1-2 山あり谷あり
よろしくお願いします。
「うっせーなぁ、、、それじゃあ僕が行こうか?」
教会の玄関、ハナさんと客の問答に割り込み口を開いたのは、寝ぼけ眼のエイトだった。
『ハナさん』とエイトは呼んでいる。
教会にいる同い年3人のうちの1人である。長い緑の髪をいつも束ねている、綺麗な顔立ちをしているのにエイトは苦手だった。話していると怒ったように捲し立てるからだ。
(ゲン爺が死んでもう2日も経ったのか、まだ2日?ずっと布団の中で過ごしてた。だってゲン爺がいないとすることが無いんだ。仕方ないじゃないか、こんなの聞いてないし、教わってないよ。)
「エイト馬鹿なの?何言ってるのよ!あんた解ってるの??あのね・・・」
(同い年のハナさんがいつも以上に怒ってる。僕も解ってるよ、あの優しかった兄ちゃんが帰ってこなかったことは・・・。覚えてるんだ。)
「五月蠅いだと!ガキが馬鹿にしてるのか!!」
エイトは一目見て思った、
(馬も鎧着て人語話すのか・・・。しかし猫人のように耳が頭上についているわけでもない。ちゃんと人間の耳が顔の左右に普通についている。よくよく目を凝らしてみると、なるほど彼がキング・オブ・馬面!今後、彼のことは馬面兄貴と呼ぼう。)
(しかしこの馬面兄貴、年は二十歳。色や大きさがいかにも不揃いな革製防具を着込んでいる。暗がりの中、足が6本?ケンタウロスなのか。)
「あーごめんなさいね。僕はお兄さんたちに話してるんじゃないので・・。内々で話しまとめるんで静かにしてもらえると助かります。」
「静かにしろだと!ふざけんな!!」
と馬面兄貴の背後から、いかにもチンピラな顔が3つ出て来た、そしてチンピラズは切れていた。
(なんだケンタウロス期待してたのに興味失せたな。)とエイトは思った。
ガヤガヤしていたが、すこし静かになったのでエイトは話始める。
「いいかいハナさん。神父がいなくなって教会も無くなったのに、お兄さんたちがお願いしに来てるんだよ。」
「常識人なら来れないよ。よっぽど人脈が無くて困ってるんだよ。だからあ、僕みたいな暇人が手伝ってあげないとねー。」
そう言ってエイトはハナさんにニッと作り笑いして見せた。
「あんた絶対生きて帰れないわよ。いいの!?」
ハナさんはエイトを睨みながら小さくそう言った。
まあ実際の話、調査2日前になって人集めをしているのだ。
いくら貰ってるのか知らないが、不足があればマクジル王国も黙ってないだろう。少々挑発しても、参加する人間に手出しは出来ないだろう。という打算がエイトにはあった。
そんなことをきっかけとして、エイトの未来が変わることなど思ってもいなかったのだ。
毎年、春と秋にマクジル王国から小隊がやってくる。
死の土地の調査である。死の土地が広がりつつあるという話は有名だ。過去にも一つの国が無くなっているのだから、隣国としてもそれだけ脅威なのだ。
この街からは案内と荷物持ちとして10名ほどが同行するのである。一昨年の調査で兵士と現地人合わせて4名が行方不明となった。
それ以降、マクジル王国でも注意喚起し、人員も倍増されているのだが、やはり行方不明者を出した影響は大きい。僅かな金額で命を懸ける現地人は皆無なのだ。
出せ、出さないという水掛け論の嫌気と、エイトの説得もあり、やむなくハナさんも譲歩するしか無かったようだ。
ハナさんの怒りが静まって説得が成功したころ、馬面兄貴一派は、皆、顔を真っ赤にしてお怒りであった。
のらりくらりとしたエイトの態度と、たまに小馬鹿にしたようなエイトの言動はハナさんにとっても冷や汗ものだったようで。ハナさんが寝るまでの2時間、ハナさんのお小言は止むことがなかった。
***
それから2日が過ぎ、調査の出発の日である。
空は青く雲がない。早朝だというのに随分暖かくなった。路傍に雪は残っているものの、開けたところでは雪が解け水になり、水蒸気が立ち込めている。
今朝起きてエイトは後悔していた、ゲン爺と言う大切な人が亡くなってやけになっていたようだ。
(僕よりもっともっとしっかりした兄ちゃんだって、兵士の大人達だって事故に遭ったんだ。僕なんて・・・。)
どこかおどおどしながら、集合場所に着いたエイトは驚いていた。整列している兵士さんは皆、汗ばんでいたからだ。汗を吸って色が変わったシャツが革鎧の隙間から見え隠れして、、、
(臭そう。)
エイトはそう思った。エイトが後ろ髪を引かれつつ歩いてた頃、彼らは訓練していたのだ。
エイトは重い足を引き摺って、恐る恐る近づき、それらしい集団の最後尾に立っている。
(やっぱり、僕が一番小さいんじゃ。こいつには無理だ!とか誰か言ってくれないかな。)
(あの人が隊長さんなのかなぁ、前に出て聞いたこともないような大きな声で何か言っている。ゲン爺も声は大きかったが、年少の子供たちが泣くので地声のボリュームを下げるのに苦労してた。)
対照的に大声隊長以外の29人は、大声に気圧され、張りつめられた緊張感と静寂の中だった。
「今日から一週間、この小隊の指揮を執る、ユーリ・ランドルフだ。この小隊は騎士団から20名、民間人から10名の計30名から成っている。」
大声隊長とは違った声がした。声の大きさこそ抑えられているが、それでもよく通る覇気のある声だ。
隊列の隙間から見える風貌は、金髪なさらさらヘアーで気品のある顔つき、装備のところどころには青があしらわれた高級品に見える。
年齢は20歳代後半だった。(・・・かっこいい!)
そのあとまたさきほどの大声副隊長に替わり、行軍時の班分けや諸注意を聞き、移動が始まった。
エイトの仕事は背負子の荷物を運ぶこと。約30キロ・・・
去年測ってもらった身長130体重30、、、
(僕と同じ重さ、いけるのかな?)
エイトが最年少ということもあり、親切でガタイのいい女兵士さんが補助してくれることとなった。やっぱ行くんだ、、、と態度とは裏腹に嘆いていた。
ガタイのいい女兵士さんは、とてもいい匂いがした。エイトは少し頑張れる気がした。
***
「なんですか?横殴りというのは??」
ガタイのいい女兵士のカリナさんは答えてくれる。
「他人の獲物にちょっかい出すことだな、エイトは魔物と戦闘したことないのか?」
なんでも魔物は倒すと、格上げポイントが稼げるらしく、仲間が倒した魔物でも攻撃行動をとっておけば、均等に配分されるらしい。
エイトにとって、それはそれは魅力的なお話であった。近い歳の子ですでに魔物を倒した子もいた、自慢してくるのが羨ましくもあった。
でもだめだった、教会の子は禁止されていた、ゲン爺から厳重に。
ただ、他の班の獲物に手を出すのはマナー違反なので、第四班の獲物だけにしなさいと注意があった。行軍の間、2時間に1回のペースで戦闘があった。
獲物に投石、ナイフで攻撃、魔法で攻撃などをした。ただ、エイトの場合、ナイフで攻撃に行くと「あまり近づくな!」と怒られ、水弾で攻撃すると「強めの攻撃はやめろ!」と怒られた。
(はい、僕は投石専門です。)
カリナさん曰く、どれだけ格が上がったか確認するには、鑑定士に観てもらったり、水晶で測ったりするのだそうだ。
「鑑定?」そうこの言葉でエイトの心臓は高鳴った。ゲン爺の貸してくれた杖と指輪を思い出したからだ。
ゲン爺は言う。
「最近、杖も指輪も使う機会が無いからな、魔法を使うことが出来るのもエイトだけだし、形見分けだと思って大事に使え。ただ必要があれば借りるかもしれん。」
「あと両方、魔道具だからな、他人に見つかると奪われるやもしれん。お前さんが奪われない力を、つけるまでは人目につかないようにな。」
杖の効果が魔素節約と、指輪は鑑定である。最初の頃、魔法の訓練でエイトの魔素はすぐに尽きていた。杖で魔素使用量を抑え、指輪で残量を確認していたのだ。
(なんか魔道具って聞いて、ビビッてすぐ鞄の奥にしまってたなぁ・・・。どんだけ格が上がったのか見てみたいけど人が多すぎる。)
「どうしたエイト?戦闘後の魔石集めも手を抜くな!」
「はい、すみません。」
そうして次の日、太陽が高い時間、調査地の数十メートル離れた位置にキャンプすることとなった。
大きくため息をつくもの、疲労から腰を下ろすものいろいろであったが、皆気を緩めていた。
エイトはというと「もうちょっと格上げしていたかったなあ。」と名残惜しそうにしていた。
「天候の崩れも無いし、建造物は崩壊の危険に加えて、魔物の死角にもなるから離れろー。周りが見渡せるこの開けた場所で、キャンプにするぞ。」
そう言われ、エイトは背負子を指定された奥の物資置き場の位置に降ろし、大きな息をひとつ吐く。
その瞬間だった、その場所の空気が変わった。
視線の先で武器を構える兵士さん達を見て、エイトは、また格上げ出来るぞと、ビビりながらもすこし喜んでいた。
「ちっまたか、餓鬼、お前の仕事は魔物を引き付けることになったから。」
(またか?)
その声でエイトは、顔をあげ、見る。
馬面兄貴の薄ら笑いがひどく悍ましかった。そしてエイトはいくつもの背負子の下敷きになっていた。
(馬面兄貴、なんで荷物倒してるのよ!しかも僕にめがけて、、、)
いくつかの背負子や物資の塊がドンッ!ドンッ!とエイトの上に覆ってくる。
「ウグッ!」と呻きを漏らし、次にエイトの目に入ったのはでかすぎる犬。実際のところ犬かどうかもわからなかった、ただエイトの目にそう映っただけだった。
見上げると数メートル上に顔がある。
(逃げないと!)
(あーあーあー、やっと理解が追いついた。またかと言ったこと、魔物を引き付ける仕事、馬面兄貴の笑み、迫りくる大犬、荷物で動けない僕。
しかし、またかというのは前も同じことをした、前も大犬に襲われた。むむむ。まあいい、前の4人も全部、馬面兄貴のせいにしよう。簡単でいい。)
恐れ怯むよりも腕が動いた。自由になるのは左腕、他の手足は布団巻きのように動かない。左腕で荷を持ち上げ、体全体を蛇のように動かし足を引っ張りだすこと数回。
実際のところエイトと大犬には距離があったのだが、エイトにとっては絶体絶命の大ピンチだった。
(もしや僕にまだ気づいてないのか?)
その大犬が兵士たちに視線を向けた瞬間、エイトは視線から遠ざかるように、反対方向に駆け出す。
(ええっ!2匹目の大犬!?)
(見えてなかったあああ!)
死角から2匹目の犬の前足と牙がエイトに迫る瞬間、建造物に転がり込んでいた。
ほんの瞬間のことだった、明るい太陽の下から建造物に入り、その薄暗さに目が慣れる。見たものは木造のあばら小屋である。エイトの顔はさぞ引きつっていたことだろう。
(こんなあばら小屋、あの大犬なら一蹴りで吹き飛ぶ。)
エイトは、そう思うや否や奥へ走り、生きる道を探していた。
その後、最奥の部屋で地下室を見つける。安全確認などする余裕もなく飛び込むと、そこに床は無かった。踏板が腐っていた?
この下なら逃げ切れるのか?そんなことを考えつつ。落ちていくエイト。
(このまま死ぬのか、まあいい死んだら馬面兄貴に化けて出る。生き延びたら馬面兄貴に仕返しする。いい考えだ。)
そんな思考を巡らせている中、意識を手放した。
お読みいただきありがとうございます。