4-8 審判
よろしくお願いします
そして、その日は来た。
2月初旬、夏の盛り、マクジル王国では1日が極めて長い日であった。敵の斥候は朝の7時前に高さ10メートルの壁を見る。
30分ほど壁を叩いたり、周囲を見たり、調べていた。そして東や西へ走る、回り込めないか確認していたのであろう。その後、姿は消えた。
18時30分、ベスパーラ軍の本体が壁を視覚で捉える。疑いもせずどんどん近づいてくる。どうやら壁近くで野営の準備のようだ。十数人は壁に密着している、調べているらしい。エイトは思った。
(こいつら馬鹿じゃないのか!)
そして敵の警戒心の無さを嘆いた。
(この壁の上から弓を射掛けられたらどうするつもりなんだろ・・・。あーあー飯食ってるよ。)
本日の日の入り時間は19時30分である。
(19時に始めようかな。)エイトはそれをキングに伝えた。
この時間帯は馬車の事故も一番多い。夕日が沈み始める頃、所謂、黄昏時は視界が徐々に悪くなる。また壁が西側にあり、沈む夕日を背に出来るエイトたちには有利であった。
それに加え生理的にも、身体は休養を欲するのだ。更に気温も下がる。判断も緩慢になり、思考力は低下する。動物の本能なのであった。
***
19時、エイトは壁の上から呼びかける。
「お前たちは何者だ。ここで何をしている。」・・・ザワザワしているが返事はない。
「この先はマクジル王国だ。お前らに用は無い、即刻引き返せ。」・・・ザワザワは大きくなり、立ち上がって声の主を探しているが、返事はない。
「さもなくば、」と言ったところで壁に向かって矢が飛んできた。
「平和的に解決したかったのだが、会話もできないなら致し方ない。これより実力を行使する。」
そう言った瞬間それは起こった。地面が激しく揺れたのだ。兵たちは立っているのが困難だった。次に起こったのは稲光だ、闇夜のそれは兵の度肝を抜いた。
何度も、何度も、明滅を繰り返す。ピカッと激しく光ったかと思うと、ゴロゴロゴロと腹に沁みる音がし、近くの立派な大木が、数多二つに裂けた。ガタガタと震え失禁する兵もいる。
この辺りで兵のほとんどは思っていた。私たちは何と戦っているのだろう。これは天災ではないのか?そんなことが出来るのは神しかいないのではないか・・・。
しかしエイトの演出は終わらない。次に一時的な暴風が吹き、その次は一時的な豪雨が兵を襲う。しかしダメージを与えるためのものではない。
「あははははー!」
予定通りの演出が終わると、思わずエイトは笑ってしまった。拡声器がついているのを忘れて・・・。しかしその笑い声にすべての敵は怖気づいてしまう。中には腰が抜けて立てないものも居る始末だった。
エイトは感心していた。自分は魔法の初級しか使えない。これほど上級魔法というものは範囲が広く、圧倒的なものだということをエイトは知らなかった。
(敵さんも驚いているけど、僕だって吃驚仰天なんだよな。)
エイトはそんなことを心中で思っている。エイトレンジャーはポーン型からくり人形8体である。レッド、ブルー、イエロー、グリーン、シルバー、ゴールド、ホワイト、ブラックは各一つの属性に特化している。それは火水土風氷雷光闇であった。
「エイトレンジャーが朝から張り切っていたのはこれか・・・。」エイトは呟く。ハナが悪乗りで命名したエイトレンジャーにすっかり感化されているエイトなのであった。
(もう敵はほとんどが戦闘への意欲を無くしている、投降を提案すれば終わりそうなんだが・・・。)
そんなことをエイトは考えていたが、すべては予定通りに進むのであった。
そして炎が飛ぶ、それと同時に敵の背後に広く長い落とし穴の口が開く。炎は穴の偽装をごまかすためのブラフであった。
「だ、だ、大地が割れたー!」「下がるな!」「押すな!!」
どんどん炎は飛びかう、それに怯え、後方に下がったものはどんどん穴に落ちる。戦線離脱であった。敵も準備してあった矢をなんとか射る、壁の上にめがけて!
「火の玉はどこから飛んできてる?!」「わ、わかりません。」「四方八方から飛び出してー!」
しかしそこに居るのは肩から上を模した、かかしであった。かかしは大量の矢弾を回収して役を終える。
「矢は当たっているのに倒れないぞ!」
土中から何やら紐のようなものが飛び出す。それは有刺鉄線であった。脛や腰の高さの有刺鉄線に追われ、穴に落ちるもの。
ねばねばした人間ホイホイに足を取られるもの、泥沼で藻掻いてるもの。既に半数は戦線を離脱しただろうか。
「助けてくれ!沈む!!」「動けん!」「キャー!!」
そして。
「ダンブル・デーン将軍、ブルド・ザ・ハンマ将軍前に出ろ!」
エイトは静かに言い、拡声器はそれを伝える。
「この争いは最初から勝負はついている。ウゼ王、スラット王妃、クセスゴ王子は我手中にある。」
前に歩み出た将軍二人に、エイトは言う。
「八百万神の名においてこの度の沙汰を下す。心して聞け!」
そう言うと将軍二人は、礼の形を取った。右手をグー、左手をパーにして付き合わせていた。近くの国でも文化とはさまざまだなと、エイトは感心した。
「しかと聞き、国に届けよ。王家3名ウゼ、スラット、クセスゴは家名を捨て野に下る。王の代行はピース・アイラ・ブワールド宰相とする。ベスパーラ王国国土は万里の長城より東とする。以上である。」
そしてブルド将軍が言う。
「あなた様のお名前をお聞かせいただけませんでしょうか?」
(え!決めてなかったな・・・。)エイトは手に汗を握っている。
「オレダ。」
「あの・・・聞き取れなかったのですが、申し訳ありません。」
「オレダ!」
ははーと平伏する、ダンブル将軍、ブルド将軍であった。
「くれぐれも約束を違えるな!」
そういってエイトは範囲回復を施した。漏れた場所にはからくり人形たちがフォローした。
その人知の及ばないであろう範囲を回復する魔法は、決定的であった。それがエイトを神たらしめたのであった。
そしてエイトは隠蔽魔法で姿を消した。
次の日、からくり人形たちはこの地を訪れ、人間ホイホイ、有刺鉄線を回収し、落とし穴、泥沼は埋め、痕跡を根絶したのだった。
ダンブル将軍とブルド将軍が最初に行ったのは、早馬の使者へ渡す書状の作成であった。将軍二名と各供集らは頭を突き合わせ、頭を悩ませ書いていく。結果どうなったのか、どういういきさつなのか、事実を書く。それは非常に困難な作業であった。
兵団はというと死傷者はいない、しかし補給物資が足りない。足早に帰還することを余儀なくされた。
一方、ウゼ元王、スラット元王妃、クセスゴ元王子はデスゾーンのあばら家に居た。その家の前には看板が立てられている。この家に住まうものは元王家の人間3名である。無暗に近づくことなかれ!
そしてスラット元王妃は口にする。
「あいつらあ、けじめつけたるきぃ。覚悟しいやぁ・・・。」
そしてクセスゴ元王子は言う。
「おかあはん、何言うとんの。とりあえず生きて行かなあかんのや。親切なアレクはんという人に、このジャガイモもろたんよ。晩飯にするきぃ、剥いといてんか。」
ウゼ元王は叫ぶ。
「どうなっとんのぉ!どうやって帰ればええのよぉ!!」
***
「どうなってるの!?どうやって管理すればいいの!!」
現在エイトはマクジル王国のテルグ領の領主館の執務室に居る。王都の救世主としての褒章である。辺境伯の爵位も授けられたのだが、エイトにとってはありがたくない話であった。
一般的には平民ごときが、貴族に成り上がり、中でも上位に位置する辺境伯である。ちなみにマクジル王国の大きな爵位区分は、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵、大公となる。辺境伯は伯爵と侯爵の間に位置する。
これでエイトは公にして社会的に高い身分を得たことになる。ただこれにはジェイ王がアビー女王との婚約を円滑に進めようとする魂胆もあった。それに高い地位には大きな責任も伴う、所謂、社会的義務である。
現在、直面している問題がそれだ!領地を治めるということ。
「じゃああれだ、僕の領地はテルグ領とベスパーラ王国から奪った全部と言うことなのかな?」
「主、その通りでございます。」
エイトは質問し、キングは答える。
「その中で裁判権、警察権、徴税権、管理権を有していて、国に税と徴兵の義務があるのか・・・。」
そこでエイトは思案する。
「キーちゃん、僕がこの土地を国に返上するとどうなるの?」
「はい主、第一に国は困る。第二に思い直すよう説得。第三に執政官を派遣し形ばかりの領主でしょうか。」
「キーちゃん、僕が思うに代わりの領主が来ると思ったんだが、なぜ、キーちゃんの予想にその案が無いの?」
「はい主、その理由は明朗です。人間皆、死ぬのは嫌なのです。」
エイトは余計に疑問が深まる。そしてエイトはどういうことかと問う。
「はい主、このテルグ家は元々、豪族の首長です。そして国家へ反旗を翻しました。この領地には前領主と懇意のものも多いでしょう、側近、親戚縁者などなど。そやつらが的にするのは新領主になりましょう。
またベスパーラ王国の土地についても同様の理由ですな。血は水よりも濃いと言います。先祖代々の土地に住む。所謂、土着民ほどその傾向が強いと言えますでしょう。そして、」
「もういい!」
エイトは恐ろしくなり話を止めた。
そしてその日の夕食に、眷属である仲間を招いた。
「食べながらでいいので聞いてほしい。一番にみんなに伝えておかないといけないことなんだが、僕は働きたくない!」
そして全員の手が止まり、口は開いていた。
そう、みんなとられていた!呆気に・・・。
しかしエイトは畳みかけて言う。
「もう一度言う、僕は働きたくない!だってそうだろうもし僕が田舎に居たら、ちんちん出しててふてふ追いかけてる年齢だぞ!!」
いやいやいやいやとみんなは表情で言う。
「10歳だぞ、10歳。もしかしたらお母さんのおっぱい吸って、おむつにババもらして、お母さんにとんとんしてもらってゲプして満足して、ババつけたまま寝ているかもしらん!」
みんなの拒絶の表情はより一層強くなった。
「ま、まあ、そこまではないかもだが、だがしかし、15歳!そうだ大人になるまでは働かない!なのでアビーはジェイ王とミッチェル宰相に伝えておいてくれ。第一希望は領地返上で押し通して、ダメなら僕の下で働きたい執政官を用意することだ。」
エイトはアビーをちらと見る。アビーは言う。
「エイトさん簡単なお仕事ですわ。」
「頼む。それとみんなにまず見てもらいたい。」
エイトがそう言うと、キングは隣の部屋を開けた。そこには執務机と10人は掛けれる机があり、その二つの机は手紙や文書類で覆われ、溢れんばかりであった。
「ここに山と積まれた書類は、陳情書であったり、意見書であったり請願である。」
「「「こ、こんなに!」」」皆、騒然とした。
「いや、数は問題ではない。それなりの期間放置されたのだろうし、すべての領地を合わせると1500万人住んでいるのだから、致し方ないだろう。」
「問題は内容だ。延々と続く時候のあいさつに、稚拙で下らん文章。結局何が言いたいのかわからん文章。そういうものを村の長や街の長が書いてると言うところに問題がある。
この領地を返上するにしろ、執政官に委任にせよ。それは4月1日からとする。そしてそれまでにすべての事象にけりをつける。解決する。もちろんここにいる全員に手伝ってもらう。」
みんな、うんうんと頷いてくれる。(なぜかしら?)
「最後に言っておきたいのは、これを送り付けてきた馬鹿なやつには徹底的に教育をする。そしてすべては、マニュアル化する。それで僕はすっきりする。」
これがエイト(さん、様、くん、主)の仕返し?教育って何されんだろう。マニュアル化ってどうなっちゃうんだろう・・・。
みんなざわざわした。
ありがとうございました




