3-9 課外活動
よろしくお願いします
11月の終わり、そろそろ暑い夏がやってくる。今日は11人揃って、歩いて私立ラルウッド学園まで登園した。
そして運動場で並んでいる。ただそれだけで汗が滲む。すこし汗ばむと風呂に入りたくなるエイトは思う。ハナの贅沢病に犯されているなと・・・。
今日は特別な日だ、全校生徒で青少年の家に行くのである。2泊3日の課外活動の始まりの日であった。学園創立当初は、農業体験、漁業体験、植林体験があったそうだが、だんだんと貴族の声が大きくなり廃止になったらしい。
(将来就きもしない、仕事をさせてどうするんだ。という事だろうか?)
そうして王都を出て、現在歩いている。てくてく、てくてく、歩いている。
1クラスには2~4人の護衛がいる。担任、副担任、冒険者であった。もちろん生徒も先生も武装している。道路沿いは比較的安全とは言え魔物が出るのだ。
冒険者と数人の先生は一昨日もこの道を歩いているそうだ。今日のための安全確認と魔物駆除であった。お世話係も大変だなあ、とのんびり歩いているエイトだった。
緊張している生徒も多い、王都から出る機会が少ないせいである。貴族だと自領への移動は馬車に乗り、護衛もつく、平民でも家族の目を盗んで大冒険だ。魔物を子供だけで討伐することなどありえないのだ。
隣にいるアビー王女も緊張している。顔色がいつもより白いのは日焼け止めらしい。なんでも肌は白いのが正義。だそうだ。実のところブレンダン理事長にアビー王女の警護を依頼されている。本人に気づかれず、くれぐれも面子を潰さないようにとのことだ。
エイトはそれは無理だと断ったのだが、最近のブレンダン理事長は平気で頭を下げてお願いしてくるのだった。
アビー王女の後ろを歩いているのはキム。フルネームはキム・ド・ラングフォード。そう近衛兵のケン隊長の息子だった。あの日の翌日は大変だった。そうケン隊長に剣の手合わせをしてもらった日だ。
「エイト、お前親父に何したんだ!」登園して早々、キムは怒っていた。
「いやいやいや、キムの親父とか僕は知らないし。」とエイトは言っていたのだが、キムの話を聞いて納得した。
4、5時間ほど剣の手合わせをしてもらったんだ。とエイトが話すとキムは、エイトも親父も戦闘馬鹿だな、と言う。
エイトくんの太刀筋はこうだったとか、エイトくんはもっと前に出てとか、エイトくん、エイトくんと親父が五月蠅くて、その日の訓練は2時間を超えたんだぞ!いつも1時間もやらないのに!!見ろ!ほら!と言いつつ、潰れた手の豆を何度も見せられた、エイトだった。エイトはこう思った。(飛んだとばっちりだ。)
なんでもアビー王女にはジェフと言う兄がいるらしい。所謂、ジェフ王子である。その兄がマクジル王国王立高等学院に通っているせいで、アビー王女は私立ラルウッド学園に来たのだそうだ。予定としては学園で4年、学院で2年、就学するらしい。
そしてキムはアビー王女の護衛兼目付で6年間、付き合うという。
(みんないろいろ大変だな。)
そんなことを思いながら、暢気に歩いて目的地に進むエイトだった。
*
青少年の家に着いた。
着いて門に入ると点呼を取り、報告をする。その後、各自の部屋に向かった。中央の玄関から入ると右に女子の部屋があり、左に男子の部屋だそうだが、なぜかエイトとキムの部屋は右の2階にあった。なんでもアビー王女の隣の部屋らしい。
「もうだめだ、俺は疲れた。足が、足が・・・。」
そう言ってキムくんはベッドの下の段へ、倒れ込んだ。
「キムくんは魔物を倒したことはあるのかい?」
「ないないない。」
即答だった。しかしエイトは不思議に思う。キムくんを鑑定すると5格となっているのだ。流石、職業欄には騎士とある。そういえばアビー王女にも5格ってあったんだよな。なんだ貴族特典みたいなものか。
*
全校生徒が講堂に集まり、今回のオリエンテーションの説明が始まる。当初、全校生徒270名だったらしいが、不参加もあり講堂に居るのは240名ほどらしい。夏季の長期休暇前に約1割が不登校になるのだそうだ。
労働力を子供に頼る業種も多いため止む無いことかもしれない。
エイトは人が集まる場所は苦手だった。ラルウッド学園内は特にである。というのも決闘以後エイトには素性もよく知らない従者が70人程いる。そのため、憧憬の眼差しや胡乱な目が刺さるのだ。
振り返り二度見する人もいれば、じとっと目を離さない人もいる、なに見てんだよっ!と言って殴りかかる輩の気持ちが少し理解できるエイトであった。
締め切ると人数分の熱気もあるせいか講堂の扉は全開である。そのため虫の鳴き声や野鳥の囀り、木々のざわめきまで聴こえてくる。それに負けない声で教官の説明は続いている、オリエンテーションの趣旨説明や目的、参加意義など話しているが誰か聞いているのであろうか?
教官の声がだんだんと雑音になり、瞼の重さに抵抗できなくなり、船を漕ぎ出すエイト。
雑踏で目を覚ます頃には、グースとテレストに両の脇を抱えられていた。
「いちのえーくらすのはんわけは8人、8人、7人の3班です。」
(班分けがあるらしい。僕は7人の班でメンバーはアビー・ウィン・ステイプルトン王女、キム・ド・ラングフォード、クレイグ・アイゼンブルグ、カリス・イートン、エイト、ハナ、グース)
どうやら回復魔法が使える、エイト、テレスト、ゾヤは別の班で水魔法が使えるハナ、テレスト、ドーリスも別れて、いい感じの組み合わせとなっているらしい。
ちなみにマクジル王国の軍隊の最小単位が分隊であり、これが8名以下となっている。寝ていたエイトはこれから何をやらされるのか知る由も無かったが、とても気になることが起きていた。
班分けに記されている名前、クレイグ・アイゼンブルグいつかどこかで見た。
「マクジル王国王立高等学院の図書館だ。」
エイトが発した言葉に、なに?と振り返る人もいたが、エイトは気にならない。
(そうだそうだ、そうだアイゼンブルグ共和国、最後の国王だ。現在のデスゾーンに存在していた国、滅亡した国、それがアイゼンブルグ。話をしてみたいがここは目立ちすぎる。今はダメだ、ダメか、ダメだろ。)
「やあ、クレイグくん、同じ班だな。」エイトは好奇心に抗えない、そういうやつだった。
「あ、あぁ。よろしくお願いします。」
貴族にあるまじき、低姿勢な奴だった。
「なあクレイグくん、少し話してもいいかな?」
「あ、あぁ。もちろんだよ、私なんかで良ければ。」
そしてエイトは根掘り葉掘り聞くのであった。
わたしはマクジル王国で生まれたから、聞き伝えだけどね。と話すクレイグくんの話は面白かった。
祖父と同姓同名なんだそうだ。父母はこの国へ逃げ、祖父は国と共に逝った。
マクジル国王の温情や赦免復権の意もあり、爵位を2代に渡り叙されたのだそうだ。父親には貴族地位への執着も無く、なるべくなら平民として平穏に暮らしたいのだそうだ。
2代目3代目の世襲貴族には財はあるが無能、1代貴族は能力はあるが貧乏、そんな世論が囁かれていた頃だった。
土に含まれる水が煮えたぎる。父の体験したデスゾーンはそんな現象だったそうだ。地竜が地中で炎をまき散らし暴れている。そんな流言が飛び交い、兵は挙って穴を掘り海水を流し込んだという。
直接親父さんと話したいと思うエイトだったが、そんな気持ちを察してかクレイグくんは言う。
「しかし珍しいな、同年代でアイゼンブルグに興味がある子がいるなんて、父に会って聞いてみるのがいいのでは?父も喜んで話すんじゃないかな。ははは。」
最初こそ、どこかの国の調査なのか?なんでそんなこと知りたがる?と、胡乱げな目で見るクレイグくんだったが、知り合いがデスゾーンにいて心配なんだよ。と言うエイトに同情していた。
クレイグくんはとてもいい奴だった。否、他の貴族の連中が裏表があり、ギラギラとした野心家が多いせいか。クレイグくんは砂漠の中のオアシスのようなやつだった。
「エイト!クレイ!さぼってると勝手に役割決めちゃうわよ!」
そう叫ぶハナは仁王立ちだった、すこしお怒りの様子だ。
(クレイって呼び捨てで、略する感じの仲なのかよ!)
(流石ハナだ。)感嘆するエイトであった。
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