4-9 研修
よろしくお願いします
「チェックメイト・・・。」
「キーちゃん強いね。僕はちっとも面白くないよ。」
エイトは憮然として言う。
「でしょうね。」
「キーちゃんなんか怒ってる?」
「主、わたしは言いましたよね?エルドラド領の書類の束と調査をまとめるので多忙だと。しかしなぜまたチェスなのですか?」
「チェス習った人がいるんだけどさ。」
「あ!商団のチクタクさんて言うのは、あの方のことでしたか?」
「そそ、デスゾーンからリアーノ領を経由して、王都に戻る途中でわざわざ寄り道してくれてお祝いに来てくれたみたい。けど、あの脚だと大変だろうな・・・。」
「そのチクタクさんと言われるのは義手と義足の方ですよね?」
エイトは思案し言う。
「あの体で馬車移動も大変だと思うんだよね。ちょっと頑張って鉄道引いちゃおうか?」
キングは計算しつつ言う。
「そうですね、整地してレール置くだけなら・・・。しかし直線距離でも5000キロメートルありますな。」
「その作業はきつそうだな・・・。あと、死の土地調査で一緒だった、ユーリさんやカリナさんもお祝いに来てくれたんだけどな。」
「みなさん心優しい人ばかりですね。」
「どうやれば辺境伯になれるのか、今度ゆっくり聞かせてくれ、と言われたよ。と言うことでまた時間があるときに来るらしいから・・・。しかしこのチェスの駒、かなりいいよね。携帯用チェスで売れそうだなあ。」
「主、流石お目が高い。あの苦労したクロム18とニッケル8のステンレスですよ!中空にして軽量にしてますから無垢じゃないですけどね。」
「色がエイトレンジャー仕様ってとこがいいんだよな。よろず屋印つけて原価いくらになるかなあ・・・。」
エイトは思案するのであった。
***
エイトは現在、旧テルグ領(今はエルドラド領とした。)の領主館にいる。そしてそこに集うのは、エルドラド領のすべての村落の長、街の長もしくはその代理81名であった。
皆一様に緊張していた。新領主とはどのような人物なのか、これからどのような説明があるのか、今後どのようになるのか、不安もあり期待も高まる。
その正面の壇上に子供が駆け上がり、挨拶した。
「みなさん、初めまして、こんにちは!」
シーン。皆、絶句そんな言葉が相応しかった。
「僕がこの旧テルグ領主に任命されたエイト・リナレス辺境伯です。今後ともよろしくお願いします。」
シーン。更に絶句する。
「それでは今回お集まりいただいた主旨と、今からの予定について話します。まず主旨ですが、みなさんの業務の能力についていささか疑問がある。ということから、それならば能力に応じた職にしようじゃないかと言うことでお集まりいただきました。」
会場の緊張は解け、敵対心、猜疑心からザワザワし始める。
「何か騒がしいですが、ご質問でもあるのでしょうか?」
数名が手を挙げている。
「それじゃ5番の方どうぞ。」
「エイト辺境伯は非常にお若いようですが、そのようにお若いかたが領主と言うのは、私の記憶では過去にありません。どこかキツネにつままれたと言いましょうか、騙されているように感じています。」
そこへ部屋の最奥から、一人の男がつかつかと壇上へ歩みつつ声を上げた。
「それについては私の方から説明しましょう。私の方がエイト辺境伯よりも古だぬきですから、顔を見知っている方も多いと思います。」
その男の貴族然とした態度は、マクジル王国の中でも、高位のものと思わせる様相を呈していた。
「まず、自己紹介ですが、私の名前はミッチェル・アラン・カラザース伯爵です。この国ではジェイ王のもと、宰相を務めさせていただいております。」
おおお!会場が一層騒めいた。そしてミッチェル宰相は続ける。
「エイトくんには爵位で抜かされてはいますが、立場は私の方が上になります。そして今後とも長く友人として付き合ってもらいたいこともあって、敢えてエイトくんと呼ばせて頂きたい。
あとオフレコではございますが、エイトくんはアビー王女とご婚約予定であります。」
なんと!女王様と!会場はどよめく。
「それに加え、先日の王城開放では、主だって敵を殲滅し、国を救った英雄であります。」
なんと英雄様じゃったか!会場では口々に英雄!を囁く。
「補足ですが私もエイトくんに命を救ってもらった一人であります。」
おおお!ミッチェル宰相は会場を煽る。
「そしてベスパーラ王国からの軍勢2万を、なんと!エイトくんの私兵のみで蹴散らし、その領地を統治するに至っています。なんと素晴らしいではありませんか、我が国の救世主と言っても過言はありますまい。」
そして会場はスタンディングオベーションに包まれた。
パチパチパチパチ ピューピュー
パチパチパチパチ ピューピュー
エイトは思った。(ミッチェル宰相、やり過ぎ!)
*
すこし時間は遡り、昨日の昼過ぎにミッチェル宰相はやって来た。そこにはアビーと執政官が来る予定であった。
エイトはお出迎えに玄関に向かった。そこに居たのは執政官補佐の卵とでも言おうか・・・。私立ラルウッド学園の同級生の女子6名であった・・・。
イライザ・キース・ラルウッド、ウェンディ・ベーカーフィンチ、エイドリアン・ストール、カリス・イートン、シェリル・イートン、オリヴィア・リアーノ、園長の孫のイライザは以前からいた。でもオリヴィア・リアーノってもしや・・・。
そして僕はミッチェル宰相だけを執務室に招き、言う。
「どういうことですか!」
結局のところ、マクジル王政に弓を引いたテルグ家、ベスパーラ家に連綿と受け継がれる反逆の血、そのいつ開くかもわからないパンドラの箱を抱えて生活することを、望む者はいないという事だろう。
エイトもそのことを納得はした。しかしそれにしても10歳の女子を連れてくるとは・・・。
それを受け、ミッチェル宰相は言う。
「それは私も心配でな、彼女たちにも忠告はしたんだが・・・。いあ本当だよ。エイトくん、私も学園長の孫娘やリアーノとこの娘に何かあってもと思ってな・・・。
いあ、やはりアビー王女の婚約は彼女たちにはばれてると思うし、エイトくんの活躍を目の当たりにしてる彼女たちには、辺境伯の叙爵は現実味があったんだと思うんだがな。」
納得はしているがモヤモヤするエイトは、
「じゃあ行きましょうか!ミッチェル宰相。」
エイトはミッチェル宰相を列車に乗せる。
「ここまで来て体験しない理由は無いでしょう。きちんと陛下に伝えてください。」
そう言うと、サポジ王国の国境まで時速400キロ超で走らせ。帰りは飛空艇に乗せ時速500キロ超の世界を味わってもらった。
*
「ミッチェル宰相、ありがとうございます。なお、この後もミッチェル宰相におかれましてはオブザーバーという形で会議の顛末を見ていただく予定です。
それでは話を戻します。今からはこのエルドラドの今後の話をします。次に長のみなさんの評価と改善点そして最後に4月1日以降の配置に関して決めていく予定です。
それではまず、エルドラドのこれからですが、清潔で住民の満足の出来る領地にします。具体的には税は30%以下です。
今の現状はと言うと、一番端の列に座っておられる8番、16番、24番、32番、40番、48番、56番の領地では50%を超えています。悪質なものは間接税まで入れると70%になっています。
こうなるともうダニですね。もちろんその余波でこの7名の街村は人口流出が増加しています。そして、清潔に関しては上下水道を全戸完備にしようと思っています。予定は1年以内です。
そして具体的な直下の予定としましては、4月1日から3つの郡を設けます。一つはベスパーラの北、名前はそうですね仮にA郡としましょう。人口約500万人、今後コーヒーとカカオを主産業にします。
次にベスパーラの南、B郡も人口は同じで海産物とその乾物を主産業にします。最後は旧テルグでC郡、ブドウ種他酒類を主産業とします。
3郡、共通なこととしましては、3月末までに、学校と病院を建造します。あと主要道路に下水道と上水道を敷設するのと、鉄道をとりあえず1便敷設します。
ここまで駆け足で説明しましたが、質問等ございますでしょうか?」
数名手が上がる。エイトは12番を指名する。
「病院と鉄道というものが解らないのですが。」
「そうですね聞きなれませんね、まず病院というのは主に治癒をしたり看病や栄養管理などをします。次に鉄道は鉄の馬車です。それによって人や物資を運ぼうと思っています。よろしいですか?」
「あの、その治癒の方は地元で雇うということですか?あと治療費はどのくらいになるのでしょうか?」
「そうですね、いずれはその方が望ましいですが、3月末までに配置しますので最初はゴーレムだけになります。治療費は最高で10万ゼニですが、住民の方は3万ゼニです。最少額だと1万ゼニと3000ゼニとします。」
おお!安い!みな口々に言う。
「わかりました。ありがとうございます。」
「はい、それでは4月以降の話ですが、1郡に2名づつの執政官見習を置きます。その他には主要産業のための工場建造や鉄道延長、道路整備、港湾や河川の護岸工事に治水工事も進めます。
それらすべては今から配布する、地図に書いてありますので自分の街、村以外も目を通しておいてください。午前はこれで終わりますので、昼食はこの会場に運ばせます。」
そしてエイトは質問などを答え会場を後にする。
そして会場では、
「学校に病院に、下水とか、いくらなんでもあと1カ月しか無いのに無理でしょう?」
「あんなに小さいのにいろいろ勉強してはいるが世間知らずだな。こんなのに付き合う必要あるのかね。」
「まあ、それでも辺境伯様なんですよね?」
「いあいあ、君らはベスパーラ王国から、土地をぶんどり境界に建てた壁を知らんから、そう言うのかもしれんが、人5人縦に並べても届かんような壁が1日で出来たんじゃぞ。
あれをやったのがあの子なら、凄まじい魔法使いじゃあなかろうか・・・。」
「儂はなあ、その壁の中にある鉄道っちゅうので、ここまで来たんじゃよ。100人は乗れそうな大きな乗り物でな、そこに風呂やらバーに食堂にベッドまでついてて、夢のような旅じゃった。昔、馬車で以前来たときは3か月かかる道程をじゃぞ。なんと、たったの6日だったんだ・・・。」
「むむむ。」
街や村の長を務めているものの中には、貴族もいる。ほとんどの貴族や長は否定的であった。10歳の子供が言うことである仕方ないのであろう。
意外に2割は中立で、2割は肯定的である。肯定的なのはやはり鉄道に乗って圧倒的な実力を、垣間見たからだろう。
あとはミッチェル宰相の後押しかな?と考えるエイトだった。
その後も研修は1週間続くことになる。健全な体に、健全な精神は宿る。を実践するものであった。禁酒、禁煙、禁欲の生活、程よい運動に節制した生活、時間や規律は守る。そして詰め込み教育。
報告書、請願書などの定型書式を全員でディスカッションし作り上げる。それだけで自分の愚かな時候の挨拶を悔いたことだろう。
自分たちの成績表というべき、損益計算書と貸借対照表を取引に応じて仕訳し、簡易な簿記を覚え、物流の仕組みと数値を理解する。
権力や地位の保持には義務があること、不平等でない裁決の事例や捜査、逮捕、治安の維持事例、健康や栄養、治癒魔法の初歩、地域の開発や開拓にノウハウ、ゴミ問題の対処、住民台帳の制作をマニュアル化した。
郡別には特産品に関する情報や育成、漁獲等の知識、加工品の製法に販売に関すること。朝に夕にどんどん詰め込む。
なんとなく研修というよりも、修行に近いのかもしれない。
しかし食事が美味しかったらしく、不満は少なかった。辛い時には回復魔法でフォローもした。何より誰も脱落しないのは喜ばしいことだった。
ありがとうございます




