骨魔導師が召喚後すぐに死滅するのだ。


探索師を格上げすることにより、ワールドマップを使えることになった。それを使ってみるとデスゾーンのエリアが判明したのだ。エイトたちが呼んでいるデスゾーンとはかなりの差異があることになる。


好奇心から数本の骨くずをデスゾーン側に投げ入れてみた。すぐに変化は現れない。しかし30分もすると粉々になって霧散していた。恐ろしい。


いくら魔物でもデスゾーンのエリアでは生存できないのだ。エイトは思った。


(さっさと北へ逃げよう。)


***



エイトの天職、パペットマスターが148格になった後に変化が起きた。


いつものようにその部屋に入る、既に1時間経過しているはずだが、骸骨魔導師のリッチは現れない。


いつもの赤い宝箱とは違う、紫の色をした宝箱が置かれてある。変だな、と思いつつもエイトは宝箱を開けた。


中に入っていたもの、先ずは称号であるアイゼンベルグの地下迷宮の覇者、

アイゼンベルグ地下迷宮の指輪、アイゼンベルグ地下迷宮の証、ダンジョンのコア



エイトはすぐに鑑定した。しかし、結局何に使うのかわからない。


(保管庫行きだな。)


そう思い、いつものごとく消音魔法と透明化の魔法を使い入り口側に出た。


そこでも変化があった。今までは仄かに明るさを有していた壁や床だったのだが、すべての光が無くなっている。


エイトは急いで索敵地図で調べてみる。すべての骸骨が消えている。敵がまったく見つからないのである。



なんだか夢から覚めた気分だった。しばらく呆然と佇んでいたのだがいろいろと検証してみた。

消音効果を消して声を出してみたり、「俺にビビったのか!」

大声で叫んでみたり、「今日の小便まっきっきー!!」

どんどん足音を立てて走ったり、

闇に向かって石ころを投げつけ、

光球の魔法で明かりを灯した。



暫くそんなことを繰り返すエイト。




そして手をあげて大きく伸びをしてエイトは呟く。


「終わった。」


***



もう居ないんだろうなぁとは思いつつも、角を曲がるたび、階段を上がるたびに索敵地図を使い慎重に移動する。


正規のルートだと遠いんだなと、感心しつつ地上を目指した。


あっけなく地上に出た。この太陽の位置だと昼は過ぎているようだ。


地上での最たる懸念事項だった大きな犬の気配はない。あれには勝てないだろう。とぼやきつつ、逃げだすような早歩きで海沿いの道を目指した。




「見つけた!」


「起動。」


角兎だ。多分このあたりだと最弱の魔物なんだろうなと、エイトは認識していた。この角兎を見つけたらすることがあった。


レッドと名付けたからくり人形の初陣なのだ。


命令には4つある、起動、攻撃、退避、格納。襲ってきた敵には勝手に攻撃してくれればいいのに、という不満もあったが使い勝手はいい。


「角兎を攻撃。」


・・・。


・・・。


・・・。


エイトは見入っていた。



結果を言えば圧倒して勝った。角兎の体長は約1メートル、手足を伸ばすともっと大きそうだがそれはいいだろう。


一方、からくり人形のレッドは5センチだ。そう小さい、何故ならこのレッドは、もともとチェスの駒、ポーンなのだった。


100センチ対5センチ、公益財団法人人形愛護協会デスゾーン支部人形愛護団体内からくり人形にも人権を!運動があれば怒ってくるなどとくだらないことを考えている。


戦闘は、と、言えば圧巻だった。


兎の最大攻撃力といえば後ろ足のキック力である。腿についた筋肉の大きさからみても秀逸であることがわかる。


しかし、レッドは絶対に兎の下半身側には近づかない。ずっと頭部のあたりを維持する。見事なフットワークだった。


それが解っている兎も腰だけを左に捻って、左の足を最短距離で突き出すのだが、レッドはこれをぎりぎりで交わして肋骨の下あたりにカウンターを入れる。


瞬間、兎は後方へ飛び距離を開けた。



(あれ痛いんだよなぁ・・・ゲン爺はリバーブローとか言ってたな。)


などと思い出しつつ、エイトは凝視している。


その後も終始位置をキープし、敵の攻撃をすべて躱すという安心の勝ちっぷりである。



(師匠と呼びたい!)



あまりの勝ちっぷりに、見ているだけでも勉強になると考え、帰路の敵をどんどん狩っていった。


戦闘後レッドは必ず魔石を回収してきた。


食用に出来そうな角兎、赤猪、はぐれ鹿、尾黒鶏、砂クラブ、ウォーキングフィッシュなどはどんどん保管庫に放り込んだ。あとで血抜き予定だ。


***


エイトは不思議に思っていた。からくり人形であり、戦闘の師匠である、5センチのレッドは、当初ボードゲームの駒として木を削って作った。そう手造りなのだ。


木工師の職業も発現していない、いい出来と胸を張れるほどの品質でもない。木を削った後もガタガタしていたはずだった。


しかしよく見ると頭はきれいな球体で胴は円錐、無かった手も足も生えている。木目も見えにくく、まるで薄い金属をコーティングしたような仕上げだ。



先ほどまで白かった砂浜は、沈みゆく夕日に照らされ赤みを帯びてきた。砂の波は影になった黒と赤のグラデーションが美しい。


夕焼けを背にし、海の照り返しから目を守りつつ、エイトは少し汚れたボードゲームの駒をぼんやり眺めていた。


乾いた流木を集め井桁に組み、火魔法を使う。その焚火で暖と明かりを取り、血抜きのためにどんどん獲物を出していく。


「あっ・・・」


エイトは今まで兎しか血抜きをしたことがなかった。兎なら木を組んで、洗濯物同様吊るすだけで良かったのだが。体長2メートル以上の獲物は木組みのほうが折れるぞ・・・。今更ながら思い至った。


「えっ・・・」


エイトは驚いた。並んだ兎のあまりに違う容貌に。間違って収納庫に入れていた兎、と保管庫に入れていた兎の違い。

収納庫のそれは、明らかに4時間前のものと解る、血は黒くなってこびり付いていて固まっている、兎自体も死後硬直しこれは木で作ってあるのか、エイト的な表現をすると、まさに、かっちかちであった。


較べて保管庫の方は今死んだのかと思えるほどなのだ、回復魔法すれば跳ねて走っていきそうなほどに新鮮だった。


「実際の話、蘇生の魔法はわしの生きてる限りでは無かったな!と言うのが結論じゃ。」


とゲン爺が、駆け出し治癒師の希望を砕いてくれた。いい思い出である。




しかしこうなると、保管庫は新鮮さを保管してくれるということになる。とエイトは考える。


(でも氷で冷やしてる風でもないしな・・・。)


エイトは悩みつつ、考えても判らないことが多すぎるとぼやき。


いつもの兎干し肉と魔法の水で食事を取り、眠りについた。




そしてその傍らには、からくり人形のレッドが佇んでいた。



お読みいただきありがとうございます

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